第三十三話:ドラゴンへの関心
冒険者、フェルミリアの視点です。
あれから十日ほどが過ぎた。
メルセウスさんは、知り合いである町長に話を通し、今後の方針を話し合っていた。
人に害をなさないドラゴン。もしそれが本当なら、これほど楽なことはない。
ただ単にドラゴンを討伐する手間がかからないということのみならず、もし協力関係を築ければ、ヒノアの大森林の魔物の間引きをしてくれるかもしれない。
そうなれば、より安全に森を開拓することが出来る。
現在はドラゴン騒ぎのせいで開拓はストップしてしまっているが、ドラゴンの危険性がないことが証明されれば、それも再開されるだろう。
町にとってもドラゴンは注目の的だった。
「それで、調査隊の方はどうなっている?」
「募集をかけているがあまり集まりはよくない。いくら安全だと言われても、やはりドラゴンが相手だと気が引けるようだ」
集まってくれた面々は、大体が私の話を聞いた知り合いの冒険者だ。
私のことを信じてくれたのか、心配してくれたのかはわからないが、皆中堅以上の冒険者のため、戦力としては申し分ない。
流石にドラゴンを討伐すると言ったら足りないが、今回は調査が目的だ。道中の魔物を狩れるだけの戦力があればいい。
それから、王都から来てくれた『紅蓮の翼』や『宵闇の星』の面々も協力してくれることになっている。
ただ、あの二チームは、以前ドラゴンと敵対してしまっているので、調査隊についていくのは難しいのではないかと言われている。
誰だって攻撃してきた相手のことはよく思わないはずだ。それはドラゴンでも同じことだろう。
「調査隊には俺も同行することになっている。仮に戦闘になったとしても、必ず生かして帰すつもりだ」
「頼むぞ。冒険者はこの町の大事な戦力でもある。無駄に減らして周辺の魔物の掃除ができなくなっても困るからな」
元々、ルクスの町は、海に出るための街道の中継点として建設された町だ。
王都との間に広がる広大なヒノアの大森林の端に作られたこともあり、最初は魔物の巣がたくさんあって、住めるような状態ではなかった。
それを住めるようにしたのは、王都から派遣された兵士と冒険者であり、町が作られた今でも、一定の冒険者は周囲の魔物の討伐を行ってくれている。
町に在中する警備隊もいるにはいるが、魔物の分野においては冒険者はなくてはならない存在だ。
だからこそ、この町は冒険者を大切にするし、なるべく冒険者に報いようと優遇しているところもある。
私のような中堅冒険者でも優遇されるのはここくらいなものだろう。
他の町ではここまでされることはない。低ランクの冒険者は特に。
「フェル、だったかな?」
「は、はい」
「よくドラゴンと友好関係を築いてくれた。私も正式にドラゴンに手出しできないように尽力する。君もこの町のために力を貸しておくれ」
「もちろんです!」
町長のルークさんが優しく声をかけてくれる。
一見眉唾な話だった、害をなさないドラゴンの話だけど、ルークさんは信じてくれた。
もちろん、旧友であるメルセウスさんが一緒だったということもあるんだろうけど、信じてくれる人が多いのは私も嬉しい。
話はドラゴンはそっとしておくという方向性でまとまりつつある。
このままいけば、ルミエールは討伐されないで済むかもしれない。
力強く返事した私にルークさんは「頼んだぞ」と肩を叩いてくる。
そうして、町長との会談は幕を下ろした。
メルセウスさんを伴ってギルドへと戻る。
いつもならば知り合いの冒険者と一緒に依頼を受けていくところなんだけど、森方面の依頼は今はすべてストップされている。
ドラゴンと接触する可能性もあるし、それで戦闘にでもなったら色々と面倒なことになるからだ。
これから友好関係を築こうというのに、事情を知らない者のせいで水を差されても困る。
ルミエールなら多分許してくれそうな気はするけど、慎重になるに越したことはない。
私も調査隊を連れていくという役目があるので下手に別の依頼を受けるわけにもいかず、こうしてギルドで待機する日々が続いている。
「昨日も来なかったな。そのニクスという女は本当に来るのか?」
「はい、多分……」
普通に森に行ってもルミエールと会える可能性は低い。
会うためにはニクスさんの仲介が必要不可欠だ。
だから、調査隊を送るにしてもニクスさん待ちとなっている。
あの時は夕方で私を探しているようだった。
服に頓着がないのか、着ているものはボロボロで、一見すると浮浪者のようにも見えるけど、肌は異様に白くて傷一つない。
そんなちぐはぐな格好だから、見かければすぐにわかる。
だけど、この十日間そんな目撃情報は入っていない。
ルミエールのあの様子なら、すぐにでも接触がありそうだと思っていたんだけど、私の勘違いだったのだろうか。
会えないのが少し寂しくも思う。
この様子だと今日も来そうにないかな。
そう思っていた時だった。
「ここにいたか」
ばっとギルドの扉を開け放って現れたのは、まさに先程想像していた人物だった。
あの日と変わらぬ服装で、綺麗な赤髪を揺らしながらまっすぐこちらに近寄ってくる。
あまりに唐突な出来事に私は動けずにいた。
「白竜のが呼んでいる。共に来い」
そう言って私の腕を掴んでくる。
やはりルミエールに頼まれてここに来たようだ。
ちゃんと会いたがってくれていると考えると少し嬉しくなってくる。
でも、今回はこのままついていくわけにはいかない。
「ま、待って!」
「なんだ」
「連れていきたい人がいるんです。一緒に行っちゃだめですか?」
もし、ニクスさんが現れた場合、一緒に調査隊のメンバーを連れていくことになっている。
いつ来ても対応できるようにメンバーは皆ギルドで待機しているからすぐそこにいる。
だから、許可さえもらえればすぐにでも着いていくんだけど……。
「ダメだ。呼んでいるのは貴様だけだ」
そう言って強引に私を引っ張っていこうとする。
踏ん張ろうとするが、ニクスさんの力は強くてそのまま引きずられてしまう。
まあ、ニクスさんが了承しないことはある程度は予想されていた。
だから、最悪後をつける形でついていくことになるというのは話が通っている。
ここはあまり抵抗せずについていくのがいいだろう。
私は目線でメンバーのみんなに合図を送ると諦めて大人しくついていくことにした。
「……おい」
「な、なんでしょう?」
道を歩いている途中、ニクスさんが不機嫌そうな声で話しかけてきた。
思わずびくりと肩を震わせる。
女性なのに凄い迫力のある声だ。威圧されているようで少し肩がすくむ。
「後ろに着いてきている奴がいるな。これ以上着いてくるようなら排除するぞ」
「えっ!?」
私はちらりと後ろの方を見る。
そこには少し距離を開けてついてくる調査隊のみんながいた。
結構距離が離れているし、何よりニクスさんは一度も振り返っていないはずなのになぜ気づいたんだろうか。
後ろとニクスさんを交互に見て言い訳を考える。
「た、たまたま方向が一緒なだけじゃないですか?」
「とぼけなくてもよい。どうせ貴様の言う共に行きたい者なのだろう? 何を企んでいるのか知らないが、白竜のに手を出そうというならタダでは置かんぞ」
ニクスさんの眼光が強くなる。
これは完全にばれてしまっている。
私はどうしていいかわからず慌てるしかなかった。
「退かぬのなら力づくで退いてもらうが、それで構わんな?」
「い、いや、それは……」
「ならばさっさと尾行をやめさせよ。我を怒らせるな」
そう言われてしまってはもう返す言葉もない。
ニクスさんを怒らせることでルミエールに会えなくなるのは困るし、調査隊のみんなが攻撃されるのも困る。
私は観念して調査隊のみんなに事情を話すことにした。
「ふむ、やはり一筋縄ではいかんか」
リーダーであるメルセウスさんが考え込んでいる。
森への道中の何もない道ならばともかく、人通りの多い街中で気づかれるとは思いもしなかった。
ニクスさんは一応私のことを待ってくれている。
すぐに攻撃してこないだけましなのだろうか。警戒心の高さは流石野性暮らしといったところか。
「仕方がない。俺が交渉してみよう。フェル、構わんな?」
「あ、はい」
こうなったら直接説得するしかない。
私はメルセウスさんの交渉術に賭け、共にニクスさんの元へと戻った。
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