第九十六話:外の様子
ゲームであれば、ダンジョンの最奥部には出口に通じるワープゾーンみたいなものがあるけれど、現実では流石にそんなものはない。
いや、こんなゲームみたいな仕様のダンジョンならワンチャンあるんじゃないかと思ったけど、そこらへんは現実準拠らしい。よくわからない。
そう言うわけで、30階層分をまた戻ったわけだが、案の定かなり時間がかかった。
これ、30階層だからまだましだけど、もっと難しいダンジョンはこれよりもっと深い階層まで続いているようだし、絶対に日をまたぐと思うんだけど。
その場合、ダンジョンの中で夜を明かすんだろうか。
洞窟型の場合、一応明かりがないわけではないけれど、ランタンがなければほとんど真っ暗の状況で一夜を明かすとなると時間感覚が狂いそうである。
というか、今回入ったのが確か昼過ぎくらいで、そのあとほぼノンストップで来たとは言っても最初はゴブリン達に邪魔をされなかなか進めず、さらにボス戦でそこそこ時間を使っていると考えると、今頃外は夜だろうか。あるいは、もう朝になっていてもおかしくはない。
町は大丈夫だろうか。メリアさんが指揮を執っているとはいえ、夜通し守り切るのは難しいだろうし、かなり大変そう。
それとも、スタンピードは夜には止まるとかいう都合のいい仕様だったりしないかな? 普通の魔物だったらどこかのタイミングで寝るだろうし、半日以上も動き続けていたら止まっていてもおかしくはなさそうだけど。
まあ、そのあたりは出てみないとわからない。無事でいてくれるといいけど。
「そう言えばニクスさん、私の修業ってどうなるんですか?」
道中、魔物もほとんどいないので暇だったのか、フェルがそんなことを聞いてきた。
確か、ニクスはフェルがボスを倒すことによって修行を終了すると言っていた気がする。
その後、なんだかんだで守護者、もといダンジョンマスターを倒すことで、という風に条件が変わったけど、それは明言されていたわけではない。
今回の場合、フェルはボスは一人で倒しきれているけど、ダンジョンマスターには負けている。
この場合、修行は終了になるのか、それとも継続になるのか、どっちなんだろうね?
俺としては、フェルはすでに十分強くなっていると思う。
対ゴブリン戦がほとんどとはいえ、あのキングゴブリンすら倒せるほどの実力があるのだから、ランク的にはすでにBランクに届いていることだろう。
もちろん、ニクスの目標的にはBランクどころかSランクを目指していそうだけど、この修業はあくまでも基礎的な強さを身に着けるためのものであって、やるべきことはもっと別にあるらしい。
であれば、それなりに強くなった今であれば、基礎の修業に限ってはもう十分なのではないかと思う。
どちらかというと、魔法の修業の方が大事じゃないかな?
切り札的に使っていたようだけど、それは気軽な攻撃に使えないからであって、まだ未熟であるということでもある。
魔法の修業を頑張って、完璧に使えるようになった方ができることも増えていいと思うんだけど。
「まだまだ、と言いたいところだが、いつまでもここに時間をかけてもいられない。それに、我の予想ではしばらくはここでの修業はできなくなるだろうしな」
「なんで?」
「外に出ればわかるだろうよ」
どうやらニクス的にも修行はもういいと思っているようだけど、ここでもう修業ができないってどういうことだろう。
そりゃまあ、スタンピード中だし、それを何とかしない限りはダンジョンの出入りは難しいだろうけど、魔物が多いということは戦う回数も多いということである。
魔物と戦うことを目的としている以上、修行的にはスタンピードは悪いことばかりではなさそうに感じるけどな。
「まもの、ふえた」
よくわからないけれど、入り口に近づくにつれて魔物が増えてきたのでとりあえずそっちに集中する。
ただ、増えてきたと言っても最初に来た時と比べるとかなり少ない。
どうやらかなり数を減らしてくれたようだ。この調子なら、スタンピードが収まるのも時間の問題だろうか?
「外だー!」
間引きの意味も含めて片っ端から倒していき、進むことしばし、ようやく外へと辿り着くことができた。
外はどうやら夜らしい。ダンジョンの中と同じくらい暗く、普通に見るとあまり状況は把握できないが、夜目は効くし、元々暗いダンジョンにいたので目は慣れている。
それで状況を確認してみると、外は酷い状況だった。
荒らされてめちゃくちゃになった露店に、辺りに散らばるホブゴブリンを始めとした魔物の死体。それに何より、それらから立ち上る死臭は地獄かと見まがうほどのものだった。
冒険者の姿は、ない。
やられてしまったのか、それとも町になだれ込んでしまってその対応に追われているのか。辺りを見渡す限り、冒険者らしき死体はないから前者はなさそうだけど、後者だったらそれはそれで大惨事である。
うまい具合に止められているといいんだけど。
「ニクス様!」
ひとまず町に行って誰か事情を知っている人を探そうかと思ったが、そこに声をかけてくる者がいた。
振り返ると、そこには青髪が美しい女性が立っていた。そう、メリアさんだ。
「ニクス様、ご無事で何よりです」
「貴様か。状況はどうなっている?」
「それがですね……」
メリアさんは事情を説明し始める。
俺達がダンジョンに挑んだ後、メリアさんは現場の冒険者達をまとめ上げ、町へゴブリン達が侵入しないように防衛線を張ったらしい。
雑魚であるゴブリン程度なら、一対一であれば頑張れば一般人でも倒せるかもしれないが、出てきているのはその上位種であるホブゴブリンがほとんど。
そんなのが町に流出したらパニックどころではなく、何としても阻止しなければならない案件である。
そう言うわけで、メリアさんは来る前から保険をかけていたらしい。
それは、他の町の冒険者ギルドに応援を頼むこと。
ここ、ザナディエルの周辺にはいくつかの町がある。それなりに距離があるのでもしかしたら間に合わないかもしれないと考えたが、スタンピードが起こっている以上長期戦は必至、なので、先を見据えて応援を頼んだというわけだ。
結果として、防衛は成功した。ギルドに残っていた常駐戦力とその場の冒険者達の力をまとめ、防衛に徹し、何とか数を減らしながら応援を待ち、ついに応援は到着して押し返すことに成功したとのこと。
ダンジョンから溢れ出した魔物をあらかた掃討できたところで一時休憩を挟むため、最低限の戦力をこの場に残し、残りはギルドの方で休んでいるのだという。
俺達が出てきたタイミングはそんな休憩の真っ最中だったというわけだ。
ダンジョンの中にはまだそれなりの数が残っていたようだけど、それはほとんど殲滅したし、外に出ている魔物も冒険者達の活躍によって何とかなった。
これはうまくスタンピードを収めることができたと見ていいだろう。
流石はメリアさん、ナイスな手腕だ。
「そちらはどうでしたか? 守護者は倒せましたか?」
「ああ、奴は倒した」
「それはよかった。流石はニクス様ですね」
「奮闘したのはそこの小娘だ。褒めるならそちらを褒めておけ」
「はい。ありがとうございます。フェルミリア様」
「いえ、私は別に……」
ダンジョンマスターは倒され、魔物はほぼ掃討された。
これでダンジョンは元の機能を取り戻すことだろう。ダンジョンマスターがいなくなったことは残念かもしれないが、人間にとってダンジョンマスターの有無は関係ないしね。ちょっと悲しいけど。
後はこれの後始末が大変そうだけど、ニクスのことだから手伝うことはないだろうな。修行と関係ないし。
だめかもしれないけど、できれば手伝えるように進言してみよう。
これだけ頑張ったのだから、メリアさんにも報われてほしいよね。




