第26話『待機』
気に入っていただけましたら、お気に入り登録をお願いいたします!
旅団グッドボーイの犬獣人フェルナ=ウェルグリスは、副団長エルマから"待機"を言い渡された後、岩の上にぽつんと座っていた。
皆が森に入ってから、もうずいぶん時間が経った気がする。
しかし、周囲は静かで、風の音と木々のざわめきしか聞こえない。
「……遅いなぁ」
銀色の瞳をぱちぱちと瞬かせながら、フェルナはポケットを探る。
何か食べ物が残っていないかと、指先をもぞもぞと動かす。
けれど、出てくるのは小さな糸くずや石ころばかり。
「……あっ!」
ようやく見つけたのは、干し肉のかけら。
指先ほどの小さな破片を大事そうに口に運び、もぐもぐと噛みしめる。
それでも空腹は満たされず、腹の虫がぐぅと鳴いた。
フェルナは荷物の方へ視線を向ける。
誰かの食料袋が見えるけれど、勝手に開けるのはダメだとローに言われていた。
「ララさんの料理が食べたいなぁ……」
ぽつりと呟いて、フェルナは膝を抱える。
『皆が戻ってきたら、まずはしっかりとごはんをもらわないと……』
そう思って、またじっと待つが、誰も戻ってくる気配がない。
「……皆、大丈夫なのかな」
風が吹いて、木の葉が揺れる。
フェルナは、ふと仲間の言葉を思い出した。
「ララさんは、“仲間がピンチのときは助けを呼ぶこと”って言ってたよね。
でも、エルマさんは、“ここで待機”って言ってた。言うこと聞かないといけないよね。
あれ?でも今がピンチなのか分かんないや」
フェルナは頭を抱えて、ぐるぐる考える。
「んん??待機でもピンチなら、助けを呼びに行っていいの……?
ううーん……?でも皆困ってるかもしれないし……ううーん……」
そう思ったフェルナは、ふいに立ち上がる。
そして、両手を口に添えて、森の奥に向かって思い切り叫んだ。
「ララさ~~ん!エルマさ~~ん!大丈夫ですか~~!」
声が森に吸い込まれていく。
しばらくの沈黙のあと──。
突然、茂みの奥からがやがやと楽しそうな声が返ってきた。
「おーい!皆こっちにいるぞー!嬢ちゃんも早くこいよ!」
「ごはんもいっぱいあるぞー!芋も焼けたし、肉もあるぞー!」
フェルナはぴくりと耳を動かし、銀色の瞳をぱちぱちと瞬かせた。
「……え?」
どうやら、すぐ近くの茂みの向こうで、誰かが食事をしているらしい。
「えーー、そうなの?でも、エルマさんに待機しろって言われてたからなぁ……」
フェルナは岩の上から一歩踏み出した後、すぐに立ち止まった。
「カイルさんもローさんもいるのー!?」
問いかけに対し、茂みの奥の喧騒が、ぴたりと止まり、静寂が流れる。
そして、間を置いて──先ほどよりも少しだけ調子の外れた声が返ってきた。
「カイルもローもいるよ!ララもエルマも奥で食べてるよ!早く来いってさ!」
フェルナはぽかんと口を開けたまま、困惑した表情で立ち尽くす。
荷物の方へ一度視線を向け、すぐにまた茂みの方へ目を戻す。
「……え?みんなごはん食べてるの……?でも荷物……待機……」
フェルナの耳がぴくぴくと動き、足がじりじりと前へ出る。
そして、ふらふらと引き寄せられるように、森の奥へと入っていった。
茂みをかき分けると、そこには楽しそうな人々がいた。
焚き火の周りで笑い声が響き、鍋からは湯気が立っている。
「……わぁ……」
フェルナの瞳が輝く。
その輪の中には、カイルもエルマもいた。
カイルは岩に腰かけて笑っていて、エルマはパンをちぎりながら、ララと何か話している。
「ごはん……!」
フェルナはぱっと表情を明るくして、駆け出した。
焚き火の輪へ向かって、嬉しそうに手を伸ばす。
その瞬間──視界が、ふいに真っ白になった。
音も、匂いも、風も、すべてが消えた。
足元の感触もなく、ただ白い空間が広がっている。
目の前には、球体が一つ浮かんでいる。
フェルナはきょろきょろと辺りを見回す。
「……え?ごはん……?カイルさん……?お鍋……」
声は、どこにも届かない。
焚き火も、仲間の姿も、もう見えなかった。
------------
身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
ラースのパーツ:
《言語パーツ》《通信パーツ》
---
次回2025/11/28 8:00頃、次話を更新予定です




