幕間:憂いを絶つ
フェニックスのニクスの視点です。
白竜のを勇気づけた後、我はとある場所へと向かっていた。
それはあの町からしばらく飛んだ先にある別の町。いわゆる領都と呼ばれる場所だ。
ここに来た理由は、この町の長、すなわち領主に会うためである。
いつもならばさっさと屋敷に忍び込んで用を済ませるが、今回は一応人として正式に会うつもりだった。
だから、面倒ではあるがきちんとした服を生成し、ニクスとしての顔で会うことにした。
すでに時刻は夜。下手をすれば寝ている時間だろうが、そんなことは関係ない。
そもそも、我は別に領主に頼みごとをしようと思っているわけではない。忠告しに来たのだ。
今回、領主は白竜のを手に入れるために強引な手段に打って出た。その結果、白竜のが慕っている小娘が攫われ、白竜のは再び人間どもに狙われる存在となった。
別にそれだけなら何の問題もない。小娘がどうなろうが我の知ったことではないし、白竜のが人間どもから離れられるのならそれも一興かと思った。
しかし、それによって白竜のが傷ついてしまうのはいただけない。
白竜のは、自分がこの場所にいることによってあの小娘、ひいては町の人間どもに迷惑がかかるからこの場にいるべきではないと思っているようだった。
人間などを気にして住処を放棄するなど、よほどの変わり者でない限りあり得ない。
その行動はあまり理解はできなかったが、白竜のの性格を考えれば人間どもを気遣うことは何となくわかる。
だからこそ、その憂いを払うためにも小娘の同行を許し、さらに望み通りあの場所から離れる選択を取ったのだ。
またあの場所に戻ってくるかどうかはわからないが、別に今後人間どもと交流があるわけもなし、放置しても問題はないとは思う。だが、それでは白竜のの懸念が晴れないだろう。
仮に白竜のがあの場所から離れたとしても、領主に逆らった町の人間どもには何かしらの裁きが下るかもしれない。白竜のはそれを気にしていた。
だから、その憂いを晴らすためにもこうして領主に忠告をしに来たというわけだ。
「待て、貴様何者だ!」
「ここは領主であるベランジェ様が住む屋敷。きちんと先触れは出しているのか?」
屋敷の入り口に辿り着くと、目障りにも門番が行く手を遮ってきた。
これだから無駄に権力を持っている奴との交渉は面倒くさい。
我はため息をつきながら、ぶっきらぼうに言い放った。
「ドラゴンの件について、Sランク冒険者ニクスが訪ねてきたと伝えろ」
Sランク冒険者というのは、人の世界で活動する上での我の仮の姿だ。
別に人間どもと馴れ合うつもりはないが、人の世界の情報を得るためには、人間どもを利用するのが一番手っ取り早い。さらに言うなら、それなりの地位を持っている方が条件を飲んでもらいやすい。
だからこそ、どこの国にいてもおかしくなく、またランクが上がればそれなりの発言力を持つSランク冒険者となったわけだ。
まあ、発言力があるとは言っても、流石に貴族には及ばないから普通ならこれだけでは動かないだろうが、ドラゴンについてとなれば奴も動くことだろう。
今一番の関心事だろうからな。相手が何の身分もない一般人だったら跳ね除けてしまうかもしれないが、Sランク冒険者となれば話を聞いてくれる可能性は高い。
案の定、しばらくして屋敷に招き入れられた。
趣味の悪い応接室に通され、お茶がふるまわれる。
まあ、毒などは入っていないだろうし、飲んだところで我には効かないが、飲むことはない。
少しして、領主である太った男がやってくる。
「お初にお目にかかる、ニクス殿。ドラゴンについてと聞きましたが、どんな情報をお持ちなので?」
「ああ。言いたいことは一つ。あの白いドラゴンから手を引け」
「なんですと?」
白竜のが敵対してからまだ半日ちょっと。流石にあの側近が報告に来るには早すぎるからまだ知らないだろうが、我はそのことを伝えた。
そして、それを伝えた上で、ドラゴンから手を引き、また町の人間どもに手を出さないように言った。
白竜のが討伐リストに加えられること自体は別に構わないが、町の人間に手を出されると面倒だ。だからこそ、建前を作るためにもドラゴンから手を引けという条件も付け加えた。
「な、なるほど、そのようなことが……。エドワードめ、しくじりおったか……!」
「それで、返答は?」
「……ニクス殿、貴殿は何を言っているのかわかっておいでですかな? ドラゴンが我が領民に手を出した、それだけでも討伐すべき対象ですし、それに何よりドラゴンの子は即討伐が基本。ここはあの町の冒険者どもに責任を取らせ、死ぬ気でドラゴンを討伐させるのが一番手っ取り早いと思うのですが?」
このデブはどうやらあの町の人間に白竜のを討伐させるつもりらしい。
しかし、その裏では自分に逆らった冒険者を葬る体のいい方法を考えただけに過ぎないようだ。
流石にこれだけあからさまなら我にもわかる。そしておそらく、まだ白竜ののことを諦めてはいない。
これは我の予想だが、親しくしている冒険者達に白竜のを襲わせ、白竜のが精神的に参っているところにやってきて、従魔契約を結ばせるつもりなのだろう。
ドラゴンを力で屈服させることはほぼできないだろうが、白竜の程の知恵があれば、精神的に参らせることはできる。そうすれば、今度は名付けによって縛ることも可能かもしれない。
従魔契約如きでドラゴンを縛ろうと考えること自体が愚かなことだがな。
「聞こえなかったか? あのドラゴンからは手を引け、町の人間にも手は出すな」
「いえいえ、そうは参りません。こうなった以上は必ずや討伐しなくては陛下にも申し訳が立ちません。そもそも、どうしてそのようなことをおっしゃるので? Sランク冒険者ともあろうお方が、ドラゴンの子に怖気ずきましたかな?」
「……それが貴様の答えか?」
素直に諦めるのであれば別に手を出すつもりはなかった。
しかし、こいつは強欲にもまだ白竜のを狙っている。それがどれだけ愚かなことかも気づかずに。
我は座っていたソファから立ち上がる。その突然の行動に、奴は目を丸くした。
「ならばもう言うことはない。死ね」
我は即座にデブの足元に火柱を立ち上がらせる。火柱は瞬く間にデブを包み込み、その身をこんがりと焼いた。
「ぎゃぁぁあああ!?」
「ベランジェ様!? に、ニクス殿、一体何を!?」
「言ってわからぬなら体に教えるまでだ。あの世でその強欲さを悔いるがいい」
我は立て続けにデブのそばにいた付き人も火柱で包み込むと、その場を後にした。
我の炎は火力を自在に操ることができる。あれならば、周りに燃え移るよりも先に灰となって燃え尽きることだろう。
白竜のの自業自得とはいえ、その原因を作ったのはあのデブでもある。
さらに言うなら実行に移したあの側近もか。やはりあいつも消しておくべきだろうな。
その後、この町を目指しているであろう側近とその部隊を見つけ出し、同じように灰にしてやった。
人間は移動速度も遅い。おかげで探すにに少し手間取ってしまったではないか。
まあ、だがこれで白竜のの憂いはなくなっただろう。これであの町の人間が虐げられることはないだろうしな。
我は元の姿に戻り、集合場所へと急ぐ。
まったく、子育てというのは面倒だ。
感想ありがとうございます。




