第四十三話:できることとできないこと
身体能力に関してはかなり高かった。
普通に歩く、走るなどはもちろん、バック転なんかも楽々できる。
前世の時であれば、バック転など絶対に無理だっただろうが、ドラゴンとして転生したおかげで基本的な身体能力も上がっているということなのだろう。
ただ、いかんせん手足が短いので普通に歩こうとするとかなり歩幅は小さいし、身長もかなり縮んでしまったので高いところに手が届かなくなってしまったというのはある。
速度だけ見れば、ドラゴンの時に歩いて移動するのよりも遅いかもしれない。走っても同様だろう。
まあ、身体能力は高いので、全力で走ればこちらの方が移動速度は速いかもしれないけど、飛ぶのには劣る。
飛ぶ前提のドラゴンの体よりは小回りは効くかもしれないけど、これはこれで慣れる必要がありそうだ。
そして、力に関してだが、これに関してはだいぶ落ちているように思える。
ドラゴンの状態なら、その辺に落ちている岩なんかも軽々砕けると思うが、今は思いっきり殴ったらこっちの手が痛くなる始末だ。
もちろん、岩にはちょっと罅が入った程度、見た目相応とまではいかなくても普通の人間よりちょっと強い程度に落ち着いているんだろう。
さらに言うなら、防御力も相当落ちている。殴った時に痛みを感じたのがその証拠だ。
久しく感じていなかった痛みだが、むしろ痛みを感じないほうがおかしかったので、これはこれで人間っぽいと言えなくもないかもしれない。
幼女姿で力も防御力も落ちていると考えると、この状態で町に出るのは不安ではあるけど、二クスによれば、これでも普通の人間と比べれば頑丈らしいのでそこまで心配はいらないかもしれない。
そして、最後に魔法だが、これは問題なく扱うことができた。
人化している間は魔力を常に消費し続けているため、あんまり魔法を放ちすぎると人化が解けてしまう危険性もあるようだが、魔法を一通り試した今でも魔力切れの兆候は見られない。
それほど多いのか、それとも幻獣種にとってはこれくらいが普通なのか。多分後者かな、幻獣種っていうだけで強そうだし。
ともかく、よほど大量に魔法を使わない限りは人化が解ける心配はしなくてもよさそうである。
「こうも簡単に習得されるとは思わなかったな。どうしてくれるイグニス」
「人と交流することに好意を抱いているのなら、人化の術はいずれ必要になるだろう。そこまで気にする必要はないのではないか?」
「我は白竜のに人以外の種族ともっと交流してほしいと思っているのだ。人化など覚えてしまったら、ますます人間どもに近づけてしまう。これで白竜のが人間に傷つけられでもしたら、我は貴様を恨むぞ、イグニスよ」
「その時はお前が守ってやればよかろう。自らの子を人間どもに傷つけられるほど腑抜けではあるまい?」
「人の気も知らないで……」
俺が動きを確認している間、二クスとイグニスさんは二人で何やら話していたようだった。
二クスからしたら、人化の術を教えたとしても習得できるのはもっと先になると思っていたらしい。
本来なら、最低でも一か月以上はかかるものであり、たった一日で、しかも一回見ただけで習得してしまうのはまさに天才というべきものだったようだ。
それに関しては俺もびっくりしたけれど、多分想像力の問題じゃないだろうか?
魔法がいい例だろう。あれは頭の中にそれらの事象をイメージし、それを強く意識することによって発動する。
実際には、魔力を使ってそれらの事象を再現するようだけど、俺の場合は感覚的にこうすれば発動できるというものがなんとなくわかっているのだ。
人化も厳密にいえば魔法だし、俺は元々人間だったこともあって人間の姿をイメージしやすい。だからこそ、すんなりと発動できたんだと思う。
まあ、まさか幼女になるとは思わなかったが。ちゃんと前世の自分の姿をイメージしたのにおかしな話である。
多分、姿自体はその個体によってあらかじめ決められているのだろう。その種族にとっての年齢を人間ではどれくらいかに置き換え、それに相当する姿になる、ということなんだと思う。
そう考えると、二クスって結構若い? 人間としての見た目は30代程度に見えるけど。
いやまあ、数千年を生きたイグニスさんが70代くらいの見た目なのであんまりあてにはならないかもしれないけどさ。
「なあ、白竜の。やはり今教えたことは水に流し、人間以外の友を見つけないか? イグニスで不服というのなら、他にも候補はある。その中には、貴様の求める気の置けない友がいるはずだ」
『絶対に、嫌』
初手で連れてこられたのがこんな立派なドラゴンだったのだから、どうせ別の知り合いとやらもそんなのばっかりに決まってる。
仮にそうでなかったとしても、俺の目的は人間と仲良くすることであって、友達ができれば誰でもいいというわけではない。
というか、こんな人間と交流するために存在するような魔法を教えてもらったのに、これを忘れろなんて無理な話だ。
少なくとも、この姿でフェルに会いに行くのは確定だろう。
ぷいっとそっぽを向くと、二クスは呆れたようにため息を吐いた。
「やはり教えたのは間違いだったか……」
「よいではないか。ドラゴンの姿で人と接するよりも、人間の姿で接した方が相手も手を出しにくい。それも、まだ幼子とあればいきなり斬りかかってくる者はいないのではないか?」
難しそうな顔をしている二クスにイグニスさんが声をかける。
確かに、ドラゴンの姿で会ったなら問答無用で討伐しに来るかもしれないけど、人間の姿、それも子供の姿であれば、いきなり攻撃してくる人は稀だろう。
もちろん、人攫いのような悪人もいるかもしれないが、100パーセント敵対されるよりは断然ましのように思える。
まあ、今はドラゴンの姿でも討伐リストから除外されているらしいのであまり関係ないかもしれないが、もし他の町に行くようなことがあれば役に立つかもしれない。
「それはそうだろうが、そもそも人間と交流すること自体が間違いなのだ。であれば、人間として人間どもの中に溶け込むよりも、敵対されてでもドラゴンの姿でいた方がいいのではないか?」
「今後一切人間と交流しないというならその方がよいだろう。だが、白き子竜はそれで納得できるかな?」
『嫌です』
二クスの考えとしては、そもそも人間と仲良くするのが間違いであり、森の中でひっそりと暮らしていくのが一番だという話だ。
確かにその方が安全ではあるだろう。幻獣種であればともかく、普通の魔物が相手なら、俺の鱗を突破できる者はいないだろうし、二クスがいればよほどのことがなければ安全は保障されている。
ただ生きていくだけなら、その方が断然いいだろう。
しかし、俺は元人間であり、ドラゴンの姿になった今でも人間と交流を持ちたいと思っている。
それがリスクであることはわかっていても、やはり捨てきれないのだ。
もし、俺の試みがすべて失敗し、心が折れるようなことがあったなら諦める未来もあったかもしれないけど、フェルを始め、今ではかなりの人数の人間と交流を持つことができた。
言葉は通じなくても、心は通じている。今更、これを捨てることは俺にはできないのだ。
決意を持った目で見つめると、二クスは再びため息を吐いた。
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