第五十六話:新たな町
第三章、開始です。
ニクスに案内され、北へと飛ぶこと一か月ほど。俺達はとある町に辿り着いた。
迷宮都市ザナディエル。ダンジョンと呼ばれる迷宮によって栄えている町らしい。
ダンジョンというのは、世界各地に存在する迷宮のことで、そこには大量の魔物とお宝が眠っているらしい。
どういう理屈か、魔物やお宝は倒したり回収したりしてもしばらくしたら復活するようで、ダンジョンは貴重な無限に資源が手に入る場所として国に管理されているらしい。
ここに来るまでの道中で聞かされたけど、なんだかゲームみたいだよね。
それで、なぜこんな場所に来たかというと、フェルを鍛えるためだ。
ニクス曰く、フェルをドラゴンの生活に順応させるためには、まずはとにかく強い体を作ることが重要らしい。
フェルは現在16歳らしいのだけど、背が低く、筋肉もそこまでついているわけではない。これでは到底一緒に暮らすなんて無理な話で、だからこそ多くの魔物と安定して戦えるダンジョンで経験を積ませようということだった。
レベル上げみたいなものかな? 実際現実で魔物を倒しまくったら体が強くなるかは知らないけど、確かに立ち回りとか戦闘面においては結構慣れてくるだろうし、力もつきそうではある。
ただ、相手の強さがわからないので少し心配ではあるけど……まあ、ニクスもいるし大丈夫か。
「今日からこの町に拠点を構えることにする。異論はないな?」
「ない、けど、いいの?」
俺も人の姿になり、とりあえず町に入ったはいいけれど、流石にこのまますぐにダンジョンに挑むというわけではない。
一日やそこらで力が身につくはずもないし、ここでしばらくの間修行をする必要があるから拠点が必要なことはわかる。
だが、人間嫌いなニクスのことだから、てっきり近くの森か何かに拠点を構えると思っていた。
人間と同じように、宿なり借家なりを借りて拠点を構えると考えると、町で人間に囲まれて暮らすことになるだろうし、二クスにとっては相当なストレスになりそうだけど。
「現時点で小娘に野生で暮らせるだけの力はない。仮に貴様が狩りをして食事の世話をしてやるとしても、人間は脆弱だ。すぐに音を上げて病気になることだろう。だからこそ、慣れるまでは町を拠点にするのだ」
「なるほど」
つまり、ニクスなりにフェルのことを心配してくれたってことなんだね?
なんだかんだ言ってニクスは優しい。人間が嫌いとは言っても、しっかりフェルのことも考えてくれている。
まあ、俺がフェルのことを慕っているから仕方なくかもしれないけど、それでも気を使ってくれるのはありがたいことだ。
「なんだかすいません、私のために」
「ふん、そう思うならさっさと強くなれ。腑抜けたことを言うならすぐにでも放り出してやるからな」
「はい、頑張ります!」
フェルもニクスに少なからず認められて張り切っているようだ。
俺もできる限りは手伝うとしよう。というか、俺だってまだまだ未熟者だし、教えてもらわないといけないことはたくさんあるしね。
「それで、どこ、いく?」
「まずは宿に泊まる。長期的に見るなら借家の方が安く済むだろうが、今は金がない。ダンジョンで金を稼いでから、改めて探すとしよう」
「おかね、ない、やど、とまる、ない……」
なんでも二クスは人間の社会でも結構な有名人らしく、Sランク冒険者の肩書を持っているらしい。
ただ、お金には無頓着らしく、稼いでも受け取らなかったり、受け取っても孤児院とかに全額寄付したりしてあまりお金を持ち歩かないようだ。
だから、有名ではあってもお金はない。それでは今日の宿にも泊れないと思うんだけど……。
「案ずるな。道中で狩った素材があるだろう。それをギルドに売りつければ今日の宿代くらいにはなる」
「おー」
確かに、道中ではほとんど町には寄らず、食料は現地調達していた。
だから、食べなかった角やら爪やらの部位がそれなりにフェルのカバンに入っている。
なるほど、それを見越して回収していたわけか。そこまで考えが至らなかったな。
「ついでに言うなら貴様のそのガラクタも売り払ってしまえば、人間の世界なら一生遊んで暮らせるほどの大金が手に入るが、どうする?」
「え、そんな、たかい?」
俺は背中に背負っている巨大な岩の籠に目を向ける。
旅立つ際に住処から持ち出した俺の宝物達だ。
見た目も綺麗だとは思っていたけど、そんなに珍しいものなの?
「アクアストーンにミスリルの原石、アダマンタイト。人間どもにとってはかなり貴重なものだろうよ」
「へぇ……」
「で、売るか? その姿でそんなもの持っていても邪魔なだけだろう。すっぱり売ってしまった方が楽だと思うが?」
「ん、いや」
一生遊んで暮らせるほどの金額と言われるとちょっと揺らぐけど、俺にとってはお金はあまり意味をなさない。
そりゃ、一生人間として町で暮らすのであれば重要かもしれないけど、俺はドラゴンであり、基本的には人里離れた場所で暮らす種族だ。
お金があったところで魔物にとってはただのきらきらした平べったい丸い板であり、それ以上の価値は何もない。
もちろん、フェルのためにお金が必要だというなら売るのも吝かではないけど、それに関しては道中で拾った素材で事足りるはずである。
緊急で必要にならない限りは、これは取っておきたいところだ。
「そうか。ふむ、となると異次元バッグでも買うか」
「い、じー?」
「いや、貴様であれば空間魔法が使えるのではないか? 魔法は得意中の得意だろう?」
「?」
なんだかよくわからない単語が飛び出してくる。
あれかな、ゲームで言うなんでも入るカバンみたいなものだろうか。
明らかにそれは持てないだろうっていう量を持てるゲームはたくさんあるしね。
もし、それと同じようなことができるのであれば、ぜひとも習得したい。
というか、そんなものがあるならもっと早く教えてほしかったんだけど?
全部は持っていけないと思ってほとんどの宝物は住処に置いてきてしまった。
もし空間魔法とやらが使えたなら、全部持ってこれたかもしれないのに。
「あそこで暮らす分には別にそこまで必要にはならんだろう。今まで物を収納できずに困ったことがあったか?」
「……けっこう、あった、おもう」
そりゃまあ、確かにただ暮らすだけだったら必要はないよ?
だけど、例えば狩った獲物を残してしまった時に巣に持ち帰りたいという場面で、大きすぎて持ち帰れないってことはよくあったし、水に関しても器がないから結構飲みにくかった記憶がある。
なくても暮らせなくはないけど、あったら相当便利だったことだろう。
俺もすぐに思いついていれば試しただろうけど、流石にそこまで頭が回らなかったから空間魔法なんてものがあるとは思わなかった。
ニクスは変なところで意地悪である。
「そうか。では宿を取ったら教えてやる。貴様ならすぐに覚えるだろうよ」
「ん、楽しみ」
なんか腑に落ちない部分はあるけど、まあ教えてくれるというならそれでいいだろう。
というか、教えるってことはニクスも使えるのかな? だとしたらニクスに持ってもらってもよかったかもしれない。
まあ、今言ってもしょうがないし、とりあえず今はギルドに素材を売りに行くことにしよう。
俺はフェルに手を引かれながら、ニクスの後をついていった。
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