冒険者ライセンス
冒険者ギルドの待合室に向かうと、ハルカちゃんの他にもう一人、背の高いスキンヘッドのおじさんが居た。
この地域の冒険者ギルドの一番偉い人。ギルドマスターのカズナリさんだ。
細マッチョで顔がとてつもなく怖いけど、何かと面倒見が良い人である。
「ミナト。モンスター討伐の実績を達成したって本当か?」
「はい! と言っても倒したのは僕じゃ無いんですけどね」
「だろうな。お前さんが剣でゴブリンを倒した、なんて誰も信じやしない」
「あはは……」
つい苦笑いしてしまう。僕の貧弱さはこのギルドの職員さんなら誰でも知ってることだからなぁ。
「で、そっちの二人は……冒険者か?」
「シロは冒険者では無いわ。確かに配信映えする愛らしさではあるし、一瞬でトップを取れると思うけどね」
「クロもライセンスを持っていません。ですが戦えます」
無駄に自信満々なマシロさんに対して、今も僕の腕に抱き着いているクロさん。
柔らかいしいい匂いだけど周りの目が気になるからそろそろ離して欲しい。
「訳アリって事か。まぁ良い、今回三人分のライセンスを出せば良いのか?」
「そうですね。ミナトさんをお守りする為にはクロもライセンスが必要です」
「折角だからシロのライセンスも出しなさい。速やかに」
「えーと……そういう事で、お願いできますか?」
「ふむ。じゃあこっちでステータスの登録を行うから、プレートに手を当ててくれ」
カズナリさんが言いながら取り出して来たのはステータス読み取りの魔道具だ。
ゲームなんかでよくある、その人の適性を数値化してくれる便利な代物である。
ダンジョンで有用な能力しか数値化してくれない難点もあるらしいけど、まぁそこはどうでも良い。
とにかく、僕はこれがあまり好きじゃない。
好きじゃないけど……まぁ、仕方ないか。
「仕方ないわね。これで良いのかしら?」
真っ先にマシロさんがプレートに手を当てる。
すると空中にディスプレイみたいなものが浮かび上がった。
■基本ステータス:体力S 腕力A 耐久S 敏捷S 魔力A
■保有スキル:天真嵐漫、狂嵐怒濤、神羅万掌
■適性属性:水、風、雷
■適性職業:ソードダンサー(最上級職)
「これがシロのステータスとやら?」
マシロさんが詰まら無さそうにステータスを眺める中、カズナリさんとハルカちゃん、そして僕は愕然としていた。
ステータスのランクはSからFまであるけど、一流の冒険者でも普通はA止まりだ。
Sランクステータスなんて『奇跡の英雄』と呼ばれた最初期のパーティメンバーでしか記録されていない。
それに適性が凄い。上手く扱える魔道具の属性が三つもあるし、職業は最上級職だ。
なんでこの人、今まで冒険者やってなかったんだろう。
「おいおい、化け物みたいなステータスだな……これならCランクライセンスは出せるぞ」
「あら、最高ランクじゃないの? シロなのに?」
「あのな嬢ちゃん。冒険者ライセンスってのは普通はFからだ。Cランクスタートなんてそいうそうあるもんじゃない」
「そう、ならいいわ。もらっておいてあげる」
またもや胸の下で腕を組んでのどや顔。さすがのマシロさんだ。
うーん……何気に可愛いんだけど、調子に乗りそうだから絶対に口にはしないでおこう。
「ほれ、これが嬢ちゃんのライセンスカードだ。無くさないようにな」
カズナリさんが渡して来たプレートを受け取ると、マシロさんは退屈そうにそれを見詰める。
対して興味がある訳でもないのだろう。もったいない事だ。
「次はクロですね。宜しくお願いします」
続けてクロさんがプレートに手を当てる。
するとマシロさんの時と同様に、空中にディスプレイのようなものが出てきた。
■基本ステータス:体力A 腕力S 耐久A 敏捷A 魔力S
■保有スキル:深淵の邂逅、最重量級之献身愛
■適性属性:火、土、光、闇
■適性職業:魔導師(最上級職)
あーうん。まぁそんな気はしてた。
ステータスSランクが二つに得意魔法属性が四つかぁ。クロさんもとんでもないな。
……二つ目のスキルに関しては見なかったことにしよう。
「魔導師。魔道具を使って戦う職業だったでしょうか」
「このステータスならそっちの嬢ちゃんもCランクだな。ほらよ」
「ありがとうございます」
プレートを受け取ったクロさんはそのまま胸元にすっとしまいこんだ。
何てとこに入れてんだ。てか入るのか。凄いな。
「本部への報告は後にするとして……ミナト、次はお前さんだ」
「うっ……は、はい」
カズナリさんに言われて手を伸ばす。かなり嫌だけど、ライセンス登録のためには仕方のない事だ。
魔道具のプレートに手を当てると、先の二人と同じように空中に文字が浮かび上がって来た。
それを見て、カズナリさんとハルカちゃんは安心したように溜息を吐き出す。
■基本ステータス;体力D 腕力E 耐久D 敏捷C 魔力F
■保有スキル:無し
■適性属性:無
■適性職業;無し
これが僕のステータスだ。前に見た時より耐久が上がってるのは嬉しいけど、マシロさんやクロさんとは比べ物にならない。
というか普通の人よりもだいぶ低いし、スキルも適性属性も適性職業も全部無し。
こんな能力値で冒険者をやろうって方がどうかしているのかもしれない。
それでも僕は、スタート地点に立つことが出来た。
手助けしてもらった結果だとしても、ようやく。
「相変わらず低いな……まぁ、分かってると思うがお前さんはFランクからだ。頑張れよ」
「ありがとうございます!」
手渡されたプレート型の魔道具。冒険者ライセンス。
ずっと夢見てきたそれを両手で握りしめ、滲んで来た涙をこらえる。
まだだ。僕はようやくスタート地点に立っただけ。これからが本番だ。
早く「あの人」に追いつけるように。僕の夢を叶える為に。
頑張ろうと、改めて心に強く誓う。
「それじゃあさっそくダンジョン配信用の機材を渡すから、着いてきてくれ」
「わかりました!」
うながされるまま、僕たちは隣の部屋へと足を運んだ。
次話はちょっとえちちです。




