第五十九話:お風呂に入る
ご飯を食べて、お風呂にも入って大満足で部屋へと戻る。
お風呂に関しては、本来は魔道具と呼ばれる魔力を使って動く道具を使って温める仕様だったようだが、現在は取り外されていて水は自分達で温めるしかなかった。
でもまあ、そこは火魔法のエキスパートであるニクスがいる。かなり渋られはしたけど、何とか説得して水を温めてもらい、俺は十数年ぶりにお風呂に入ることができた。
やっぱりお風呂はいいよね。命の洗濯とはよく言ったものだ。
いやまあ、前世の環境を考えればこの世界に転生したこと自体が命の洗濯と言えるかもしれないけど。
唯一の誤算だったのは、フェルが俺が一人でお風呂に入るのが危ないと思ったのか、一緒に入ってきたことだろう。
湯船でまったりとしていたらいきなり扉が開いて裸のフェルが入ってきた時はびっくりしたものだ。
いくら今は女性とはいっても、流石にいきなり女性の裸を見せられたら動揺するのは元男として仕方がない。
まあ、言うほど興奮はしなかったけど……やっぱり女性になったから? それともドラゴンだから人間には欲情しないんだろうか。
フェルを相手に襲い掛かるようなことはしたくないからそれでいいんだけど、なんか複雑な気分である。
「ルミエール、どうしたの?」
「なんで、いっしょ?」
どたばたとお風呂を過ごした後、新しく服を生成してあらかじめ決めておいた部屋へと向かったのだが、なぜかフェルまでついてきて一緒にベッドに入ってきた。
おかしいな、確か二クスが部屋は一人一部屋だと言っていた気がするんだけど。
確かに今の俺はかなり小さいから一緒にベッドに入ったところで十分に余裕があるけど、なんでナチュラルにベッドに潜り込んでるんですかね?
「ほら、ルミエールが寂しいと思って」
「……こども、ちがう」
「いや、子供でしょ?」
いや、確かに見た目的には子供だけども。
一応これでも年齢的にはフェルと同い年くらいだからね? そんなに変わらないからね?
思わず頬を膨らませてしまう。フェルはそれをにこやかな表情で見つめ、頭を優しく撫でてきた。
……まあ、別にいいか。前世の姿だったら事案だろうけど、今なら何か問題が起こるはずもないし、フェルがそうしたいなら好きにさせてあげよう。
「お休み、ルミエール」
「おやすみ」
お互いに目を閉じて、寝る体制に入る。
音が聞こえなくなると、今までの出来事が頭に浮かんできた。
あの町を離れたことに後悔はない。あれが町の人達を守る最善の方法だっただろうし、ドラゴンが人間の町に安易に近づく方が間違いだったのだから、それが正されたと思えばいい。
だけど今、俺はまたこうして町の中に、それも人間としている。
フェルと一緒に旅をする以上、町にも立ち寄ることはあるとわかっていたはずだけど、なんだかんだでこの一か月ほどはずっと野宿だったし、あまり実感が湧いていなかった。
案外、町に近づかなくてもフェルと一緒に暮らしていくことは可能だと思っていたんだけど、こうして町に入ってみると、やっぱりここの暮らしもいいなと思ってしまう。
この十数年で野生での暮らしにはすっかり慣れてはいると思っていたけれど、やはりどこかで人の暮らしを望んでいるのかもしれない。
フェルは俺と一緒に暮らすために修行しようとしてくれている。それはすなわち、フェルは人としての生活を捨てようとしているとも言える。
俺としてはそれは嬉しいことだけど、本当にそれでいいんだろうか?
俺は今、こうして人間の姿になることができるようになっている。もちろん、常に魔力を消費する関係上、定期的にドラゴンの姿に戻る必要はあるだろうけど、こうして人の姿で一日を終えられる以上、それはそこまで頻繁なものではないはずである。
であれば、俺が人間として暮らすことも可能なのではないか?
そうすれば、フェルは人間をやめずに済む。すべてを捨て去って俺の下に来る必要はない。
……こんなこと言ったらニクスにどやされるだろうな。
どちらがいいのかはわからないけど、フェルが強くなること自体は間違いではないだろう。
ニクスが証明しているように、強さがあれば人としても魔物としても暮らすことができる。それに、強くなれば死ににくくなるということでもあり、それは結果的にフェルの命を守ることに繋がるだろう。
今はこのまま、フェルを鍛えることに注力すればいいかな。
「ふわぁ……」
あれこれ考えていたら眠くなってきた。
フェルはすでに寝ているようで、穏やかな寝息が聞こえてくる。
明日は早いだろうし、俺も早く寝るとしよう。
そう思って、俺は意識を手放した。
翌日。目を覚ますと、俺はフェルに抱きしめられていた。
おかしいな、寝る前はきちんと隣で寝ていたはずなんだが……。
軽く手を動かしてみるが、かなりがっちり抱きしめていて容易に外せそうにない。
いやまあ、強引に外そうと思えば外せるだろうけど、それだと起こしちゃうよね。
どうしようかな。こんな状況は初めてだからどうしたらいいかわからない。
選択肢としては、このままフェルが起きるまで待っているか、もう起こしてしまうかだろうか。
ちらりと窓の方を見てみると、朝日が差し込んできている。時間的には多分ギリギリ朝早くと言える時間じゃないだろうか。
うーん……。
「……はぁ」
まあ、起こすのも悪いし、しばらくこのまま待っていようか。
俺はため息をついて再び目を閉じた。
しかしその時、バタンと扉が開く音が聞こえて、思わず飛び起きてしまった。
「ひゃっ!? な、何!?」
「まだ寝ていたのか寝坊助め。早く朝食の準備をしろ。我を待たせるな」
入ってきたのはニクスだった。
同じように飛び起きたフェルに、二クスは不機嫌そうにそう告げると、さっさと部屋を出て行ってしまう。
びっくりした……。ちびるかと思ったよ。……ほんとにちびってないよね?
ベッドを確認してみたが、別に濡れてはいなかったので大丈夫そうである。よかったよかった。
「えっと、おはよう、ルミエール」
「おはよう」
フェルはしばらくの間放心していたが、俺のことを抱きしめていたことに気づくと、ようやく解放してくれた。
なんか叩き起こされる形になったけど……まあ、早起きは基本だったし別にいいか。フェルがちょっと可哀そうだけど。
「いこ」
「うん。そうだね」
ひとまず、早いところ朝食を作らないとニクスが怒りそうなので手早く行動に移すことにした。
リビングに降りて行ってみると、そこには二クスがソファに座っていた。
それはいいのだけど、なぜかその傍らには何人かの男性が伸され、山積みにされていた。
え、誰?
「来たか。貴様はきちんと起きられるだろう。一緒にいたならさっさと起こせ」
「あ、うん……えっと、だれ?」
「こ奴らか。昨日の夜にこの住処に忍び込もうとしていたから適当に倒しておいた。犯罪者を衛兵の詰所に持っていくと多少の金が貰えるからな、小遣い稼ぎにはちょうどいい」
どうやら泥棒? らしい。
なんでこの家を狙ったのかは知らないけど、相手も運が悪かったなぁ。寄りにもよってニクスを相手にするなんて。
可哀そうではあるけど、別に死んでいるわけではないし、泥棒しようとした彼らの自業自得なので別に同情はしない。
家賃が結構高額だし、稼げる時に稼いでおかないといけないしね。
俺は心の中で合掌しつつ、フェルの準備ができるのを待った。
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