第21話『異変』 後書き:MAP
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リディスはマップを指さしながら、周辺のエリアについて語り始めた。
「ここの1つ先のエリアは“絡縛の遺跡”だ。
ここには、“チクルベリー”っていう赤くて小さい果実が生えてるんだ。
甘くてすーっ……ごくおいしいから、取ってくれば、何か交換してやるぞ!」
「その次、2つ目のエリアがさっき言った毒地帯で、“鉄殻の墓所”っていうんだ。
岩と貝殻に混じって、“ミネラルシェル”と“ネブラシェル”って貝がいるぞ。
どっちもほっぺたが落ちるほど美味いんだが……。
“ネブラシェル”は生で食べると眠くなるから、火を通す必要があるんだぞ。
あと、どっちも大して危険な生物はいないと思うぞ」
クロは地図を見ながらうなずいた。
「分かった。……この先は問題なさそうだな。
食べ物を見つけたら、取れるだけ取ってくるよ。その先のエリアはどうなってるんだ?」
リディスは次のエリアを指しながら、声を少し落とした。
「その先は、"灼熱の谷"、"蒼天の森"、"雷鳴の空域"と続くぞ。
でもな、多分、危なくて進めないと思うぞ」
「名前からして、どれも穏やかじゃなさそうだな……」
ラースは小さく明滅しながら、質問を投げかけた。
「"危ない"というのは、危険な生物が出るということですか?」
リディスは首を横に振りながら、少し考えるような表情を見せる。
「生物もだけど、どっちかっていうと環境の問題だぞ。
灼熱の谷は溶岩が流れていて、雷鳴の空域は空を裂くように雷が走ってる。
いったん、エリアの中に入らず、入り口で様子を見ればいいと思うぞ」
クロは納得したようにうなずく。
「なるほど、慎重に進んだほうが良さそうだな。
他にも、教えてほしいんだが……リディスは人間に会ったことがあるか?」
「昔、一度だけ会ったことがあるぞ!」
「それは、突然楽器を弾き始める、長い髪を後ろで束ねた怪しい女か?」
「いや、全然違うぞ。髪がチリチリした、デカい男だぞ」
リディスは嬉しそうに続ける。
「近くに空腹で倒れてたところを、俺が助けてやったんだ!」
「セレナとはまた別の人間か……。
普通の人間はたどり着けないって聞いたが、そいつは、どうやってここに来たんだ?」
リディスはジト目で見つめながら、何故か誇らしげに答える。
「数か月かけて、数百のエリアを、歩いてきたらしいぞ!
武者修行なんだってさ!すごいよな!
でも、しばらくここに泊まったあと、ふらっと出ていったぞ」
「そいつもかなり特殊なヤツっぽいな。なるほど……。
ちなみに、俺たちも安全に休息できる場所が欲しいんだが……ここに泊まらせてもらえないか?」
「ん?お前らも泊まりたいのか?
そうだな……食べ物を出すなら、泊めてやるぞ」
交渉の結果、いくつかのグルーツ・バインの果実と引き換えに泊めてもらえることになった。
クロは果実を手渡しながら、礼を言った。
「ありがとう、リディス。ついでに、いくつか質問してもいいか?」
リディスは頷いた。
「その辺に立ってる石柱は、読めるのか?」
「読めないぞ!」
即答するリディスに対し、クロはラースを指しながら続ける。
「そうか。それと、こいつのパーツを探してるんだが、見たことは?」
「見たことないぞ!」
「なるほど。質問ばかりで悪いな。
あと、リディスが最後にラースを見た場所を教えてくれないか?」
リディスは、3Dマップ上の"闇の刻印の廃域"と思われる場所を指さした。
「このあたりの洞窟内だぞ!ラースのパーツか……困ったことがあれば協力するぞ!」
「助かるよ。ありがとう、リディス」
「別に気にするな!泊まるなら、そっちの部屋を使っていいぞ!」
リディスの小屋の一室に入ると、木の香りがほのかに漂っていた。
壁際には小さなベッドが一つ置かれており、ラースは嬉しそうにくるりと一回転する。
「きれいな部屋ですし、とてもいい人そうですね!」
「いい人?……そうだな……悪い奴ではなさそうなんだが……」
言葉を濁しながらクロは考えを巡らせる。
『ここに来てから、俺は一度も"ラース"という名前を口にしていない。
それなのに、リディスは最後に"ラース"を見た場所を正確に答えた。』
クロはベッドに腰を下ろし、静かに思考を巡らせる。
『つまり──リディスは、元々ラースのことを知っていた、ということになる。
明確な害意は感じられないが、なぜかラースに関して嘘をついている。』
しばらくは、慎重に様子を見たほうがよさそうだ。
静けさに包まれて、しばらく時間が経った頃。
窓の隙間から部屋の中に淡い光が差していた。
まくらの上で、クロはむくりと起き上がった。
目を細めて周囲を見渡し、布団の上でじっとしているラースの姿を見つける。
クロはラースのそばへ近づき、ぽすんと横になり身を寄せて丸くなった。
ラースは一瞬、ぴくりと反応した。
「……なぜ、くっつくのですか?」
クロは目を閉じたまま、もぞもぞとラースの側にさらに寄り添い、二度寝に入った。
「何か落ち着かなくてさ……あ、意外とあったかい」
ラースは考えるように左右交互に明滅した後、sleepモードに移行する。
部屋の中には、静かな呼吸音が響いていた。
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クロたちのいる《巡る霊脈の地》のさらに深層にて。
詩の放浪者セレナ=ハーモニックは、ユニークスキルであるサーキュレイト・バラッドを用いて、いつものように気の向くまま、ダンジョン内を彷徨っていた。
本来この森では、群生する果実から煌びやかな魔力反響を感じられるはずだったが、今日はなぜか音もなく静まり返っている。
「このあたり、どうしたんだろ。
今までこんなこと無かったのに、なんかおかしいね……」
少し上空に上がり、スキルを低速飛行モードに切り替える。
見下ろすと、整った森林地帯の一角に、紫色の魔力沈殿が広がっていた。
ふいに視界の端に高速で迫る何かを捉え、慌てて回避する。
「うわっと!もー、何なのさ……」
すり抜けざまに振り返ると、変色した樹木が不自然な動きでうごめいていた。
「……まさに"昏く燃える彗星のような情熱"だね!」
ふと気づくと木々の間では、紫色の血管を体表に浮き上がらせた動物たちが、泡を吐きながら震えている。
異様な光景に言葉を失っていると、すべての生き物が一斉にこちらへ視線を向けた。
次の瞬間、樹木は唸りを上げ、動物や魔物が同時に襲いかかってくる。
右へ左へ旋回しながら、慌ててスキルによる自動回避に切り替え、襲撃の波をすり抜ける。
「うわわわ!なにこれ!!まずいってーー!」
樹木や動物、魔物だけでなく、岩石や土までも、一つの意思を持つかのように塊となり、螺旋を描きこちらへ向かってくる。
悪夢のような攻撃の中、上層へ向かう一筋の音に沿って、必死で加速する。
「どうなってるの、ここーーー!」
急速に遠ざかる背後、遠く下層の奥深くから、おぞましい魔力が立ち上っていた。
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身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
ラースのパーツ:
《言語パーツ》《通信パーツ》
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