第五十七話:お金の価値
そういえば、ニクスはSランク冒険者として有名らしいけど、メルセウスは全然そんなこと言っていなかったよね。
フェルの話だと、あそこは辺境ではあるけれど、冒険者をとても大切にしていて、他の冒険者ギルドの情報もよく流れてくるらしい。
普通の冒険者はともかく、ギルドマスターであるメルセウスなら知っていてもおかしくはなさそうだけど。
「奴も少しは勘づいていたようだったがな。確証を得られなかったんだろう」
ということらしい。
まあ、確かにニクスは今のようにちゃんとした服装ではなく、ぼろ布のような服を纏うだけのスタイルのようだったから、高名な冒険者とは思わなかったんだろう。
というか、きちんとした服も出せるんだったらいつもそうすればいいのに。
ニクスの人姿は割と胸も大きくてちゃんと服を着てくれないと目のやり場に困るのだ。
今は皮鎧と緋色のマントを着た冒険者スタイルなのでいいけど、そんなに面倒なのだろうか。
自分でやってみた感じ、別にそこまでの労力にはならないような気がするんだけど。
「さて、着いたぞ」
そうこうしているうちにギルドへと辿り着いた。
あの町のギルドと比べて結構大きい。
まあ、あちらは辺境で、こちらは内陸の町である。さらに言うなら、ダンジョンで生計を立てている町なので冒険者の需要が高く、そのせいでギルドも大きくなっているのだろう。
中へ入ってみると、様々な冒険者が言葉を交わしており、なかなかに賑わっている。
あの時はギルドの雰囲気とか全然感じられなかったけど、こんな感じなんだね。
「素材を買い取ってもらいたい」
二クスは早速カウンターへと向かうと、ぶっきらぼうにそう告げる。
受付の人はてきぱきと受け答えをして、素材の提出を求めてきた。
フェルが素材を出すと、受付の人は少し驚いたような表情を浮かべる。
「えっと、これはあなたが狩ったので?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「い、いえ、グランドウルフの爪なんて久しぶりに見たものですから……」
どうやら、ニクスが狩った獲物は割と強い部類に入るらしい。
そんなに強かったかなぁ。俺も一緒に狩ってたけど、そんなに抵抗されることもなく倒せたんだけどな。
いやまあ、こちとらドラゴンだし、多少強い程度の魔物じゃ歯が立たないか。ニクスだって幻獣種の中ではかなり強い部類に入るようだし。
「御託はいい。それで、買取価格は?」
「あ、はい。では……このくらいで買い取らせていただきますが、いかがでしょうか?」
そう言って金額が提示された。
俺は背が低いので見せられた金額がどのくらいかはわからないが、ニクスは特に反論することもなく、その値段で交渉が成立したようだ。
結構強い魔物の素材だったらしいし、それなりの額にはなったのかな? まあ、足りなければまた狩って来ればいいだけの話だし、ダンジョンには魔物もたくさんいるようなので問題はないか。
「いつかは、私もあれくらいの魔物を狩れるようになるのかな」
回収されていく素材を見ながら、フェルがそんなことを独り言ちる。
魔物にはそれぞれランクがあって、冒険者は自分のランクに見合う魔物を狩ることが推奨されているらしい。
フェルはCランクパーティとして登録されているが、フェル自体の実力はそこまで高くはなく、せいぜいDランク程度であるとのこと。
冒険者のランクはF~Sまであって、Sに近づくほど実力のある冒険者ということになるらしい。Dランクは駆け出しを卒業した程度の実力らしいので、成人したばかりのフェルなら確かにそれくらいなんじゃないかなと思う。
そう考えると、ニクスのSランクって相当高いんだね。いや、正体を考えると当たり前っちゃ当たり前だけどさ。
「なれる、きっと」
「そう? ありがとね、ルミエール」
「んっ」
実際行けるかどうかはわからないけど、師としては最高峰の二クスがついているのだから可能性はある。
少なくとも、Aランクくらいにはなれるんじゃないだろうか? Aランクがどの程度か知らないけど。
「終わった。行くぞ」
「はい」
「おー」
ギルドでの用事も済んだので、俺達はギルドを後にする。
外に出ると、少し日が落ちてきていた。日没までにはまだ時間があるけど、今の季節だと日没も早いので、早めに宿を見つけなければならないだろう。
そう思って宿街を回ってみるが、流石有名な迷宮都市ともいうべきか、各地から集まった冒険者などによって宿屋は大抵いっぱいだった。
「どこもいっぱいですね……」
「うん」
安い宿はもちろん、高級宿も貴族などがダンジョンに挑むために借りているのか、空きはなかった。
うーん、ここまでとは思わなかったな。一部屋くらい空いていてくれてもよかったと思うんだけど。
「仕方がない。少し遅いが、借家の方を借りる。それなりの金は手に入ったしな」
借家は宿と違って月に決められた家賃を払うことによって借りることができる。
借りる際には契約金としてそれなりの額を取られるので、すぐに借りるのは難しかったはずだが、思った以上に稼げたこともあって初めからこちらを狙うようだった。
思ったんだけど、この世界の通貨ってどうなってるんだろう?
ニクスは布袋のようなものを受け取っていたけど、形状からして多分お札ってわけじゃないよね。
「気になるなら貴様が持っていろ。種類については小娘に教えてもらえ」
そう言って、布袋を投げ渡してきた。
中を開けてみてみると、そこには金色と銀色の硬貨がかなりの枚数入っている。
なるほど、こういう形なのか。価値がどれくらいかは知らないけど、お札はなく、すべて硬貨で賄われているらしい。
それ、日常生活ではともかく、家とか高額なものを買う時に苦労しそうだよね。置き場所にも困るだろうし。
それとも、金庫みたいな部屋があるのかな? 金貨が大量に詰まれた部屋とかなんか凄そう。
「フェル」
「うん、今教えるね」
そう言って、フェルはお金についてを教えてくれる。
この世界には、金貨と銀貨、そしてここにはないが、銅貨というものがあり、さらにそれぞれの小さいサイズである小金貨、小銀貨、小銅貨というものがあるようだ。
聞いている限り、小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨の順に価値が高く、小銅貨が1円、銅貨が10円という風に十倍ずつ価値が上がっていくようだ。
それなりにわかりやすいかな?
「こんな感じだけど、わかった?」
「ん、たぶん」
「そっか。ルミエールは賢いね」
「むぅ……」
フェルはニコニコしながら俺の頭を撫でている。
なんというか、この姿を見せてからフェルの態度がかなり変わったような気がする。
別に嫌われたとかそういうのではないけれど、なぜかめちゃくちゃ優しくなったのだ。
いや、理由はわかっている。この姿のせいだ。
フェルは大体身長150センチメートルくらいに見えるけど、対して俺の人間姿は100センチメートルもない。
つまり、フェルからしても俺の姿は子供も子供であり、それ故に可愛がりたくなるんだと思う。
別にそれが嫌というわけではないけど、以前は何となく同い年に話しかけるような距離感だった気がするだけにちょっと複雑である。
別にいいけどさ……いいけどさー。
若干むくれながらも、俺はフェルの手を止めることはしなかった。
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