幕間:白いドラゴン
主人公の友達、フェルミリアの視点です。
白いドラゴンとの出会いによって私の人生は変わった。
初めは仲間の死があった。護衛任務中にいきなりAランクの魔物に襲われ、皆殺されてしまった。
私もその仲間達と同じように死ぬはずだったのだけど、それを助けたのがその白いドラゴンだ。
ドラゴンは魔物の中ではかなり珍しい部類に入る。基本的に人の立ち入らない山や孤島なんかに住み着いており、人の前に現れるのは稀だ。
しかし、ひとたび現れれば国を脅かすほどの災厄であり、ギルドが定めたランクは最高ランクであるSSSランク。
とてもじゃないが、一冒険者である私が対抗できる相手ではない。
しかし、そのドラゴンはとても変わり者で、私のことを助けたばかりか、治癒魔法をかけ、さらには死んだ仲間の遺体を魔物に食べられないように守っていた。
あの時はこちらと仲良くしようと思っていたなんて思っても見なかったし、信じられなかったけど、何度か会ううちにその紳士な対応に心惹かれていき、やがて友達と言える関係になった。
「ドラゴンが人間に歩み寄るなどありえない。君もあまりあのドラゴンに肩入れしないようにしなさい」
セインさんはそう忠告してくれたけど、その時にはすでにルミエールという名前も付けていたし、魔物と同じように見ることはできなかった。
セインさんは元勇者パーティにいたせいか、魔物に対して強い殺意を持っているらしい。だからこそ、ルミエールのことを信じられなかったんだろう。
それでも放置してくれたのは、ルミエールが討伐リストから外されたからだ。
討伐リストから外された魔物を狩っても報酬は貰えない。もちろん、セインさんなら報酬そっちのけで討伐に出てもおかしくはないけど、流石にセインさんが強いとは言っても、たった一パーティだけで討伐できるほどドラゴンは甘くない。
だからこそ、再び問題が起こるまでは見逃すという選択を取ったのだと思う。
「討伐リストから外された以上私達は帰るけど、あの言葉については詳しく調べてみるから、何かわかったら連絡するわね」
対して、もう一つのパーティのリーダーであるナシェさんは、ルミエールが残した文字に強い興味を抱いていたようだった。
恐らくドラゴン語とも言うべきものなんだろうけど、今までに見たこともないような奇妙な文字だったのだという。
結局それを解読するまでもなく仲良くなれたわけだけど、いつか絶対解読してやるんだと意気込んでいた。
ルミエールに聞ければ一番楽なんだけどね。ルミエールは喋れないから仕方がない。
その後、事件があって、ルミエールはこの町を離れる選択をした。
領主に反抗してしまい、再び討伐リストに加えられることになってしまったからだ。
確かに、それなら逃げなければいけないのはわかる。この町を離れる選択は間違ってはいないだろう。
だから私は一緒に行きたいと願った。
サジェット達が死んで、私の心の支えはルミエールただ一人になっていた。
メルセウスさんは頼りにはなるけど、友達という関係にはなれない。メルセウスさん自身は私のことを家族のようだと言ってくれているけど、ギルドマスターという地位もあって大っぴらに甘えることはできないのだ。
だから私はこの町を出て、ルミエールと一緒に旅をする道を選んだ。
もちろん、ドラゴンと一緒に行動するというだけでもリスクがあるし、平穏な生活がしたいならこの選択は間違いかもしれない。
だけど、こんな悲しげなルミエールを放っておくわけにはいかなかった。
私自身が離れたくないと思っていたのもあるけれど、ルミエールもまた同じように私と離れたくないと思っていたようだ。
こうして、私はルミエールとニクスさんと共に旅に出ることになった。
ルミエールと一緒に暮らすためには色々と越えなければならない課題があるようだけど、ルミエールのためなら頑張れる気がする。
せっかく認めてもらったのだから、期待に応えなくては。
「それじゃあ、ルミエールは人の姿にもなれるってことですか?」
「そういうことだ。ただし、絶対に他人には明かすなよ。もしばれれば、面倒なことになるかもしれんからな」
今、私達はルミエールの背に乗って空を移動している。どうやら今から行く先に私が越えなければならない課題があるらしい。
ルミエールと一緒にいたニクスという女性。ルミエールとは親と子のような関係らしく、初めはドラゴンの卵を自力で孵して育てている人間と思っていたけど、その正体はなんとフェニックスだった。
フェニックスと言えば、一部の地域では神と崇められている伝説の聖獣である。
そんな大物なら人の姿になれるのも納得だと思う気持ちもあったが、それよりもなんでそんな大物がこんなところにいるのかが疑問だった。
ニクスさん曰く、古巣に帰ってきたらルミエールが住み着いていたから育てることにしたというのが真相らしい。
なんというか、そんな偶然ある? っていう感じだけど、ニクスさんは嘘は言わない。
ルミエールも人の姿になれるらしいし、もしかしたらルミエールも名のある聖獣様なのかもしれないね。
「ルミエールの人間姿、見てみたいな」
「きゅぅ……」
今はルミエールの背に乗って移動しているから無理だが、後で休憩の時にでも見せてもらえないかと思ったんだけど、ルミエールはなんだか嫌そうだ。
なんでだろう?
「何度でも言うが、このことは他言無用だ。いいな?」
「もちろんです。誰にも言いません」
ニクスさん達にとって、人の姿になれるということは結構特別なことらしい。
これが人にばれてしまうと、妙な人に付きまとわれる可能性があるからなるべく姿を明かすことはしたくないのだそうだ。
こうして旅をする以上、ニクスさんとルミエールが人の姿になれることは明かしてもらったが、それは私が仲間として認められたと言っていいだろうか?
ともかく、二人が困るようなことはしない。それだけは約束できる。
「おい、白竜の。次降りたらさっさと人の姿を見せてやれ。小娘に見せてやるんだと意気込んでたではないか」
「きゅぃぃ……」
どうやら、ルミエールが人の姿になれるようになったのはごく最近らしい。
普通なら習得に一か月以上かかるところをたった一日で習得して見せたようで、かなり優秀な部類に入るようだ。
私と会話するために言葉も覚えていたようだけど、いざ見せるとなったら急にしり込みしてしまったらしい。
容姿に自信がないとか? 私はルミエールがどんな姿でも受け入れる覚悟があるけど。
「おお、これは……」
その後、ニクスさんの命令でしぶしぶ人の姿になったルミエールだったが、とても可愛かった。
雄かと思っていたんだけど、どうやら雌だったらしい。5歳くらいの小さな女の子の姿だった。
どうやら、こんな小さな女の子の姿なのが嫌らしいけど、なるほど、子供なりに背伸びしたかったということだったというわけか。
ルミエールがまだこんな子供だったということにも驚きだけど、そんな理由で見せたがらないなんて可愛いなと思った。
可愛い可愛い言っていたらむくれてしまったけど、その姿も可愛いかった。
私はしばらくの間、ルミエールの人間姿を堪能させてもらった。
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