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69.命の価値とは…

※このお話の中では

・人の死を表現している箇所がございます。

 苦手な方、見たくない方はご注意下さい。



"あの子…名前はヘレンだったかしら…"


玉座の裏の別室で話を聞いていたアリーシアは、侯爵達の罪を知り…驚きや悲しみ、怒り、そしてやるせなさ…様々な感情を落ち着かせる為に深呼吸をした。


魔物のスタンピード、隣国からの侵攻しんこう、どちらか一つだけでも深刻な事柄であるのに…立て続けに発生していたら…規模に関わらず、王都もそこで暮らす人達も無事では済まなかった筈だ…

それらを回避出来た事に安堵し、王家と兄達に感謝しつつ…膝にいるシリウスを抱き締めた。


「シリウスも沢山頑張ってくれたのね、ありがとう…」


シリウスを撫でながら侯爵達を見ると、声を上げたり、侯爵に詰め寄ったりと、騒然となる中…一人だけ、終始声を上げずに頭を下げ…謝罪の姿勢を崩さなかったメイドの姿が目に入った…。

父親の対応からして、悪い様にはしない筈だ…母親思いで心優しく、これまで辛い思いをして来たであろうメイドの事を思っていると…一際大きな声が聞こえてきた。


「ヴァナルガンドに関して、わたくしが何かしたという事はございません!この強欲な男と一緒にされては困ります。屋敷を調べたのならばその事もわかる筈です。

人々を操作したのも…この子爵家の娘が双子達と企み暴走した結果です。実際に魔法まで使っていたのだから…

確かにわたくしは、そこで這いつくばっている娘に厳しく接してきました。しかしそれは平民が侯爵家に入るのですから、当然それ相応の躾が必要でしょう。何もおかしい事はないですし…それこそ公爵家に潜り込ませたなど…何か証拠がおありで?平民の者達のいう事など…信憑性どころか、耳を傾ける価値もございません。」


この期に及んでも、カミラは我が子さえも犠牲にし…言い逃れをしようと足掻いている…その浅ましい姿を見た国王が口を開いた。


「貴族階級や平民などと、身分はさておいて…この場で自分の置かれた立場、事の重大さを理解し…過ちを悔いているのはその娘だけの様だが?

侯爵夫人カミラ ウェスカーよ、其方そなた何もわかっていないのだな…其方達がどれだけ言い逃れをし、わめき散らそうと何も変わらん。

ヴァナルガンドとのいざこざもだが…私も大事な息子を傷付けられ、アルフレッドがいなければ命も危ぶまれていたのだ…私情を挟んだとしても致し方あるまい。


国王として平等、公平に重きをおき、公正な判断を求められる事は常であり…またそうあるべきだと私自身気をつけている。しかし普段なら口には出さんが…私はこうも思うのだ…命とは人が唯一平等に与えられたものではあるが、その人間の心の在り方や生き様で…本来同等であるべき命の価値に違いが生まれるのではないかとな…


今回の件、全て償う代償が其方達全員の命で、果たして足りるのだろうか?そもそも其方らの命の価値はいかほどなのだ?


それと、公爵家のメイドについては、当主の判断に任せる故…良きに計らうがよい。」


にべもなく国王に切り捨てられたカミラが…今度は泣きながら、これまで口をひらかず黙って横に座っていた王妃に訴えかけた。


「ローズさん……お願いよ、わたくしを助けて頂戴…。わたくし達…同じ学園で学んだ仲でしょう?慈悲を……貴女から陛下に口添えを……」


「軽々しく名を呼ぶでない、其方は罪人に身を落としておるのだ…そうでないにしても其方に情けをかけるほどの仲では無かったと記憶しておるが…違うか?

あぁ…しかし其方の名は、確かにしっかりと覚えておるぞ…"水栓まぶたのカミラ"だったな…ひどく懐かしい記憶であるが、其方変わっておらんではないか…未だにアドルフに執着しておるのか?キャサリンが怒るのも無理はないな…。しかし、巻き込まれたそのメイドの娘が不憫ふびんでならん…。」


先程アリーシアに接していた時とは、雰囲気も話し方も全く違う様子の…威厳溢れる王妃がカミラの訴えを一蹴いっしゅうした後でアドルフがメイドに声を掛けた…


「お前は今朝、危険をかえりみず私達に忠告をしようと侍女長に今日の事を訴えたと、報告を受けている。それに勤務態度も真面目であるとな、そして自らをかえりみて反省出来るようであるし、陛下の許可もある。心配せずとも悪いようにはせん」


アドルフの言葉に初めて顔を上げたメイドのヘレンは、目に涙を溜め…掠れた声で訴えた…


「当主様…本当に申し訳ございませんでした…そして温かいお言葉をありがとうございます…。

しかし穢れを持つ私が、再び公爵家で働かせていただく訳にはまいりません。私の罪は決して許されません…。私なんかの軽い命では償えるはずもございませんが…母に愛していると…そして…優しいお嬢様にごめんなさいと伝えて下さいませ…」


そう言ったヘレンは懐から出した何かを口に含んだ…

"毒"だっ!気づいた時には遅かった。

即効性の毒だったのか…顔を歪め…体を丸め浅い呼吸で、もがき苦しむヘレン。

カミラ達の悲鳴が上がり、即座に護衛が国王を守る。

そして異変に気付いたアリーシアが飛び出してきた。


父親に止められたがヘレンの側に行き手を握ろうとするが、強い力で握り締められた拳は開かず、脂汗をかき…既に目の焦点が合っていない…

何も考えずに体が動いてしまったが、兄の時とは違い…その凄絶せいぜつな苦しみ方に恐怖すら感じてしまった…

アリーシアが何も出来ず苦しむ姿を見て足をすくませていると…呼吸音が大きくなり、赤くなっていた顔が青白く変色して痙攣もしている…。

……"手遅れだ"……誰もがそう思った時…


《アリーシア、怖がらないで。 アリーシア、君なら助けられるよ。 アリーシア、僕らと一緒にやろう》


妖精達の励ましてくれる声が聞こえる…


「あ…私…どうしたらいいのか…お兄様の時みたいに…助けられると思ったのに…ご…めんなさい…」


〈アリーシアよ…謝らなくてよいから、諦めるでない。確かにこの者は自ら死を選んだ…しかし望んで死に急ぐ訳でもないのだ。お前がこの者を助けたいのであれば、それを願い叶えるのだ。死を恐れても、自ら決断する事を恐れるな…我を、そして妖精達を信じるんだ…〉


シリウスの声も聞こえる…。そうだ…可能性があるのなら…逃げちゃダメだっ!私が…私の力で助けるっ!


そう決心したアリーシアが、すくんでいた足を踏み出して静かにヘレンに寄り添う…。妖精達に…シリウスに力を求めながら、冷たくなり始めたヘレンの手を握り、自分の体温を、力を…分け与えるかのように…。

そして祈った。消えゆく命を繋ぎ止めようと…離れゆく魂を手繰り寄せるように…。兄の時の様に感情に任せるのではなく、静かに…凪いだ心で祈った…。





人の命の…価値や重さ、平等性、公平性について…

これらは…意見や考え、思いなどが様々かと思います。


作者は決して国王の考えを主張している訳ではございませんのでご了承いただければ幸いです。



水栓まぶたのカミラについては、涙が栓で自由に出したり止めたりが出来るという事です。

ちなみに以前キャサリンが、アドルフや息子達に女の涙は水道の蛇口と一緒だから女の涙に気を付けろと注意をしていたのは…学生時代カミラがアドルフに泣き落としを繰り返していたからです。(21.ジェイソンやらかすに出てきます。)



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