第三十五話:繋がりが増えるということ
楽しい時間というのはどうしてすぐに終わってしまうんだろう。
フェルを背に乗せての遊覧飛行は、それだけでワクワクするようなものだったが、それが終わった時の喪失感は計り知れない。
もちろん、フェルを一日中連れまわすわけにはいかない。
フェルにだって冒険者としての生活があるだろうし、あまり遅くなってまた洞穴で寝かせるのも可哀そうだ。
だから、断腸の思いで別れを告げる。
大丈夫、また会えるのは確定しているのだから、そこまで寂しくはないはずだ。
ギルドマスターだという男の話では、俺のことは討伐しない方向で話を付けると言っていた。
こちらからも、人間を襲わないという旨はある程度伝えたし、俺の意見を信じてくれるなら、冒険者が討伐しに来ることはなくなるだろう。
もしかしたら、俺が町に行くことだってできるかもしれない。
そうなれば、フェルと会うことも容易になる。それ以外にも、他にも友達ができるかもしれない。
明るい未来を想像して思わずにやける。
これが現実のものとなるためにも、メルセウスには頑張って欲しいものだ。
「ルミエール、あの、そろそろ……」
出会ったのは昼ぐらいだったが、すでに夕方近くになっている。
名残惜しいがお別れの時間だ。
進路を戻し、出会った場所まで送ってやる。
本当は町まで送ってあげたいけど、俺が町に行ったら大騒ぎになってしまうから仕方がない。
帰りはニクスが送ってくれるらしいので任せることにする。
「ありがとう、楽しかったよ」
フェルを下ろすと、そう言ってはにかんでくれる。
思えばだいぶ打ち解けたものだ。
まだ数回出会っただけの面識しかないけれど、名前を教えてくれたし、名前を与えてくれた。
俺とフェルの間には確かな絆が芽生え始めている。
そう思うと、俺も知らずのうちに笑みを浮かべていた。
ドラゴンの表情なんてわからないと思うけど、一緒に笑い合うこの瞬間がずっと続けばいいと思う。
『また会おうね』
一声かけてから俺は飛び去る。
ちらちらと振り返ってみると、俺が見えなくなるまでずっと手を振ってくれているフェルの姿があった。
それから数か月。
ニクスは相変わらずフェルとあまり会わせてくれないけど、フェルの方からやってくることが多くなった。
いつ現れてもいいように、毎日町付近をパトロールしていた時に偶然フェルの姿を見つけた時は驚いたものだ。
フェルとは仲がいいとは言っても、やはり人間とドラゴンという関係。ニクスという仲介役がいるからこそ森を訪れられると思っていたから、向こうからやってきたというのは本当に嬉しかった。
この森は魔物が多く、フェル一人で来るには危ないということもあったのか、会う度に知り合いだという冒険者がいた。
みんな俺に会うとびっくりしていたが、俺が敵意がないことがわかると皆打ち解けてくれた。
流石に背中に乗るかというのは断られたけど。まあ、それは仕方がない。
その他にも、以前のワイルドベアーの騒ぎから中断されていた街道の開拓が再開された。
人数は結構少なかったが、少しずつ開拓を進めていくらしい。
護衛と思われる冒険者の中には、以前俺を攻撃してきた緋色のマントを着た男もいた。
かなり腕が立つ冒険者らしく、現れる魔物を悉く薙ぎ倒していた。
いざとなれば助けるつもりだったんだけど、これなら必要なさそうかな?
あの騒ぎから全然人が来ていなかった森に少しずつ人が集まり始めている。
これは、メルセウスが何かやったのかな?
フェルの話だと、俺がいるから森方面にはいかないように命令が出されていたらしいし、それが解除されたってことは俺の危険性がないことが証明されたのかもしれない。
後日、ギルドマスターが現れ、俺が討伐リストから外されたことを告げられた。
今後開発のために森に立ち入る人もいるだろうが、それには手を出さないで欲しいと言われたけど、元々そんな気はないので大丈夫だ。
できれば話しかけたかったけど、仕事している人の前に現れて作業を邪魔するのは可哀そうなので、言われた通りに近づかず、遠くから見守っているだけに止めている。
俺が会うのはフェルと、フェルと一緒についてきた冒険者くらいだ。
おかげで冒険者の間では俺は結構有名になっているらしい。
人に危害を加えないドラゴンの子供。意思疎通できるほどの知能を持ち、手懐けられたペットのように大人しい。
最初は信じていなかった冒険者も、実際にフェルと一緒に俺を拝みに来て信じることになったらしい。
だんだんと俺のことが認知され、人とドラゴンという境界が曖昧になっていく。
これは非常にいい傾向だ。
冒険者の何人かとは顔見知りと言ってもいいくらいの関係にはなれた気がする。
もちろん、最も仲がいいのはフェルだけど、この調子で俺のことが知られて行けば、その内町ぐるみでお付き合いとかもできるかもしれないね。
『白竜の、少し話がある』
今日も身近に来た人間達を見て楽しくなりながら住処に帰ると、ニクスがそう話しかけてきた。
俺にはルミエールという名前があるけれど、ニクスは全くその名を呼んでくれない。
いい名前だと思うんだけどなぁ。
『どうしたの?』
『貴様は、人間に気安く心を許しすぎだ』
真面目な口調で言ってきたのは、俺と人間との関係性について。
日頃から、ニクスには人間とはあまり関わるな、仲良くするなと言われている。
だけど、俺は人間の友達が欲しかった。だから、その言葉に逆らって人間と接触し、友好を図ろうとした。
ニクスも、そんな俺の様子に折れて、フェルとの仲介役を買って出てくれている。
だから、もうそんなのあってないような言いつけだと思っていたんだけど、ニクスの中ではまだ終わっていなかったらしい。
『あの小娘だけならともかく、他の人間にも簡単に体を触らせるし、背中に乗せようとする。そんなことをしていてはいずれ足元をすくわれるぞ』
仲良くなるには会話が大事だけど、俺は人間の言葉を話すことが出来ない。
だから、代わりにボディランゲージで表現するしかない。
そのためには多少の触れ合いは仕方がないと思う。
まあ確かに、武器を持っている相手によく知らないうちから身体を許すのは危険な行為ではあると思うけど、俺の鱗は大抵の攻撃ならまったく通さない鉄壁の守りだ。
今まで痛いと感じることはあっても傷をつけられたことは一度もない。それもあって、触らせるくらいは特に気にしていなかった。
『でも、仲良くなりたいし』
『貴様はすべての人間にあのように接するつもりか? 人間は欲深い生き物だ。あの小娘のように欲のない人間もいるだろうが、そうでない人間もいる。友達が欲しいというなら、せめてその相手くらいは慎重に選べ』
いい人間もいれば悪い人間もいる。本能で生きている魔物と違って、人間には知恵があるから、人に手を差し伸べる人間もいれば、貶めようとしたりする人間もいるだろう。
そのことについては俺も理解しているつもりだ。
フェルが連れてきた人だからそこまで悪い人はいないと思うけど、確かに誰にでも仲良くしようと近づいていたのは事実。
これではニクスが心配するのも当然のことか。
『ただでさえ人間など信用できない生き物なのだ。絶対に面倒事が起きる。貴様が人間と仲良くなりたいというならば、その後始末をする覚悟はしておけよ』
『うん、わかったよ』
繋がりが増えれば問題も増える。
今はうまくいっていても、必ず何か問題が起こるだろう。
そうなった時、大切な繋がりを失わないように立ち回ることは重要だ。
俺はニクスの言葉を心に刻みこんだ。
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