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第四十六話:帰省して

 それから一週間ほど。イグニスさんの住処で練習をしていたが、何とか単語くらいなら発音できるようになってきた。

 それでもまだ覚えているものは少ないし、これで会話ができるかと言われたら微妙と言わざるを得ないけど、かなり面倒な状況でここまで覚えられたのはかなりの成果だろう。

 おかげで集中しすぎて知恵熱が出てしまったけど、二クスはそんなことでやめてくれるほど優しくはなかった。

 いや、二クスからしたら人間と仲良くなるための手段を教えているわけだし、人間が嫌いな二クスからしたらこれは逆に優しさになるのかな?

 食事に関してはイグニスさんが定期的に狩ってきてくれるので何の問題もなく、寝床が違うということ以外は最高の環境だったと言えるだろう。

 しかし、だからと言ってすでにもう一週間もあの寝床に帰れていないと考えるとちょっと寂しい。

 あそこには思い出の品である卵の殻もあるし、自分で作った草のベッドもある。

 人間、枕が変われば寝られないということがあるように、あんまりにも長い間別の寝床にいるというのは何とも落ち着かなかった。

 だからというわけではないけれど、ここらで一度住処に帰ることになった。


『確かに、貴様が突然いなくなればあの小娘は心配するだろうが、そもそも我らが人間どもに合わせる必要はない。であれば、別にわざわざ伝える必要などないのではないか?』


『そういうわけにもいかないよ。それでフェルに嫌われちゃったら凄く悲しいし……』


 建前としては、何も言わずに出てきてしまったので、しばらく会うことができないということをフェル、そしてメルセウスに伝えること。

 最近ではかなり頻繁に会うようになっていたし、長くても三日と空けることはなかった。しかし、今回すでに10日ほど空けてしまっている。

 これだと、俺の身に何かあったのではないかと心配させてしまっているかもしれないし、だったらしばらく空けることを伝えていた方がいいだろうという判断である。

 まあ、本音はそれにかこつけてフェルに会えないかということなんだけど、それに関しては二クスが報告すると言ってきたので俺は会うことはできない。ちくしょう。

 一緒に帰れるだけましだと考えるべきか。

 二クスが伝えるだけなら俺は帰る必要はないけれど、二クスがいない状態でイグニスさんの下にいるのはなんだか気まずい。

 いや、一応この一週間でそれなりに仲良くはなったよ? だけど、人間の姿でないとやはり威圧感が半端ないし、どうしても委縮してしまう。

 かといっていつまでも人間の姿になっていてもらうわけにもいかないし、二クスがいない状態でしばらく待つのは不安だったので、一緒についてきたというわけだ。

 なんか、こう考えると子供っぽい気がしないでもない。一応、前世では成人してたんだけどなぁ。


『さて、それでは我は伝えてくる。貴様は大人しく待っていろよ』


『はーい』


 住処へと帰って来て早々、二クスは町へと飛び去って行った。

 うーん、行きたかったなぁ……。

 まあ、いつまでも愚痴っていても仕方ないし、切り替えていこう。

 住処の様子を確認する。

 約二週間ほど空けていたわけだが、特に変わった様子はない。卵の殻も、ついつい拾って帰ってきてしまう光物も、草のベッドもそのままだ。

 強いて言うなら、少し埃っぽくなった?

 入り口に扉があるわけではないので、どうしても風で塵なんかが吹き込んでしまうことがある。それに、二週間も空ければ埃が溜まっても仕方ないだろう。

 暇だし掃除でもしてようかな。

 そう思って、人化する。

 ドラゴン姿でもできなくはないが、やはり細かな作業をするなら人の姿の方が断然楽だ。

 ただ、この住処は割と大きいので、この姿だと結構大変かもしれない。掃除道具だってないわけだし。

 いつもは適当に翼で払うだけなんだよね。多少埃っぽくても野生ではそれが普通だし。

 ここは一つ、大掃除としゃれこもうか。


『やるぞー』


 そう決意し、掃除を始めた。

 まあ、掃除道具がないからそこまで凝ったことはできない。せいぜい、手で埃を集めて燃やすくらいだ。

 布の一枚でもあれば、と思ったけど、魔力で作った服はそこまで丈夫ではないらしく、雑巾として使うのはちょっと強度が足りない。

 一応、土魔法を用いれば土や岩をいろんな形に変形させることもできるけど、流石に土で作ったもので掃除したら余計に汚れるだけだろう。そういうわけで、地道に手で集めるしかないわけだ。

 まあ、途中から面倒くさくなって風魔法でちょっと吹き飛ばしたりもしたけど、綺麗になれば何でもいいんだよ。


『そういえば、これって何なんだろうね?』


 掃除の途中、ふと集めてきた鉱石を手に取る。

 これは以前魔法の練習をしていた時に練習台に使っていた超硬い岩の欠片だ。

 あの時はせいぜい硬くて綺麗な岩だなぁ程度にしか思っていなかったけど、よくよく考えると不思議な岩だよね。

 だって冷静に考えてみてよ。俺の魔法って最初の頃はとことん威力が高くて、魔物に向かって放とうものならオーバーキル必至のものだったんだよ? 当然ながら、普通の岩が相手なら一瞬でボロボロになるし、ちょっと硬い程度の鉱石でも同じことだった。

 それが、魔法を何発か打ち込んでも壊れることなく、傷ついてもちょっと欠ける程度。普通に考えて、硬すぎだよね。

 俺の知る最高の硬度を持つ鉱石というとダイヤモンドだけど、それよりも硬いんじゃないかな。

 この世界特有の鉱石とか? 魔法まである世界なのだし、何かしら特殊な金属があってもおかしくはないよね。

 まあ、だからどうしたって感じだけど。

 やることがないからか、ついつい関係ないことを考えてしまう。

 早く二クス戻ってこないかな。

 今日は一泊する予定だけど、それが終わったらまたイグニスさんの下に帰る予定である。

 久しぶりに二クスと二人っきりでゆっくりしたいところなんだけど。


『戻ったぞ』


『あ、二クス。おかえりー』


 そんなことを考えていると、ちょうど二クスが帰ってきた。

 外を見てみればすでに日が暮れているので結構時間が経っていたらしい。


『遅かったね?』


『ああ、少々面倒なことがあってな』


『?』


 誰かに絡まれたりしたんだろうか。

 二クスの人間姿はとても綺麗だから誰かに声をかけられてもおかしくはない。

 まあ、そんなことしても二クスが冷たく突っぱねるだろうし、しつこくついてきたら焼かれそうだけど。


『どうやら例の小娘が攫われたらしくてな。それでバタバタしていたらしく、なかなかあのいけ好かない男に会うことができなかった』


『えっ!?』


 ちょっと待って。二クス今なんて言った?

 俺の耳が正常ならばフェルが攫われたと言っていた気がする。

 かなりの大事じゃないか! 二クスは何でこんなに落ち着いているんだ!


『た、助けに行かないと!』


『放っておけ。人間がたかが一人攫われただけだ。そう慌てることでもあるまい?』


『なに言ってるの! フェルは俺の大切な友達なんだよ!』


 確かに、二クスからしたら人間なんてただの有象無象なのかもしれない。

 だけど、俺はそんな風に人間を見下した目で見ることはできない。特に、それが人間の初めての友達とも言えるフェルなればなおさらだ。

 俺はすぐさまドラゴンの姿に戻り、住処を飛び出す。

 フェル、どうか無事でいて……!

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