第34話『エルグラシア』 後書き:MAP
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リディスの住む小屋から半ば強制的に追い出されて一息つくと、思わず「ン?」と声が漏れた。
先ほどのやり取りが頭の中でぐるぐると回り始める。
『……一つ一つの質問はイライラするが、変じゃない。
でも、リディスが自分で調べられるなら、何であそこまで聞いてくるんだ?
しかも払うもの払って不良品をつかまされたのに、結局こっちが待たされてる。
気づけば、あいつのペースに乗せられてる気がする……。
鑑定したらあの指輪に毒耐性なんてなかった。
だけど問題は、鑑定をしたタイミングが眠りに落ちた後だったことだ。
最初から効果が無かったのか、それとも途中で力を失ったのか……。
そこがはっきりしない。
初めからだとすると、リディスは間違って渡してきたのか……?』
だが直後に、しつこく繰り返された質問の数々が脳裏に蘇る。
『いや、あの態度。わざと偽物を渡してきた可能性だってある。
とはいえ、死ぬとこだったって言ったときには、心配そうな顔もしてたよなぁ……。
確認が回りくどいだけで、ちゃんと対応してくれているはず!
……が、どうしても気になる』
ぐるぐるとしばらく考え込んだ後、俺は小屋のドアにそろりと近づき、隙間からそっと中を覗き込んだ。
──リディスは椅子に腰掛けて、湯気の立つ茶をすすりながら本を読んでいる。
机の上には魔法陣のような模様や工具が散らばっていて、作業中のように見えなくもない。
「……リディスさん?」
「うわあっ! なんだ、いきなり!」
「……作業は順調なのかな?」
「あ、あぁ、順調だぞ! 今は毒耐性の符号を計測してるんだぞ」
「信じていいんだな……?」
「もちろんだぞ! 作業に集中しなきゃいけないから、外で待っててくれ!」
慌ただしく言い切ると、リディスは手を振って追い出してきた。
しばらく経った後、胸の奥の疑念を拭い切れずに、ぼそりとつぶやく。
「リディスさ、なんかおかしくないか?
やたらと回りくどいことばかり言ってさ。
あいつ対応する気がないんじゃないか……」
ふよふよと浮いていたラースが、淡く光を揺らしながら答える。
「いえ。事実確認や指輪のチェック工程など、話の内容に不自然な点は特にありませんでしたよ!」
「……そ、そうか……?
それにしても、忙しいとか言ってるのも変じゃないか。
普段あいつは、石柱を磨くくらいしかやることないわけだし。
今だって、本を読んでくつろいでたぞ」
ラースは静かに回転しながら、落ち着いた声を響かせる。
「クロ、人には人の事情があります。
我々が知らないだけで、リディスさんにとって大切なことかもしれないじゃないですか。
自分の見えた世界で判断してはいけません」
その口調は不思議と優しげで、心にすっと染み込んでくる。
しばらく黙り込んでから、肩の力を抜いて小さく笑った。
「そうだな……」
冗談めかして続ける。
「ラースと話してると、自分が小さく思えてくるよ」
ラースは小さく浮き上がり、柔らかく明滅した。
「そうですか?
私から見ると、クロの判断力や行動力はすばらしいですよ!」
「……そっか、ありがとうな」
ほんの少しだけ胸の重さが和らいだ気がした。
実際に体は小さいが……と思いながら、巨木へ背を預けた瞬間──。
突然、頭の中にささやき声が響き渡った。
「……困難に立ち向かう美しい生命よ……」
声の意味を考えるよりも早く、強烈なめまいが頭を襲った。
それと同時に、何かが自分の中に流れ込んでくる。
視界がぐらつき、立っている感覚が一気に失われていく。
目の前の景色が左右に傾き、二重に分かれて見えた。
片方は色が薄く、もう片方は濃く、どちらが本物なのか分からない。
目を凝らして焦点を合わせようとするほど、映像はさらに揺れ、輪郭が崩れていった。
息が荒くなり、胸の奥が締め付けられるように苦しくなる。
必死に瞬きを繰り返すと、二重に分かれていた像が少しずつ近づき、やがて一つにまとまっていく。
その瞬間──バチッ!!
鋭い音とともに背中へ衝撃が走り、何かに弾かれたかのように前方へ吹き飛ばされた。
俺の意識はそこで途切れた──。
クロは地面で一度跳ねた後コロコロと転がり、土埃にまみれて力なく倒れ込む。
「クロ!?」
ラースが慌てて声をあげた。
衝撃音を聞きつけて、リディスも小屋から飛び出してくる。
クロはうつぶせで大の字になり、目をぐるぐると回して動かない。
フサフサの尻尾はぺたりと地面に張り付いていた。
「クロ! どうしたんだ、しっかりしろ!」
リディスが慌てて抱きかかえると、前足はだらんと垂れ、ポフポフと頬を叩かれるたびに耳がぴくぴく反応する。
やがてクロのまぶたが震え、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「大丈夫か? すごい音がしたんだぞ」
「……木に触れた途端にめまいがして……気づいたら吹っ飛んでた……」
リディスは眉をひそめ、幹をちらりと見やった。
「そんな馬鹿な。今までそんなこと、起きたことがないぞ」
彼女自身も手を伸ばして幹に触れるが、何も起きない。
「ほら、俺には何も反応しない。クロだけだ」
クロはふらりと立ち上がると、納得いかない顔で恐る恐る《エルグラシア》に近づき、爪先をそろりと伸ばす。
意を決したように、軽くツンツンと突いているが、何も反応は見られない。
クロとリディスは首をかしげた。ラースも困惑したように明滅している。
「……???」
しばらく幹を見つめていたが、答えは出ない。
意識の底に、なぜか少し懐かしい感覚が残っていた。
遠い昔にどこかで感じたような──そんな曖昧な気配が胸の奥に漂っている。
やがてハッとしたように顔を上げる。
今は──指輪のことだ。
墓所に行くために必要な、大事な話を忘れるわけにはいかない。
幹から視線を外し、リディスに向き直った。
「……だいぶ時間がたったけど、できたのか」
リディスは胸を張って答える。
「あぁ、さっき仕上がったところだぞ!」
そう言うと、リディスは小屋へと足を運び、中から指輪を持って戻ってきた。
差し出されたそれは、以前のものよりも金属の色合いがわずかに深く、縁には細かな模様が刻まれている。
光を受けると淡い輝きが表面を走り、まるで別の装飾品に思える。
「……これ、本当に俺が渡した指輪か?」
リディスは少し笑って肩をすくめた。
「装飾とかも変えたんだ。前より良くなってるはずだぞ」
差し出された指輪を無言で受け取り、掌に載せて《鑑定》を行う。
<<耐毒の指輪。毒を防ぐ。>>
「う、うーん……?
まぁ確かに大丈夫そうに見えるな」
リディスは力強く頷き、言葉を重ねる。
「大丈夫、間違いないぞ!」
どうしてもリディスの言動を怪しく感じてしまうが、指輪に問題がない以上、とりあえず墓所へ向かうしかなさそうだ。
フサフサの尻尾に指輪を通しながら、ふと言葉が浮かぶ。
……あの時、『生命』……とか聞こえたような……?
確かめようにも記憶は曖昧で、思い出そうとすればするほど霧のように散っていく。
後ろを振り返ってみるものの、《エルグラシア》は答えを返すことなく、ただ静かにたたずんでいた。
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