第25話『夢牢』 後書き:イラスト
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見渡す限り何も無い空間に、ポツンと一つ、球体が浮いている。
カイルは先ほどの状況を思い起こす。
『──一体、何が起きた?
僕が声をかけるまで、背後にはエルマ達三人の気配が確かにあった。読み違えるはずがない。
なのに、あの声が聞こえた瞬間には、もう誰の気配もなかった。
そして今、真っ白な空間に、球体が一つだけ……か』
そのとき、空間に柔らかい声が響いた。
「初めまして。私は《断絶の翼》、カーヴァ=ノワと申します。
あなた様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」
怪しげな自己紹介に対しカイルは一瞬だけ眉を上げ、にっこりと笑ってみせた。
「こんにちは、初めまして。
……僕はレイルと呼ばれているよ。ここはどこなんだい?」
「ここは、《夢牢》と呼ばれる空間でございます」
「夢牢……ひょっとして、調査隊や冒険者が行方不明になってるのと関係してるのかな?」
「左様でございます。
あなた様同様、他の方々も、それぞれ夢牢に囚われております」
カイルは肩を落とし、苦笑する。
「結局、“救助される側”になっちゃったか……はぁ、情けない。
それで?どうすればここから出られるか教えてくれたりするのかな?」
「もちろんでございます。
そちらにある夢牢の核が破壊されれば、全ての方が解放されます」
「なるほど。随分丁寧に教えてくれるんだね。
そのついでに、ここから出してくれてもいいんじゃないか?」
「申し訳ありませんが、その願いは、叶えられません」
カイルは目を細め、声にわずかな怒気をにじませる。
「ふむ……諸々の説明が何かの条件になっているのか、余裕の表れなのか……。
いずれにしろ、丁寧すぎる態度が癪に障るね」
その言葉に、カーヴァの声がわずかに震えた。
「クワッ!?こ、これは失礼いたしました。
丁寧な口調は生来のものでございます。
また、あなた様の望みを叶えられない理由は、私めも、捕らえられている側であるためです」
カイルは目を見開き、少しだけ息を漏らす。
「君も……?」
「はい。全ては《夢牢》の主、ノクス=エクリアという、蜘蛛型の魔物による所業。
ここ《夢幻の静域》には彼の者の魔糸が張り巡らされており、それに触れた者は、即座に意識だけが《夢牢》に囚われてしまいます。
そして、私も囚われてしまった者の一人、ということでございます」
カーヴァの焦りや口調から、嘘は感じられなかった。
カイルはしばらく沈黙し、そして静かに頷いた。
「そっか……それは、怒ってしまって悪かったね。信用するよ。
……ついでに、"レイル"は偽名で、僕の本当の名前は、カイルだよ。よろしくね。
じゃあ、囚われた者同士、協力してここから脱出したいんだけどさ。
何か他に情報を持っていれば、提供してほしいんだけど……」
「はい、もちろん惜しみなくご協力させていただきます。
まず、にっくきノクスめは囚えた者の能力を使ったり、その幻影を生み出すことが可能です。
例えば、先ほどカイル様が森で見た人間は、ノクスによって捉えられたものの幻影となります」
「ふむふむ」
「次に、私の持つ能力は、《魔力断絶》でございます。
これは大変便利な能力でして、ありとあらゆる魔力を《断絶》することができるのですが……。
ノクスはこの能力をフルに活用しております。
本来、ノクスの力は、人の意識を夢牢に閉じ込める程度のものでございました。
囚われた者同士が力を合わせれば、脱出も可能だったはずなのです。
しかし、私の“断絶”の力を悪用したことで、夢牢に囚われた者同士が魔力的に遮断され、互いに干渉できなくなってしまいました。
その結果、皆さまは意識だけがこの空間に飛ばされ、互いに干渉できない状態となっております。
さらに、身に着けていた装備類とは魔力的に《断絶》された状態になっております」
カイルは眉をひそめ、ぽつりと呟いた。
「なるほど……“夢牢”と“断絶”か。最悪の組み合わせだね。
ちなみに君は、誰とでも自由に会話ができたりするのかな?」
「いいえ。ノクスは私の能力《断絶》を利用しているため、私とノクスは魔力的に繋がった状態となっております。
その影響で、時折混線したかのように、他の囚われた方々と会話をできることがございます。
ただし、それは制御できるものではなく、偶発的な現象に過ぎません」
「つまり、他の人たちと連携することはできないってことか」
「はい。さらに、ノクスは囚えた者の魔力を使って、核を強化しております。
現在、百名以上は囚われているかと思いますが、その分、核の防御力も格段に高まっております」
カイルは眉をひそめる。
「え……それってつまり……」
「はい。つまり、ノクスを打ち破る方法は、お一人で、装備の力に頼ることなく。
ズバリ、囚われた者全員の総量を上回る魔力を夢牢の核にぶつけて、破壊するのです!」
カイルは肩をすくめ、苦笑した。
「ズバリって……いやいやいや……。
どう考えても無理だよ……魔力量なんて、ララ一人に勝てるかどうか怪しいくらいだよ。
他に方法はないのかな?」
カーヴァの声は変わらず丁寧だったが、どこか申し訳なさげだった。
「夢牢の中でできることは何もございません。
後は、ノクス本体を直接叩くことですが……。
恐らく、最終的にノクス自身が危うくなった場合は、我々を吸収した上で逃走を図ることが想定されます」
「それは最悪だね。
……ちなみに、僕たちの体は、今どうなってるのかな?」
「はい。現在、私や皆さまの肉体は《夢幻の静域》の上部にて、ノクスの魔糸によって固定されております。
ノクスにとって貴重な魔力供給源でございますので、最低限の栄養は与えられており、命の危険はないものと思われます。
ただ、長時間この空間にいると抵抗する気力が失われていき、多くの方は反応を示さなくなります」
「なるほど……それは何とかしないとね」
カイルは小さく息を吐き、目の前の球体──夢牢の核へと歩を進める。
そして、拳に魔力を込め、力いっぱい殴りつけた。
衝撃が空間全体に波紋のように広がる。
だが、核は微動だにせず、ただ静かにそこに浮かんでいた。
カイルは拳を下ろし、ぽつりと呟いた。
「……やっぱり、そう簡単にはいかないか。
うちのメンバーも、この状況じゃ打つ手がないって感じかな……」
そのとき──先ほど森の中で聞いた、重く冷たい声が空間に響き渡った。
「お前ごときの力が届くことはない」
カイルは拳を下ろしたまま、声の主に向かって顔を上げる。
その表情には、わずかな皮肉が浮かんでいた。
「おや、君が夢牢の主かな」
一拍の沈黙のあと、再び声が響く。
「……無駄な抵抗はやめることだな。すぐに──何も分からなくなる……」
「どうだろうね」
カイルはため息を一つ吐き、核から目をそらす。
『フェルちゃんが助けを呼んでくれてることに期待するけど……
だとしても、これは相当まずいんじゃないかなぁ……』
カイルの表情には、静かな焦りが滲んでいた。
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