第六十一話:フェルの機転
受付があるのはそれなりに広い建物だった。
中に入ると、病院の待合室のようなものがあり、何人もの人達が椅子に座っている。
受付に行くと、番号札のようなものを渡され、しばらく待つように言われた。
どうやら順番に処理しているようで、ここにいるのは全員待っている人達のようだ。
なんかほんとに病院みたいだね。
しばらく待っていると、この建物の職員と思われる女性がやってきた。
「すいません、もしかして、ダンジョンは初めての方ですか?」
「いや、以前に潜ったことはある。こいつらは初めてだがな」
女性の質問に二クスはそう答える。
へぇ、二クスはダンジョンに潜ったことがあるんだね。
でも、そうでもなきゃダンジョンで修行しようなんて考えないか。
人の世界では有名な冒険者らしいし、ダンジョンの一つや二つ行ったことがあっても不思議はない。
「そうでしたか。でしたらご存知かと思いますが、ダンジョンに入れるのは冒険者か、国の許可を得た者だけです。そちらのお嬢さんはまだしも、こちらのお嬢さんは許可を得ているようには見えませんが……」
門番が言っていたことをここでも言われる。
さて、二クスはどう切り抜けるのかな?
「見た目で判断するな。こ奴はそこの小娘とほぼ同じ年だ」
「そ、そうでしたか。それは失礼しました」
二クスがぎろりと睨みながら言うと、女性は少したじろいだ。
まあ、間違いではないけど、それだとただの脅しだよね? 根本的な解決になってないような気がするんだけど……。
「でしたら、失礼ですがギルドカードか許可証を提示していただけますか? この後改めて確認いたしますが、念のため」
「必要ない。我はSランク冒険者二クスだ。こ奴の安全は保障されている」
「いえ、でも規則ですので……」
「貴様、我では力不足だと言いたいのか?」
「そ、そういうわけでは……」
なんか雲行きが怪しくなってきた。
この場を切り抜けるには冒険者の証であるギルドカード、または国からの許可証を提示する必要がありそうだけど、俺はどちらも持っていない。
このまま二クスの機嫌が悪くなれば本気で強行突破してしまいそうだし、そうなると面倒なことになる。
どうしよう、ここで騒ぎを起こしたらダンジョンに入れなくなっちゃうぞ?
「あ、あの、この子はポーターなんです!」
と、そこでフェルが割って入る。
ポーターって、荷運び人だよね。確かにそれなら冒険者である必要はないだろうけど、許可証は結局必要なんじゃないだろうか。
そう思っていたのだけど、女性はなんだか納得したような顔をして少し同情したような目線を向けてきた。
「なるほど、そういうことでしたか。ですが、そういうことならここではなく別の場所で待機させていた方がよいかと。私のように寛容な人ばかりではありませんので……」
そう言って、女性は去っていった。
えっと、どういうこと?
「なんだかよくわからないけど、うまくいったね」
「う、うん」
「なるほど、そういうことか。貴様も少しは機転が利くようだな」
「あ、ありがとうございます?」
フェルの様子を見る限り、本当に出まかせで言った可能性があるけど、二クスはなんだか納得した様子。
ポーターだと許可いらないのかな。それだったら確かに納得してくれた理由にはなりそうだけど。
「どういう、こと?」
「貴様も見ただろう、露店ではなく、直接話しかけて売り込んでくる子供がいたのを」
確かに、この建物に入るまでしばらく並んで待っていたが、その時に何人かの子供達が冒険者に声をかけているのを見た。
てっきり露店の売り込みをしているのかなと思ったけど、どうやらそう言うわけではないらしい。
「奴らは恐らく非合法のポーターだ。大方、金がなく、切羽詰まった子供が金を稼ぐためにポーターを名乗り出ているんだろう。そして、それをここの奴らは黙認している。だから、ポーターには許可が要らないんだろう」
本来なら、ポーターは力のある大人がやるものだろうけど、貧しくてお金を稼ぐ手段がない子供達がお金を稼ぐために利用しているのがポーターという職業らしい。
力仕事だし、ダンジョン内は危険ではあるけど、道中は冒険者が守ってくれるし、素材を運ぶだけでそれなりの金額を貰えるとなれば当てにしてもおかしくはない。
もちろん非合法ではあるけど、大人達も子供がそうしなければ生きていけないことを理解しているから手を出さず、こうして許可を得ていなくても通してくれるということらしい。
「んー、せちがらい」
子供達が働く場を用意してくれていると考えるといいことなのかもしれないけど、非合法であるということは報酬を踏み倒されても文句を言えないということでもある。
正規のポーターはきちんと契約料を取り、さらに持ち帰った素材を換金したらその一部を渡すようだけど、子供のポーターはそんな契約を持ちかけられるわけもない。
そりゃそうだ、後ろ盾がないのだから。
もしかしたら、物凄くこき使った上で報酬も払わずに行ってしまう冒険者もいるかもしれないし、もしかしたらダンジョン内で置き去りにされたり、囮に使われたりとかするかもしれない。
そう考えると、割に合ってないよね。
何とかしてあげたいところではあるけど、ここで一人や二人の子供を救ったところで意味はないだろう。もし何とかするとしたら、もっと安全で確実な働き先を用意するか、そもそも孤児にならないようにこの町を改革することくらいである。
そして、俺にはそのどちらもする手立てはない。
残酷ではあるけど、これはどうしようもないよね……。
「とにかく、これで貴様も入れるだろう。まったく、面倒な規則を作ったものだ」
「二クスさんが前に潜った時は何もなかったんですか?」
「露店はあったが、このような建物はなかった。まあ、強欲な人間どもが考えそうなシステムではあるがな」
二クスが以前にダンジョンに潜ったというのはもう数十年も前のことらしい。
そりゃ、そんなに昔ならまだシステムが出来上がっていなくても仕方ないかもしれないね。
「さて、白竜の。あの女も言っていたが、すべての職員が黙認しているわけでもなさそうだ。貴様はしばらく外で待っていろ」
「あ、うん」
まあ、これは仕方ないだろう。
このままついていって別の職員に見咎められても困るし、しばらく外で待っていた方がいいか。
俺は椅子から立ち上がり、外へと向かう。
フェルが心配そうに見ていたけど、俺だって子供じゃない。いや、子供だけど、少し外にいるくらいは大丈夫だ。
外に出ると、相変わらず賑わっている。
言われたからよくわかるけど、確かにポーターらしき子供達は結構いるようだ。
できることなら何かしてあげたいけど、今は見て見ぬふりをするしかない。
俺は適当に離れてから端っこに腰かける。
さて、いつまでかかるかね。
俺は賑わう景色を見ながら、ぼーっと待つことにした。
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