表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/235

第二十八話:名付けの意味

 昨日は非常に楽しかった。

 言葉が通じないというハンデを背負いながらも、かすかながら通じ合うことが出来たと思う。

 意思疎通をするためには言葉が喋れなくてはいけないと思っていたけど、案外言葉なんてなくても気持ちは伝わるものなんだな。

 別れるのはちょっと名残惜しかったけど、また来てくれると言っていたから、そこまで寂しくはなかった。

 今度は湖とかに連れて行ってもいいかもしれない。

 何もない場所ではあるけど、湖畔で昼寝とかする分には気持のいい場所だろう。

 その他にも名所がないか調査する必要がありそうだ。

 だだっ広い森だけど、ただただ木が立ち並んでいるだけではない。探せば美しい景色の一つや二つ見つかるはずだ。

 さて、今日はちょっと豪華な獲物を狙ってみよう。こんな機会を用意してくれたニクスへのせめてものお礼だ。

 見つからない時はほんとに見つからないから運が味方に付いてくれることを祈る。

 そんなことを思いながら森の奥地へと飛んでいった。


『帰ったか』


 無事に獲物を入手して住処に戻るとニクスが帰ってきていた。

 ちょっと遠出しすぎて帰りが遅くなってしまったけど、ニクスも帰ってきたばかりのようだから別に問題はないだろう。

 張り切って手に入れた獲物を見せると少し嬉しそうにため息を吐いた。


『それで? あの小娘との時間はどうだった」


『とっても楽しい時間だったよ。もう友達になれたと言ってもいいんじゃないかな』


 また来たいと言ってくれたし、何より名前まで付けてくれたのだ。相当俺のことを気に入ってくれたに違いない。

 言葉が通じないのは残念だけど、向こうの言葉はわかるし、頷いたり首を振ったりするくらいなら俺にもできる。

 そうやって意思疎通できるだけでも楽しいものだ。


『調子に乗るな。そんな簡単に人間に心を許すんじゃない』


『なんで? あ、そうだ、名前を貰ったんだよ。ルミエールって言うんだけど、ニクスもそう呼んでくれたら嬉しいな』


『名前だと!?』


 ニクスがいきなり大声を出すからびっくりした。

 そんなに変な名前だったかな? 俺は気に入ってるんだけど。


『貴様、名付けがどういう意味を持っているのか知っているのか?』


『え?』


 知っているも何も、名付けなんて普通のことだと思うんだけど?

 それとも、魔物の間では何か特別な意味を持つのだろうか。


『名付けは、強力な個体がその者を認めた時にするものだ。名を与えられた魔物はより高みへと至り、その名に誇りをもって過ごさねばならない』


 ほとんどの魔物は名前がない状態だけど、たまに名前を持った強力な個体が存在する。そういう強者に認められた時に与えられるのが名前で、だから名前は特別な意味を持つ。

 一人前の証って感じかな?

 でも、それなら誇るべきことなのでは。


『何か問題あるの?』


『大ありだ。魔物から魔物への名付けはそういう意味だが、人間が魔物に名を与えるのは少し意味が違う。それすなわち、従属だ』


『従属?』


『そうだ。人間は名前で魔物を縛り、自分の意のままに操ろうとする。その人間に命令されれば、魔物は命令に従いたくなるし、その人間に敬意を表するようになる。いわば呪いのようなものだ』


 一応、人間と言っても、テイマーという特別な素質を持つ人間だけがその能力を持ち、名付ける相手は自分を格上だと思っていないといけないといけないらしいけど、もし名前で縛ることが出来たなら、たとえどんな無茶な命令でも従いたくなるらしい。

 相手がテイマーかどうかはただ見ていてもわからないため、高位の魔物は一部を除いて人間は信用しないようにしているらしい。

 ニクスが人間嫌いなのはそういうことなのかもしれないね。


『貴様はドラゴンだからな、普通に名付けようとしても従属はすまい。だが、貴様は人間と仲良くなりたいなどというふざけた感性を持っている。下手に名付けをされて、ころっと従属されては困るのだ』


 まあ確かに、悪い人に従属してしまったらドラゴンなんて色んなことに利用されそうだよね。

 その辺の魔物だったら軽く瞬殺できるし、魔法だってたくさん使えるし。

 でも、フェルはそんな悪い人ではないと思うけどな。

 あの名付けだって、別に縛ろうという意図があったという風には見えなかったし。


『それに本当は貴様が一人前になった時に我が名付けをする予定だったのだ。それをあのような小娘に邪魔されたなど……』


『ニクスも名付けてくれるの?』


『当然だ。貴様は我が子も同じ。親が子に名付けをするのはいたって普通のことだ』


 名前を貰っている魔物の多くは、親が高位の魔物であり、子が一人前になった時に名付けることから名前を持っているということが多いらしい。

 俺には親がいないし、親代わりと言えるニクスが名付けるのはまあ、普通のことか。

 ニクスならどんな名前を付けてくれたのかな。少し気になる。

 あれ、ということはニクスも親から名前を貰ったのかな?


『ニクスも親から名前を貰ったの?』


『いや、我はとある幻獣に名付けてもらった。だが、ニクスという名ではない。それはあくまで人間に呼ばせるための名だ』


『本名じゃないってこと?』


『真名は別にある。それも貴様が一人前になった時に教える予定だった』


 前に、人間にはニクスと呼ばれているって言ってたから、それじゃあニクスも縛られちゃうんじゃないかと思ったけど、どうやら偽名らしい。

 真名が何なのかは気になるけど、大事なことらしいし、ニクスが言う一人前になるまでは聞かない方がいいのかな。


『それはいい。それよりも、あの小娘に何か感じたりはしていないか? 尊敬しているとか守りたいとか』


『うーん、友達として守りたいとは思うけど……』


『……判断が難しいな。できるならもう会わない方が身のためなのだが……』


『それはやだ』


 そこははっきり反論させていただこう。

 せっかく仲良くなれたというのに、これっきり会えないなんてまっぴらごめんだ。

 これからもっと一緒に時間を過ごして友情を深め、そしていつの日にかちゃんと言葉で会話することが夢なのだ。

 それにフェルにだったら従属したっていい。

 フェルだったらそんな無茶なお願いはしないだろうし、悪用もしないだろう。

 フェルは仲間想いのいい子だからね。


『……いっそあの小娘を殺すか』


『ニクス、それだけはニクスでも許さないからな?』


 ニクスが小声でとんでもないことを言い出した。

 俺が言うこと聞かないからって実力行使ってか?

 確かにそうすれば物理的に会えなくなるから、ニクスの心配事は消えるだろうけど、俺は多分発狂する。

 ニクスには育ててもらった恩があるけれど、流石にそれは容認できない。


『……わかった。貴様に嫌われるのは避けたい。だが、せめて合間を取り持たせてくれ。我が奴の信頼を得れば、貴様へのリスクが減る』


『わかってくれたならそれでいいよ』


 元々ニクスがいなければフェルと会うのは難しい。

 どうやってフェルと接触しているのかは知らないけど、ニクスがフェルと仲良くするのは大歓迎だ。

 それに町から森に来るのだって結構命懸けだろうし、ニクスがいれば魔物の露払いくらいはしてくれると思う。

 丸く収まってよかったよかった。


『じゃあ、次回もよろしくね?』


『仕方のない奴だ。こちらの心配も知らないで……』


 悪態をつくニクスだけど、俺はニクスが優しいことを知っている。

 最終的には協力してくれるだろう。

 俺は次にフェルと会う日を楽しみに獲物にかぶりついた。

 感想ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ドラゴン主人公、もっと旅してほしいな〜!なんでいつも人間に感傷的になっちゃうの?(笑) 人間の世界に縛られず、のびのび飛び回るドラゴンの冒険も読みたいです!そういう作品ほんと少ないから、作者さん…お願…
まさかのペット化 前世は社畜だったのに今世では家畜になりました!
これはこれは……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ