第24話『夢幻の静域』 後書き:イラスト
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旅団グッドボーイの団長、《カイル=ヴェスティン》は、真っ白な空間に、ひとり立ち尽くしていた。
そこには直径2メートルほどの球体が一つだけ、静かに浮かんでいる。
彼はゆっくりと球体に歩み寄り、拳に魔力を込めた。
「素手はあまり得意じゃないんだけど……なっ!」
言葉とは裏腹に、拳が放つ一撃は岩盤すら砕く威力のはずだった。
しかし、球体に変化は無く、ただ静かにそこに浮かんでいる。
カイルは小さくため息を漏らし、肩を落とした。
「せめて……フェルちゃんが助けを呼んでくれていればいいんだけどな」
──事の発端は数刻前に遡る。
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旅団グッドボーイの魔律術師、ララ=レルフィアは、エリア入り口に立つ《刻印の刻まれた石柱》の埃を払った。
「ここは《夢幻の静域》だってさ」
商人ロー=グラフトが石柱に近づき、取り付けられたタグを読み取る。
「やはり、行方不明になった調査隊もこのエリアに来ていたようですね。日付は……一か月前のようですね」
ダンジョン巡霊の神座では、機械帝国アイゼクルと魔法大国フェリシエルが共同探査協定を結び、日夜探索を進めている。
各国の公式調査隊は、いつどこを通ったかを記録するため、エリア入り口の石柱にタグを取り付けている。
隊名や侵入日時が刻まれたこのタグは、今回のようなトラブル時に特に役立つ。
両国は混成部隊を編成し、数十人規模の調査隊を送り込んでいるが──そのいくつかが、消息を絶った。
冒険者への依頼の種類は多岐にわたるが、今回の任務は“達成型”。
情報提供、捜索、救助など、いずれかの条件を満たすことで既定の報酬が渡され、失敗しても罰則はない。
しかし、旅団グッドボーイは報酬目当てではなく、仲間を探す想いでこの地に踏み込んでいた。
カイル=ヴェスティンは、石柱の前で一度振り返り、仲間に声をかけた。
「依頼からかなり時間が経ってて、何があるかは分からない。けど、希望は捨てずに行こう。
それから、ここは明るくて見通しもいいし、森も浅そうに見えるけど……捜索系の依頼は、二次被害が出ることが多い。
引き続き、警戒して進もう」
仲間たちは頷き、慎重に足を踏み入れる。
エリア内は、確かに森が広がっていたが、上空は開けており、ルーミナ菌の光が天井を照らしている。
木々の間を抜ける光が煌めき、危険な生き物の気配も感じられない。
だが、奥へ進むにつれて、空気がじわりと湿り始め、足元には薄い霧が漂い始めていた。
「止まれ」
先頭を歩いていた女副団長エルマ=ハイトレヴが、鋭く声を発した。
ローがすぐに反応する。
「どうしたんですか?」
ララが周囲を見渡しながら答える。
「魔力も霊力も、特に異常は感じませんけど……」
エルマは眉をひそめる。
『そう──確かに何も“見えない”がな。
ただの森に見えるが、この地形と空気……。
クソ野郎が罠を仕掛けて待ってるような気配がするンだよなぁ……』
そのままフェルナの方へ振り返る。
「この先妙な雰囲気がする。フェルナはここで待機」
カイルは剣に手をかけながら、周囲を警戒する。
「僕にも危険は感じられないが……エルマの勘は当たるからなぁ。
……フェルちゃん、僕らが戻らなかったら、エリアを2つ戻って、他の調査隊に助けを求めるんだよ。
それじゃ、僕が前を行こう。3人は背後を頼む。」
フェルナは素直に頷き、その場で待機する。
その姿を確認してから、カイルは警戒態勢を保ったまま、森の奥へと足を踏み入れた。
しばらく進むと、木々の向こうから、かすかなうめき声が聞こえてきた。
枝葉をかき分け、蜘蛛の巣を払いながら声のする方へ近づくと、一人の冒険者が倒れていた。足を怪我しているようだ。
「あんた、冒険者か?た、助けてくれ……」
その姿に違和感はない。
だが、カイルは剣を構えたまま、背後の仲間に向けて小声で囁く。
「うかつに近づくなよ」
──だが、返ってきたのは、聞き覚えのない声だった。
「もう遅い」
カイルは瞬時に剣を振り抜き、背後を斬った。
だが、斬撃は空を切り、次の瞬間──風景が、音が、すべて消え去る。
気づけば、カイルは真っ白な空間にひとり立っていた。
手に握っていたはずの剣は、跡形もなく消えていた。
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身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
ラースのパーツ:
《言語パーツ》《通信パーツ》
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