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93.信者レミントン


大聖堂より戻り、学園の談話室にて…


「わたくしもよく覚えてませんの…あの時は体や口が勝手に…でも、あの方から妖精の気配がしたのです。

聖女アルヴィナからの様な悪い気配ではなく…なんというか…」


「アリーシア様の直感ですね、今日あの方にお会い出来たのは精霊達の導きがあったのかもしれません…今しがた影の報告にも大司教様と対立の可能性が示唆されております。あの後あの方は神殿の大司教様達と何やらひと騒動起こした様ですよ。」


「わたくしのせいかしら…」


「アリーシア様、それは決して違います。あの方がご自分を信じて行動されたのです。

しかし…あまり対立をして目を付けられても困りますわね、せっかく内部に通じるコアな情報が手に入るかもしれませんのに…」


「オリビア様…あまり関係のない方を巻き込むのは…」


「アリーシア様、それは手遅れです。

貴女が仰ったのですよ、国を在るべき姿に導けると、あの方はそう貴女に導かれたのです…。」


「オリビア嬢の言う通りです、あの方も高名な司祭様なのだからアリーシア様の溢れ出る聖力に触れ、私達以上に感じるものがあったはずです。それを騒ぎ立てなかったのは……何か考えがあっての事か、それとも純粋に貴女に心酔したか……まぁ、おそらくは……」


「「「 後者でしょうね… 」」」


有無を言わさず三人の声が重なった。あの時近くに控えていたエミリーは、勿論一部始終をジェイソンに逐一報告をし…更にレミントンの見目が大変良く、年も若い事をしっかりと付け加えていた為……何かと理由をつけてヴァナルガンドへ乗り込もうとする男達がいたとか……いないとか……。



=レミントン視点=

 (アルヴィナが部屋を出て行った後)


(楽しみか…気楽なものだ…。

着飾った聖女が貴族だけを治療するとなっては、街の人達の不満が増すだけだ…先程の神官にはああ言ったが、大司教様にご相談して説得していただかないと…

全く…どうしたものか…聖女様に希望を寄せるのは間違いなのか……


っと…次の客人も高位貴族と言っていたな…たとえ学生でも聖女様の時の様にヘソを曲げられて困るからから気を付けないと…)




(いざこざのあった隣国の貴族というから少し身構えていたが…あの聖女を相手にした後だからか…とても良い子達だ…。素直で謙虚…それに……とても清らかで心地良い。あぁ…こんな感覚は久しぶりだ…


無難に案内だけを済ますつもりだったが、なんとも離れ難い。お茶を飲み、もう少しだけ話をしてみよう。自分では気付いていなかったが私の心も疲弊していたのかもしれないな……。)




(あぁ…いけない、何故私は他国の学生にこの様な弱音をはいてしまったのだろう…この道に進むと決めたのだから誰よりも強い信念を持たねばならぬというのに…)



「司祭様、貴方様ならば妖精達と助け合い共存し合う…在るべき姿にこの国を導く事が出来ると思います。

貴方様のお心は必ずや妖精達に届き、そして思いも通じる事でしょう…ご自分を信じてください。」



(な…なぜ、この子がその事を…いや偶然か?しかし…この光と温もりは…もしやこの子…いやこの方は…)


「…女神様…」




(フゥ…未だ鼓動が早い…しかしこの活力溢れ、漲る感覚は…一体なんなのだ…。我々が行う治癒とは違うし…この高揚感、いやこれは多幸感だ……満たされている…


聖女アルヴィナの治癒とも全くの別物だ…魔法も術者の力量や魔力でその効果に違いが出るが…これほどまでに違いが出るとは…聖力の違い…か…


間違いない、女神様が顕現されたのだ…

この国の行く末を憂いた女神様が救いの手を差し伸べてくださったのだっ!


あの方の友人らも侍女も、さして驚いておらず…この私に釘を刺したのだから間違ってはいないはずだ。


ああっ!神は、妖精は、この国を見捨ててはいなかったのだ!女神は私を導かんと…こうしてはいられないっ…

大司教様にっ…いやしかし、他言無用との事…破る訳にはいかない…なんとしたものか………

とにかく聖女アルヴィナの事をご相談してみよう…

たとえ反感を買おうとも…)




(何故…大司教様達はあの聖女を庇うのだ…いや、今に始まった事ではないが…あまりにも妄信的だと言わざるをえない…。いや、私が変わったのだろう…


どちらにせよこれ以上大司教様に詰め寄ると不審がられてしまう…かと言って聖女の横暴をそのままにしていては、祈願祭の事もあるというのに…)





「という訳なの、シリウスはどう思う?」


寮の自室で大きな姿でくつろいでいるシリウスに、アリーシアが今日あった事を説明した。


〈 何者かは知らぬがアリーシアはその者の魂に共鳴したのかも知れないな…しかし無意識の共鳴となるとその者の血筋に関係しておるのかもしれん。

それとこの国の黒に対する認識は…まぁ仕方ない事だろう…不吉なるあくの黒か…


あぁアリーシア泣くでない、確かにその黒いフェンリルは我の事であるし、伝承もいささか捻じ曲がっておるが我は気にしておらぬ!

我とは別のフェンリルが妖精達と森を復活させ国を築いた…それでいいのだ… 〉


そう話すシリウスはやはりどこか寂しそうで、アリーシアは本当の経緯いきさつを知りたいと思ったが、今はシリウスに寄り添い、聖力を込めて優しく撫でてあげる事しか出来なかった……。






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