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第四十七話:これも経験

 フェニックスのニクスの視点です。

 飛び去って行った白竜の姿を見て、我はすっと目を細めた。

 ああ、わかっているとも。奴があの小娘のことをとても大事に思っていることも、人間のことをただの有象無象ではなく、一人の友として見ていることも。

 しかし、だからこそ我は端的に事実のみを伝え、手を貸すことはしなかった。

 これは白竜のが持ち込んだ問題であり、それを解決すべきは白竜のだからだ。

 町でのやり取りを思い出す。

 我は人化の術を用いて人の姿となり、町の門をくぐった。

 わざわざ人間に合わせてやるのは面倒だが、町のような人間が犇めく場所ではこちらの方が逆に面倒が少ない。

 わざわざ焼き尽くして侵略してやるほどこちらも暇ではないのだ。

 そういうわけであの小娘に会うためにギルドへと足を運んだのだが、そこでは多くの人間どもが慌ただしく駆け回っていた。

 まあ、それだけなら別に珍しいことでもない。

 緊急の依頼が出た時は我先にと依頼に飛び付くのが冒険者であるし、報酬のいい依頼を受けるためにも足を動かすのは間違いではない。むしろ、昼間から酒を飲み、ギルドに併設されている酒場でダラダラしている奴の方が問題だろう。

 それはいいとして、今回は緊急の依頼が出たというわけではないらしい。出入り口からはひっきりなしに冒険者らしき人間が出入りし、なにやら話し込んでいる。

 見たところ、あの小娘の姿はないようだ。であれば、先にギルドマスターだというこの建物の長に会おうとも思ったが、受付に話しかけても今は忙しいと言われるばかりで会わせようとしない。

 全く、我がせっかく足を運んでやったというのに面倒なことだ。

 仕方がないのでしばらく経ってから出直そうと思ったが、そこに冒険者の一人が我に話しかけてきた。


「お、おい! あんた、あのドラゴンの保護者だよな?」


 いきなり薄汚い手を肩に乗せてきたので、鬱陶しいのを我慢して手を払う。

 いつもならすぐにでも燃やしてやるところだが、こいつはなにやら我に用があるらしい。

 もしかしたら、小娘について何か情報を持っているかもしれない。そう思って話を聞いてみると、なにやら面倒事が起こっているようだった。

 なんでも、あの小娘が攫われたらしい。

 最初はギルドにいたようだが、そこで誰かに呼ばれ、ギルドを後にした。しかし、その後は姿を現さず、冒険者達はそのまま宿に帰ったのだろうと思っていたらしい。

 しかし、次の日になっても小娘はギルドに姿を現さず、心配になった一人が宿に確認しに行って見たが、昨日は帰ってきていないという答えが返ってきた。

 これは何かあったに違いないと町中を探してみたが、見つからない。どうしようかと思っている時にギルドに現れたのが、この領地の領主の代理という執事だったのだとか。

 その執事はギルドマスターに面会し、手紙を置いていったらしい。

 その手紙の内容を簡単にまとめるとこうだ。


『小娘は預かった。返してほしくばドラゴンと契約を結ばせろ』


 いったい何を言っているんだと言いたいが、やりたいことはわかる。

 どうせ、ドラゴンの力に目がくらんだ領主が白竜のを手に入れようと小娘を利用したということだろう。

 全く人間は何を考えるのかわかったものじゃない。

 そもそも契約とはなんだ。確かに魔物の間では人間に従属し、共に過ごすという者もいる。従魔契約というものがあり、テイマーという特別な力を持った人間に名を付けられると、その人間に従属したくなるという馬鹿みたいな契約があるにはある。

 だが、それは魔物側が完全にテイマーに勝てないと思っている場合のみであり、そこらの魔物ならまだしも、幻獣であるドラゴンがその程度で従属するはずもない。

 人間どもはそんなこともわからないのだろうか? それとも、白竜のならいけると思っているのだろうか。

 確かに、奴は人間に対して強い好意を持っている。今まで人間に手を上げたことはないし、むしろ死んだ人間を綺麗に治療して取りに来るまで守っているくらいのお人好しだ。

 奴であれば、確かにころっと従属してもおかしくはない。

 だがだとしても、小娘を人質に使うのは悪手だろう。白竜のの小娘との交流の深さを考えれば、小娘に手を出した時点で白竜のと契約をすることなど叶わなくなる。

 当然だ。なぜ自らの大切なものを傷つけた奴と契約を結ぶのか。

 人間相手だったら確かに効力はあるだろう。だが、相手はドラゴンだ。ドラゴン相手に人質が通用すると思っているのか?

 奴らが人質に手を出すより早く、我らはそいつを殺すことができる。人質など無意味だ。

 まあ、それはいいとしよう。これは相当に面倒な話だ。

 この話を白竜のにすれば、迷わず飛び出していくだろう。そうなれば、白竜のは初めて人を殺すことになる。

 いずれはそういうこともあるだろうし、別に人間を殺すことを咎めるわけではないが、白竜のが心に負うダメージは心配だ。

 奴は元人間であり、人間に対して深い情を抱いている。もしかしたら、人間を殺すことによって落ち込んでしまう可能性もあるかもしれない。

 一応、我が処理することもできる。小娘の場所を探すのが面倒ではあるが、見つけさえすれば、すぐにでも攫った奴を殺し、小娘を助け出すこともできるだろう。

 しかし、そうやって守り続けるだけでは白竜ののためにはならない。

 ここは悩みどころだ。まだ早いと考えて我が処理するか、これも経験だと考えて白竜のに任せるか。


「二クス殿! 来ておられたか!」


 と、そんなことを考えていると、ギルドマスターがやってきた。

 こいつはあまり好かない。我の脅しに屈しないのも面倒だが、白竜のについて鼠のように探りを入れているところも気に入らない。

 貴様に白竜のの何がわかる。ギルドマスターであるというなら、出しゃばってくるなという話だ。


「二クス殿、どうか話を聞いてはいただけないか」


「ふむ、いいだろう。事情は大体聞いているが、我も無関係ではない。一応聞いておいてやろう」


 場所を移し、ギルドマスターから話を聞く。

 話を聞く限り、どうやらこの事態は完全に予想外だったらしい。

 まさか、領主がここまで強欲に事を運ぶとは思わなかったようで、自分の部下とも言える冒険者を守れなかったことを悔やんでいるようだった。

 だが、兆候はあったようで、二週間ほど前に領主の執事は白竜のに接触し、ふざけたことを抜かしていたそうだ。

 なるほど、それで強引な手段を取ったというわけか。どちらにしろ馬鹿だが。


「領主に捕らえられている以上、見つけたところで助け出そうとした時点で領主への反逆行為となる。悔しいが、俺達ではどうにもならないのだ」


「ふむ、それで?」


「できることなら、一度白竜殿を出していただき、フェルを救出したく思う。どうか、白竜殿を呼んでいただけないだろうか?」


「断る」


「そ、そこをなんとか!」


 領主が白竜のを出せと言っている以上、こちらが出ていかなければ小娘は帰ってこない。であれば、一度白竜のを出して小娘を引きずり出し、救出する、と。

 あまりの短絡さに我は鼻で笑った。

 こいつは小娘のことを自分の娘のように思っていると言っていた。自分の子すら守れぬくせに何を言っているのやらだ。本当に娘と思っているなら、領主に楯突いてでも取り返せばよかろう。

 だが、人間の社会というのはそれでは回らないことも知っている。ただ単に食って寝るだけの生活ではないのだ。

 同情はしない。元々人間がどうなろうと知ったことではないし、これで小娘と白竜のの縁が切れるならそれでもいいと思っている。

 しかし、それでは白竜のは納得しないのも事実。であれば、我がする行動は決まった。


「白竜のにこのことを伝えるくらいはしてやろう。それで白竜のが動こうが我は何もしない。我にできるのはこれだけだ」


 ここはあえて白竜のに経験を積ませる。

 人間と関わることがどういうことかを知らしめるにはちょうどいい機会だろう。

 もちろん、間違っても白竜のが従属するようなことはさせない。心配ないとは思うが、そこは念を入れておくとしよう。

 我は静かに席を立つと、部屋を後にした。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
歴史に残る惨劇にはなりそうだなぁ
幼女でいけば跪かれるはず
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