78.揺るぎない決意
「なるほど、なるほど…。ありがとうアリーシア、危険な内容でも無さそうだし…僕達でも出来そうだから大丈夫、アリーシアの為の時間なら…執務の時間を割いてでも作るよ!学園の友達らを思ったんだろうが…僕達とも過ごそう!それが僕達の為にもなると思って頷いてくれないかい?
アルもジェイもいいよね?散々僕達にアリーシアお手製のぬいぐるみや刺繍入りハンカチを自慢していたんだ…ネタが上がった以上今後は通用しないよ?」
「わかりました、アデルバート様。お言葉に甘えまして今後…皆様方の貴重なお時間を頂戴する事となりますが…どうぞ宜しくお願い致します。許されるならば…雷の魔法の事を、王家の秘密や掟に触れない程度でもよろしいので…教えていただきたいです!」
「フフフ…アリーシアは相変わらず謙虚なんだね…この国の誰よりも尊い御身となる存在なのに…
よーし!アリーシアッ、決めたよ!エドやジュリアンを見守るつもりだったし、今からはもう遅いかもしれないけど…私も頑張るよ!」
「アデルバート様…何かを決断されたのですね?微力ながらわたくしも応援させていただきますわ。何かを始める事に遅いと他と比べる必要はないのですし…決断に至る想いも、頑張る努力も全てが己の糧になると信じて…共に頑張りましょう!わたくしも力を制御出来なかったこの場所でも見事に制御出来る様修行に励みます!」
弟王子二人と過保護な兄二人の"あちゃー顔"をよそに、アデルバートは"同意を得た"と、…アリーシアは"同志を得た"と、…互いに得るものがあったと満足気な顔をしていると、そこへ妖精達が現れた。
《アリーシア!もう終わった?、 アリーシアはここで暮らすの?、 アリーシにア今日は力を貸しちゃダメってシリウス様に言われてたの、 アリーシア!みてみて宿り木が大きくなってるよ!、 アリーシア早く帰って遊ぼうよ! ねぇねぇ、アリーシア!学園もここみたいにピンクにしちゃう?》
「フフフ、あなた達も協力してくれていたのね?見守ってくれてありがとう。あれは宿り木と言うのね?とっても素敵な実がなるんですって、あなた達はそれを食べてるのかしら?屋敷に帰ってからゆっくり聞かせてね?…それと、学園の花壇はピンクにしてはダメよ、ここも出来れば元に戻したいのだけど…」
《えー戻しちゃうの?ここの妖精達も喜んでるからそのままでいいんじゃない? ねぇねぇアリーシア、なんでせっかくのイタズラを元に戻したいの? バカ、アリーシアはイタズラしたんじゃなくて…あの王子に好きって…》
〈コラッ!お前達余計な事を言うでない。全く…こういうのはな、外野がやいやい言うてはいかん。特にこやつらの様なタイプは自分で気付かんと余計に拗れるのだぞ…よいな?…
アリーシア、迎えに来たぞ。答えが出たのであろう?
さぁ我と帰るぞ!こうして聖力に対応出来るアイテムも出来たのだから、他国の事は偉い奴らや、お主の父や兄達に任しておけばよい。お主は焦らず自分の事に時間を使って今を楽しんでよいのだぞ?上質の聖力は美しい精神に宿るのだから…。
王子達よ、アリーシアは連れてゆくぞ?
あの実の事はお主らに任せる。国王と相談して最善を導き出すのだ…我はお主達を信用しておるからな、頼んだぞ?〉
シリウスの言葉に王子達は身を引き締め返事をする。
帰ろうと挨拶をするアリーシアを、エドワードが引き止め…その手にキスを落とした。
たかが挨拶…されどキス…アリーシアの理解が追い付くよりも先に花達が揺れ、その香りを風に乗せて遠くまで運んでゆく…。"な、な、な、"と言葉に詰まるアリーシアを気にせず、輝く花達にも負けない笑顔でエドワードが話し出す。
「アリーシア、俺も…お前の努力に恥じない様に努力をするぞ!兄上やジュリアンは強敵だが…しかしお前に選んで貰いたいと気付いたんだ!今はこのキスに対するお前のその反応で満足しておくが、この件に関しては兄上にだって遠慮はしない、妖精達の事も…他国の事も共に沢山学ぼう!俺が…お前の側にいる為の決心をした事を忘れないでくれ。いいな?」
本当に理解出来ているのか怪しいアリーシアは"コクコク"と頷くだけで精一杯であった…。
その様子を見たジュリアンは…"ヤバい…兄上が自覚してしまった…至急ラスカルと緊急会議だ!と慌て…
アデルバートはというと…"あ〜ぁ…ただでさえ出遅れてるのに、格好つけてアリーシアの前で宣言なんて…余計な事するんじゃなかった…。とぼやきつつ、どこか嬉しそうに二人を見つめていた。
アリーシアの兄達はアリーシアをそっと自分達の方に寄せて複雑な心境ながらも、エドワードを牽制しつつ"お前そういうとこだぞ!"と苦言を呈した…。
アリーシアの聖力を吸収したシリウスは"力が漲るが…何やらこそばゆいな…"と妖精達と聖力の質について盛り上がっていた…。
そこへ兄達に囲われたアリーシアが、飛ばしていた意識を戻して言い放った…
「エドワード様が何故わたくしの側にいる為の決心をなさるのか甚だ疑問ではございますが、学ぶ事には依存ございません、共に頑張りましょう。しかし…エドワード様はわたくしに近づかないで下さいませ!」
ませーませー…(エコー)
「なっ!何故だぁー!」だーだーだー(エコー)
王宮の一面ピンク色になった庭園は、笑い声に包まれ…妖精達の喜ぶ声や歌声も聞こえてきた。
ジェイソンが慌てて予備の水晶をいくつもセットして、聖力を吸収しホクホクしている。
それを見たシリウスが
〈アリーシア、これを泉に使うときっと妖精達も戻ってくるし、精霊王の力も戻るはずだ…どうだ?安心したか?其方との聖地巡礼も悪くはないが、楽しみはとっておこう!なぁアリーシア!これからが楽しみだ!〉
「ええ…そうね、シリウスありがとう!これからを皆で楽しみたいわ!その為の努力は惜しまないから協力してね!大好きよシリウス!」
そう言ってシリウスに抱き付いたアリーシアは
"あなたの毛色が例え白色でも黒でも…私には関係無くあなたは私の特別よ、これからは私が守るからね…"と、シリウスの黒い毛並みを愛おしそうに撫でながら囁いた…。
本来なら白い姿である神獣フェンリル…黒い毛並みの変種で生まれ、亜種と呼ばれ忌み嫌われ追放されたシリウス…その実、より強い力をその身に宿し…上位種であるが為、より多くの聖力を吸収してしまう…自身にとっては呪いと言っても過言では無い運命も、これまでは甘んじて受け入れてきたシリウスだが…アリーシアの言葉に、改めてお互いの出逢いと特異さに感謝した…。
シリウスの転移魔法で、城から二人が出逢った森へと場所を移し…森の奥まった静かな場所。そこは僅かな聖力を求めシリウスが辿り着き、最期の時を覚悟した場所でもあった…。
シリウスが吸収し尽くしてしまったが為、より鬱然とした森の一角は元気がない様に感じる…そこへアリーシアが自らの意志で聖力を流す。少しずつ…ゆっくりと、森の土に…地下の水脈に…。木々や草花がゆっくりと自らが吸い上げられる様に…時間をかけて聖力を浸透させた。
アリーシアの願いが聖力を通じて植物に届いたかの様に…揺れている。シリウスも妖精達も"これで十分"だと言う。森の生命力と聖力のバランスが大事なのだと…
「ここにも妖精達が戻って来れるかしら…?ルース様達が過ごしていた時みたいに賑やかな明るい森に…」
〈あぁ…きっと森も妖精達も、ルースを憶えているいはずだ…ルースに似たそれ以上の力を貰って喜んでいるだろう…。ありがとう、アリーシア…我のせいでこの森の力も弱まってしまっていたからな…〉
「シリウス、あなたのせいではないわ。ルース様達が残してくれていた力が、あなたの命を繋ぎ…私達を繋いでくれたのだから…。これは恩返しよ!そして、私の目標でもあるの…もう一度妖精達と共存し合える場所や、それを理解して貰える国を増やしたいわ!過去世の記憶も知識もきっと役に立つはずよ、心配しないで…あなた達にも協力して貰うから!皆で頑張りましょうね!」
「ワッハッハー!そうだな、うむ、その通りだ!我にも役目が出来たな!アリーシア、どこまでも導いてくれ…共に生きよう!」
アリーシアとシリウスと妖精達が、固い誓いを交わしている傍らで…新しい新芽が芽吹いていた。
森に息吹が吹き込まれ、新しい命が生まれる。やがて活力や聖力を溜め込んだ植物は森を育て、そして妖精達が生まれる…。
そんな光景を実現させるべくアリーシアは新しい目標へと足を踏み出した。そこには、魔法が使えないからと気弱になっている少女の姿はなく、希望と信念を掲げた輝く笑顔の少女の姿が、黒い神獣フェンリルと妖精達と共にあった…。
〜fin〜
これにて完結です。
沢山の作品の中から選んで読んでいただきました事、
本当に感謝です。最後までお付き合い頂きありがとうございます。
自分が思っていたよりも沢山の方に読んでいただき、当初の予定よりも15話ほど話を膨らませました。
私自身とても楽しく作ったお話なので、今後続きが書きたくなれば続編やside ストーリーを書きたいと思っています。どこかで目にされたらまたお立ち寄りいただけると嬉しいです( ˙꒳˙ )ノ
新しい話を書いたとしても、改めて皆様のお目に留めていただける様な作品を投稿出来る様に頑張りたいです!
それでは!読んで下さった方、いいねして下さった方、
ブックマークして下さった方、コメントして下さった方、
評価して下さった方、
皆様に最大の感謝を!( ˙꒳˙ )ノ 雪原の白猫




