85.ヴァナルガンドの聖女…
今回は…
目立たず大人しく過ごそうとしても…
そうさせてもらえないアリーシアです。
ヴァナルガンドの学園での初日を終え…
寮の自室にて、この国の歴史に関する本を読み、妖精達やシリウスの話もふまえ…情報をまとめてみる。
この国の本に書かれている事は、自国で予習してきた事と若干違って伝わっている事も多い様だ…。
そして自分の目で見た妖精の今の姿…王子達の話…
一体この国で何が起こっているのか、果たしてそれは人為的なものなのか…自然の力が成している事なのか…
アリーシアの眉間に皺が出るほど無言で考えていると…エミリーが別れてからの事を報告があるとの事で、それを聞く為気持ちを切り替える。
エミリーの報告はこうだ。アリーシア達と別れた後に、自分にも監視が付いていたとの事で、その監視に監視を付けたところ…王子と王女の手の者で、自分の事をただの侍女と報告していたので、取り敢えずの監視だとは思うが、アリーシア達同様しばらくは大人しくしていた方が賢明だろうと判断したとの事であった。
そしてエミリーは王子達の話を聞き…協力を求めておきながらこちら側の人間全員に監視をつけるなど…と仕方ない事とわかってはいても憤慨していた…。
アリーシアはそんなエミリーを落ち着かせながら…
「王族の方達が他国の人間を警戒するのは仕方のない事だと思うわ…でも私は妖精の事の方が気になるの…」
と様々な疑問を抱え眠りについたアリーシアだったが…眠りが浅く…夢の中で妖精達が傷付き苦しんでいる様な場面を繰り返し見てしまい…朝目が覚めても、ひどい頭痛と心の重さを抱えたまま朝食の席についた…
勿論その様子を見たエミリーは欠席する事をすすめたが"大丈夫よ、無理はしないわ"と登校したのだった…。
アリーシアの顔色を見たラシュカールもオリビアも心配をするが、二人の心配も振り切り…登校一番に花壇へと向かったアリーシアは…妖精がいない事に落胆しながらも…少し聖力を流し込んで、それから教室へと行き、担任によって紹介されたアリーシアとオリビアだったが、事前情報や目撃情報などからすでに注目されていた…。
こちらの国でも、アリーシア発信のぬいぐるみや小物が人気を博していたので、一部の女生徒達とはすぐに打ち解ける事が出来た。
その事とは別で、違う面でも注目を浴びていると仲良くなった女生徒が話してくれた…
それはこの国の王子の婚約者の座を狙っていると…
アリーシアからしたら、何故その様な話が出るのか皆目見当もつかないのではあるが…
こちらの年頃の少女達にとって、王子の婚約者問題は重要案件であり、ましてや王子本人が世話を焼く他国の少女など…決して無視出来ない存在なのだそうだ…。
アリーシアに決してその気が無くても、過激な勘違いをする人間もいるからとの注意と…そして小声になり、『聖女様には逆らうな』との忠告を受けた…。
アリーシアとオリビアが顔を見合わせていると、小声で話していた女生徒達は…さらに周囲を警戒しながら言葉を続けた。
「貴女達が来る少し前の事なのですが、神様のお告げを受けたとして…この学園の生徒が聖女様かもしれないと騒動が起きたのです。
その方は公爵家のご令嬢で…元々地位のある方なのですが……その…教会もその事を認めた為……」
何やら言葉を濁している…するとオリビアが
「公爵家の地位と、更に聖女様の称号を手に入れた事により、ご自分の鼻の高さで足元が見えなくなってしまったという事でしょうか?」
皮肉を込めつつも的を射た発言により、声を抑えていた少女達もクスクスと笑ってしまい、その通りだと頷いているとそこへ…数人の女生徒達が近寄って来た。
女生徒達の表情が曇ったので、嫌な予感がした…。
「貴女達がサリヴァハークからの転入生かしら?それでどちらが…公爵家のご令嬢なのかしら?」
嫌な予感は的中するもので…ピンポイントで絡まれた。
この国の王女でさえここまでの横柄さはなかったというのに、オリビアは自国でアリーシアと共にいる時、こんな物言いをされた事はなかったので少し面食らいながらリリーカーター事件を思い出し"この方大丈夫かしら"と相手の心配をしていると…
隣の女生徒が、小声で"聖女様です"と伝えてくれた。
なるほど!と納得したオリビアが応戦すべく挨拶をしようとしたら…アリーシアの様子がおかしい…近くへ行き俯いた顔を覗き込むと…とても苦しそうにしている。
挨拶どころではないと、相手に謝罪し医務室に行かせてくれとその旨をオリビアが伝えると…
「あらあら、それは大変っ!
キャルム様が懇意にされている隣国のご令嬢は…お身体がとても虚弱でいらっしゃるのねぇ?とても心配だわ…
侍女を学園にまで連れて来たのはその為かしら?
主人がそんなだと侍女である貴女も大変ねぇ、ご挨拶はまた今度にいたしましょう。
あぁそうそう、わたくしの力は浄化やもっと重要な場面にとっておかなくてはならないの貴女に使ってあげられなくてごめんなさいね。」
明らかに…明らかにわざとである。
公爵家のご令嬢なのだ、事前情報も周囲の情報もあるはずで…どちらがアリーシアとオリビアか分かった上で、その上でオリビアを侍女扱いし、アリーシアは挨拶も出来ない常識知らずで病弱であると…王子の婚約者に値しないと貶めたのだ…。
オリビアは言い返したかったが…今はアリーシアの体調が第一であると…沈黙し頭を下げ、場を辞そうとしたがアリーシアがそれを止めた…。
「どなた様か存じませんが、ご挨拶が遅れ申し訳ございません。アリーシア セイリオスと申します。
貴女がお尋ねの人物はわたくしですが、こちらはわたくしの大切な友人である、オリビア リード伯爵令嬢で…決して侍女ではございません。侍女は寮におりますの…学園には帯同させておりませんので、思い違いなき様お願いいたします。
では気分が優れませんので…失礼します。」
険しい表情から一転、仲良く話していた女生徒達にやわらかく"またお話しを聞かせてくださいね"と微笑み…"いきましょう"と優しくオリビアの手を引き去って行ったアリーシアだった……。
アリーシアの至近距離の微笑み(強力武器)…を間近で体感した女生徒は勿論…聖女と転入生達のやり取りを野次馬していた周囲の人間も…
大切な友人を庇い聖女に立ち向かう美少女転入生!と、アリーシアの認識を一致させ…好感度を上げていた…。
ただ一部の人間を除いて……
誤字脱字報告いただきありがとうございます。
今年も残り僅かですね!
皆様お忙しい中お時間いただき、ありがとうございます
今後も読み続けていただける様に頑張ります( ˙꒳˙ )ノ




