3.デトロイト恋物語【前編】
スピードは落とさずエッジでカーブを描く。足をクロスさせて飛び上がるのは、得意なループジャンプの軌道。思い切り飛び上がって――
待っていたのは衝撃だった。
「いててて……」
尻が思い切り痛い。四回転の分、転倒したときの衝撃も半端ない。
氷に投げ出された俺の横を、コリンズさんが通り過ぎていった。ネイト・コリンズ。24歳。五輪はバンクーバーとソチの2大会連続アメリカ代表。全米選手権を3度制したことのある実力選手だ。世界選手権は12年の2位が最高。この間の世界選手権でも5位と実力を示している。反対側のカーブまで進み、四回転トウループを決める。
「やっぱり難しいな……」
のろのろと立ち上がる。踏み切りは問題ないのだが、どうしてもまだ、回り切らないうちに降りてきてしまう。これが本日10回目の挑戦で結果はすべて転倒だ。いい加減足が痛くなってきた。
「いやいや、いい線いってるよ。踏み切のタイミングはバッチリだし、太ももの力が付けば成功率も上がるさ。あと、もう少し腕を引き付けるといいかな」
俺の失敗ジャンプを遠くから見ていた堤先生がやってくる。
「マサチカ!」
いくつかアドバイスをもらっていると、コリンズさんが四回転を決めた反対側のカーブの方から声が届いた。金髪で同い年のアメリカ人。
友人のジョアンナ・クローンだ。
今季、彼女はフリーの振り付けを堤先生に依頼している。それを聞いた時「マジかよ」と俺は思ってしまったし、先生は先生で『外国の選手に振り付けるなんて初めてだなぁ。しかも俺に依頼するとか彼女も正気じゃないよね。博打でも打ちたいのかなぁあっはっは』と爆笑しながらデトロイトに向かったのだ。
「まぁ、もう少し練習しててみてよ。俺はジョアンナの振り付け見てくるから。時々リチャードにも見ててもらって」
堤先生はそうしてジョアンナのところにするっと滑っていく。
いま、このスケートリンクには10人を超える選手が存在していて、10人を超える指導者がそれぞれの方法で指導をしている。
その中で、ひときわ存在感があるのがリチャード・デイヴィスだ。
年は50手前で、背が高く、金髪は胸のあたりまで長い。文句なく格好いいのだが、フィギュアスケートコーチというより人気バンドのギタリストのような雰囲気がある。そんなリチャードは、このリンクのヘッドコーチで堤先生の元師匠だ。現役途中で師弟関係を解消したが、その後は良好な友人関係が続いている。
ジャンプ指導に定評があり、彼は堤先生をして「俺がクワド飛べるようになったのはリチャードのお陰」と言わしめるほどなのだ。
リチャードが頷いて、もう一回飛んでみろ、と目で言ってくる。了解して、もう一回飛ぶための準備に取り掛かる。
6月下旬のデトロイト。ドーナツ化現象が進んだ街のリンクでは、各々が戦っていくための牙を虎視眈々と磨いていた。
*
2016年世界選手権6位入賞をはじめとして、昨シーズンの実績は全日本2位、四大陸選手権3位、GPシリーズ日本大会で3位。GPシリーズを一戦欠場したとはいえ、派手な怪我もなく、悪くはないシニア1年目だった。
悪くないと同時に、世界の壁の高さを改めて実感させられたシーズンでもあった。世界選手権優勝経験のあるベテラン、フランスのフィリップ・ミルナー。中国の四回転王チャン・ロン。ソチ五輪金メダリスト、日本の菅原出雲。アメリカの実力者、ネイト・コリンズ。……忘れてはならない、ロシアのアンドレイ・ヴォルコフ。
彼らはみな、2種類以上の4回転を常備していた。菅原さんとミルナー、コリンズさんはサルコウとトウループ。チャン・ロンはトウループとフリップ。そしてヴォルコフはルッツとサルコウ、トウループ。その中でサルコウ1種類だけの俺が6位に食い込めたのは上々な結果かもしれない。
だが。これから上を目指すのであれば、四回転の種類を増やすのは必須だ。
シーズンが終わって、四回転の種類を増やすことに迷いはなかった。増やさない事には、これ以上の結果は望めないだろう。4月に里帰りから横浜に戻った時に、真っ先に堤先生に提案した。
『そうだねー。じゃあクワドふやそっか。どれにする? やっぱり手っ取り早くトウループから? ループ? 得意だから飛べそうだよね。フリップも。ルッツ……はちょっとてこずるけどやってみる? 一応全部教えられるよ。ホラ、ビデオあるし』
快く承諾してくれた先生は、そういってがさがさと自室の棚をひっくり返した。
取り出したのはビデオテープ。それを見て……仰天半分、憤り半分の感情が沸き上がる。
ビデオの内容は、現役時代の堤先生の練習風景だった。アクセルを除くすべての種類の四回転を綺麗に決めた堤先生の姿が映っている。
『なんで飛べてたんですか!』
『練習していたからに決まってんじゃん』
憤り半分に突っ込む俺に、大げさだなぁと先生は笑う。これを驚かずに何を驚けというのか。
現役時代の先生はサルコウとトウループの2種類だけプログラムに入れていたはずだ。他も飛べていたなんて、聞いたことがない。
『じゃあ、なんでプログラムに入れてなかったんですか』
『だって、今みたいに転倒しても回り切ってりゃ幾ばくか点数くれるようなありがたいルールじゃなかったからね。ぶっちゃけ俺ら世代でも、俺を含めて練習じゃ全部の種類のクワド飛べていた選手は多かったよ。もし俺が現役の頃に今の四回転時代が来ていたら、皆四回転ルッツとかフリップとか入れてたかもね』
……今の採点法を身もふたもなくバッサリと切ったのも先生らしい。
昨シーズン、ルッツの矯正に一応成功したとはいえ苦手意識は完全には拭えていない。ビデオで見たジャンプの印象と俺の現状技術を鑑みて、トウジャンプよりエッジジャンプの方が得意なので、一番簡単だと言われているトウループと並行しながら四回転のループも練習してみようという話になった。
5月から6月の半ばまで、朝練で基礎スケーティング、午後錬に新しい四回転の練習と筋トレというルーティンで練習し続けた。……が、未だ習得するに至っていない。
クワドの練習と同時進行に考えていたのは、次のシーズンの選曲と振付だ。
フリーとエキシビションナンバーは堤先生が振り付ける。
問題はショート。コンペプロを2作とも堤先生作品、とも考えたのだが、海外の振付師から、先生とは違った角度から振り付けてもらうとどうなるのだろう。そんな挑戦をしてみたかった。
そこで思い至ったのが、堤先生が10代の頃練習拠点にしていたアメリカのデトロイトだ。デトロイトには、アンジェリカ・ケルナーという有名振付師がいる。オペラや歌劇などのドラマティックな曲調の振り付けを得意としている彼女は、現役時代の堤先生の振り付けも担当したことがあった。
堤先生とも相談したところ、こちらも快く了解が出たので、先生づてでアンジェリカを紹介して頂いた。日程調整を重ね、『じゃあついでに、デトロイトで2週間ぐらい合宿めいた事やろう。それで、向こうに俺の元師匠がいるから、四回転の練習もちょっと見てもらいな。俺も結局、ジョアンナの振付けを受けることにしたし、それだったら来てもらうより俺が行った方が手っ取り早いしね』という提案が堤先生から出て。
こうして6月下旬に成田国際空港から一路デトロイトへ旅立つことになった。
目的はショートプログラムの振付。
そして、四回転トウループ、四回転ループの習得――
*
午後4時。一日の練習を終える。靴と練習着、手袋やサポーターなどのこまごまとしたものを入れると、キャリーケースが一杯になる。試合やショーだけではなく、練習の度にキャリーケースを引いて歩くのもフィギュアスケーターの宿命のような気がしてくる。
堤先生はこれからリチャードと打ち合わせをするらしい。待ってなくていいから、と言われたので素直に帰ることにする。……言われなくても待つ気なんて全くない。打ち合わせのあとは二人で飲みに行くだろうし、そこまで付き合っていたら体がもたない。
「テツヤ!」
一人でスケート場を出ると、同じようにキャリーケースを引いたジョアンナとばったり顔を合わせる。ブラウンが入った明るい金髪。深海の瞳。ジュニアの頃よりも少し背が伸びた。
……あるリンクメイトはジョアンナの容姿を「マリリン・モンローを健康的なアメリカンガールにしたかのような」と表現するが、俺の印象は少し違う。フランスのマリーアンヌ・ディデュエールが精巧なフランス人形なら、ジョアンナは目鼻立ちのはっきりしたディズニー映画のヒロインだ。
「今日はもう終わり?」
「ああ。クールダウンも筋トレもしたし、あとは帰るだけ」
「私もなの。なら、途中まで一緒に歩かない?」
断る理由がないので頷くと、ジョアンナは満面の笑みを浮かべて隣を歩く。
国際大会に出場するたびに、あるいは練習で海外に行くたびに、英語でのコミュニケーションが求められる。そのお陰で多少は英語が話せるようになった。もしかすると大会や練習で顔を合わせる度にジョアンナと話をしていたのも影響しているかもしれない。流石に公式記者会見で通訳なしで臨めるほどには、なってはいないが。
「アナタのコーチって面白いわね。振り付けする時、変なことしか言わないんだもの」
「それは言えている」
身に覚えがありすぎて苦笑いが隠せない。あの先生は「今季はこれ滑りなよー」と言いながらアニメ映画のサントラもってくるし、「このフレーズのラの音で水を表現するんだ!」とわけわからん事をのたまってくる。
「ジョアンナは何で先生に振り付けを依頼しようと思ったんだ?」
俺は当たり前の疑問をジョアンナに投げた。
俺が知っているのは、今年の世界選手権の時、バンケットでジョアンナの方から堤先生に振り付けを依頼した。その事実だけだ。理由は知らない。だからこそずっと気になっていた。
「そんなに意外だったかしら?」
「『俺に頼むなんて博打でも打ちたいのか』って先生も言っていたし、正直俺もその通りだと思っていたから」
北米には優秀な振付師が多数存在するし、堤先生の本業はコーチ業とアイスショーで、振付師ではない。先生自身も、自分のショープロや所属しているアイスリンクの生徒の作品は作っても、海外の選手から振付の受注が来るとは微塵も想像していなかったようだ。
俺が彼女の立場だったら先生に頼もうとは、あまり考えないだろう。
はにかむように笑いながら、ジョアンナは俺の顔を覗き込んでくる。
「2年ぐらい前かしら。アイスショーでマサチカのプログラムを見た事があって。その時にこの人の作品、いいな、と思ったの。この人に振り付けてもらえれば、私の新しい魅力が出せるんじゃないかって。……でも、一番の理由は、マサチカが振り付けたアナタのプログラムが素晴らしかったから。あんな素敵なプログラムを作る人の作品を、私も滑ってみたかった。」
思わぬところで自分が出て、思わず数回瞬きしてしまう。
「俺、そんなにいい作品滑ってたっけ?」
「滑っていたわよ! 去年アイスショーで披露した『藤娘』もよかったけれど、一番は世界ジュニアのやつね。アナタは本当にハクみたいだったし、目の前に千尋がいるんじゃないかと思うほどリアリティがあったわ!」
ジブリ映画は世界で有名だし、あの映画はアメリカの賞を取ったのだ。ジョアンナが内容を知っていても何もおかしくない。それとは別に……あのプログラムを人から改めて説明されると、変な達成感を覚えてしまう。
あれは堤先生が『絶対に似合うから信じなさい』と言い切って振り付けたのだ。最初はかなり懐疑的だった。フィギュアの競技プログラムの曲はクラシックか洋画音楽が圧倒的に多い。浮きまくる上に、下手したら氷の上でコスプレして終わりになる。
……ジョアンナもこう言ってくれているし、特に世界ジュニアではそれまでで一番の評価を頂いた。コスプレで終わらなかったのだから、多少は昔の自分の表現に自惚れてもいいのだろう。
しかし千尋がいた……。
「? どうしたの?」
「いや、なんでもない」
現実に置き換えると……。いや、あいつのことは考えないでおこう。思わず苦い顔をしてしまったらしい。そこを突かれると、あの時の自分の心を見透かされたみたいで少し気恥しい。
俺の反応を照れの裏返しだと判断したのだろうか。ジョアンナが面白そうに笑って、言葉を続ける。
「だから私は、マサチカの作品を滑ってみたかったの。そうしたら期待以上。マサチカのお陰で、来季いいプログラムが滑れそう。あとは私次第。どうなるかはわからないけど」
「何か困っていることでもあるのか?」
少し意外だった。遠くから見ていても、新しいプログラムは彼女に似合っているように見える。先生とのフィーリングも悪くないみたいだし、悩みらしい悩みを見つけることが出来ない。
「困っている、っていうほどでもないんだけど、私には圧倒的にそういう経験が足りないというか、その……」
ジョアンナの顔がみるみるうちに赤くなる。言いづらかったら言わなくてもいいのだが、どうも彼女は聞きたくて言いたくて仕方がないようだ。でも、伝えるのは恥ずかしい、といったところだろうか。だから俺は黙って彼女の言葉を待った。
「テツヤは誰かとキスしたことある?」
1分か2分ぐらい待っただろうか。待った後出てきた言葉は、茶でも飲んでいたら盛大にむせていたかもしれないぐらいインパクトがあった。
なんでそんなこと、と答えるのは酷だろう。プログラムについて話していたのだから、それに関連することだ。
「ない」
「じゃあ、付き合っている子は?」
「いない」
先生や姉からは、あるリンクメイトが俺の彼女だと思われている。彼らが、何をどう思ったら、あるリンクメイトを彼女だと言えるのか俺の感覚ではわからないし、事実としてあいつは彼女ではない。
「じゃあ、今、誰か好きな人がいる?」
再び彼女の口から、返答しづらい問が飛び出てくる。俺はジョアンナが、自分の表現のため、プログラムの為に聞いているだけだと再び言い聞かせる。
「……どうだろ。いないかな」
答えるのに、数瞬、間があった。
しかし答えた直後、覚えたのは違和感だった。自分の言葉が本当のようには思えなかったのだ。こう答えた事で、誰かを裏切ってはいないか、そしてその誰かの顔が、明確に出てきそうな気がしてしまう。
だが、自分の中でこれ以上掘り下げる気はなかった。
「ごめんなさい、さっきから変な質問ばっかりして。でも今回のプログラムに必要だから。マサチカにも言われたわ。『君自身の経験を少し反映させるといいかも。ないならないで想像してみて』って。私にはそういう経験があまりないから、誰かに聞いてみたかったの」
「そうか……。あんまり参考にならなくて悪かったな」
「いいえ、いいの! 御免なさい本当に! 参考になったわ! いいことも聞けたし……」
「いいこと?」
「ううん、なんでもない。こっちの話!」
……今の流れで、何かいい話を俺はしただろうか。全てにおいて、横に首を振るしか答えていないし、彼女のプログラムに対して有益なものを何も答えていない。
それにしても、だ。
ジョアンナに恋愛経験があまりないというのは、俺には少し信じがたい。客観的に見て彼女は美人だし、誰かからアプローチを掛けられていても不思議ではないからだ。……まぁ、四六時中氷漬けになっていれば、そういう暇もないだろうけれど。
「ジョアンナには誰かいるのか?」
それでもやはりにわかには信じがたいので、彼女に投げられた問いを返してみる。尋ねると、再びジョアンナの顔が赤くなった。自分のことを棚に上げまくるが、好きな人はいるのではないか。
「えっと、言っていいのかな。うん、いる」
だったら……。ふと、ひとつの案が思い浮かぶ。
「だったらその人を思い浮かべて滑ればいいんじゃない?」
ナイスアイディア、とは思わないが、表現をする手段の一つとして決して悪くはないと思う。
「え、やだ。そんな。恥ずかしい。だって、滑りながら『あなたの事が大好きです!』って、愛の告白しているようなものじゃない! いろんな人が見ているのに!」
首を振りながら、全身で却下してくる。耳まで林檎のように赤くなっていた。本当に恥ずかしそうだ。……そりゃそうか。
衆人環視の中で告白しろというのは、多感な10代の女の子に求めるのは酷な話だ。たとえそれが、言葉で言うのではなく滑りで表現しろという事でも。
「ごめん。俺こそ変なこと言ったな」
「いいの、大丈夫! 先に話したのは私だし」
互いに慣れない恋愛の話に疲れたのか、暫く無言で歩く。
「私の好きな人はね」
沈黙を破ったのはジョアンナだった。彼女の頬はまだ赤い。『リトルマーメイド』のアリエルが王子と恋に落ちた時はこんな顔をしたのだろうか、と思うぐらいの赤さだ。
「うん」
「その人はその、同じ世界にいて」
世界、は、地球を表す言葉ではないだろう。この業界、フィギュアスケートの世界において、という意味だ。
「普段は遠くにいるから、たまに会えるとすごく嬉しい。優しくて、わたしの話を聞いてくれて。あんまり遊んでない感じがする。でも一番輝いているのは、滑っている時。そんな素敵な人」
ジョアンナにはカテゴリーを問わずスケーターの友人が多い。よく、ロシアのアレクサンドル・グリンカやカナダのアーサー・コランスキーと談笑しているのを見かける。バンケット、試合、それ以外の振り付けや合宿と言った遠征。限られた時間のなかで、言葉を交わしていく中で惹かれていったのだろうか。
俺には、彼女が好きな人が誰だか見当もつかない。わかるのは、熱っぽい口調や紅潮した顔で表されている通り、その人が本当に好きだという事だ。
俺が知っているジョアンナは、明るくて気さくで、誰に対してもフラットに接するやさしさがある。彼女に好かれる人は、なかなかに幸運だな、と思う。
「うまくいくといいな」
友人として、本当に彼女の恋が上手くいくと良い。
それを伝えると、ジョアンナの顔が赤いまま一瞬、固まり、すぐに口が綻んだ。嬉しいのか、悲しいのか。今の彼女の感情は俺には分からない。ただ、今の彼女の顔は、強い思いが今にも溢れそうな、だけど誰にも見せないで自分の中に大事に抱えておきたい。そんな綺麗な顔をしていた。
「ありがとう。そう言ってくれると、すごくうれしい。私も頑張ってみる」
そこでちょうど、駅に着いた。ここからはジョアンナはバスで、俺は地下鉄で帰る。
「ねえテツヤ。デトロイトにいる間に一つ、お願い聞いてもらっていい?」
*
ジョアンナと別れて、地下鉄に乗り、一次的に借りているウィークリーマンションにたどり着く。歩きながら、別れ際に言われた、ジョアンナからの「お願い」をどうしたものかと考えた。
その時ポケットの中に入れていたIphoneが振動した。取り出すと、メッセージの着信を告げていた。
差出人はあいつ、こと。そして、あるリンクメイトこと、星崎雅。
『女子会なう』
その一言と一緒に送られたのは、一枚の写真。……そうか、今日は新潟でやっているエキシビションの初日か。
初日が終わって、打ち上げと称してカフェにでも行ったのだろう。テーブルには生クリームが乗ったパンケーキに紅茶のポット。個室のようで、コの字の形のソファに5人が座っている。写真に写っているのは自撮りっぽいポーズの雅。右隣にピースをした安川杏奈。別の列に日本女子のエースの里村さん。大和撫子のごとく背筋を伸ばして、お茶を片手に微笑んでいる。里村さんの隣にはゲストスケーターのレベッカ・ジョンソン。日本オタクである彼女は昔流行ったらしい「命!」のポーズをとっている。
そして……。
思わず目を剥いた。
「アンドレイ・ヴォルコフ?!」
雅の左隣に座るヴォルコフは、カフェオレらしき液体の入ったカップを両手で包みながら、きょとんとした顔をレンズに向けている。
「……男子いるだろ」
氷の化身は女子のようなものだとでもいうのだろうか。
とりあえず俺は、何がどうしてこうなったのか、雅に問いただしたくなった。




