★くるくるホウレンソウ(数字は忘れた)
給料日まであと約一週間。
財布の中には90円しかない。
今、長距離仕事を命じられたら、ピンチだ。丸二日を90円でしのがねばならない。
そこへボスから電話がかかってきた。
「デビッド。仕事だ。これから中国へ飛び、そこからシベリアまで行ってくれ」
丸三日仕事だ。
俺は表向きは大型トラック運転手をやっていることになっている。
ネットなどで収入を正直に打ち明けると、本物の大型トラック運転手さんたちから同情の声が飛んでくる。
「いくらなんでも安すぎだろ!」などと──
大型トラック運転手はいいな……。
俺がほんとうは『国際スパイ』だといったら、どんな反応が返ってくるだろうか。
マリモのマッくんにミルクとごはんを与え、自動給餌器の残量を確認し、飛行機に乗った。
食べるものは『刻みあげごはん』を三日ぶんだ。
刻みあげを入れて醤油とみりんと出汁の素で炊いたものだ。
いつもはいくら寒い時期とはいっても丸二日しか食糧はもたない。
量はいくらでも作れるが、日持ちがしないのだ。
いくら保冷剤で固めても一日もあれば常温に戻る。冷蔵庫でもあればいいが、常温では丸二日が限界だ。
しかし今回は無理をして三日ぶん持って出た。
90円で食べられるものは外に出たら何もない。
旅費が出ないので自分を守るためにはそうするしかなかった。
この時期に北行きの仕事は過酷だ。
途中で雪が降り出し、空の道にうっすらと積もった。
冬タイヤをまだ履かせてもらっていないので心細かった。
おまけに飛行機は不調だ。
かなり前からエンジン異常の警告が点き、ミッションがおかしくなっている上にバックモニターが壊れていて何も見えないのだが、仕事に途切れる間がないので直す暇もない。
いつどこで故障して墜落するかとビクビクしながら操縦するしかない。
持っていった刻みあげごはんでお腹を壊した。
やはり丸二日が限界なようだ。
三日目にはねっちょりと糸を引いていた。
しかし他に食うものがないので目を瞑って食った。
シベリアで仕事を終え、ボスに電話をしたのが18日のことだった。
今日、もし家に帰れなければ、一日じゅう何も食わずに仕事を続けるしかない。
「ご苦労、デビッド。では、そこからカナダへ飛んでくれ」
頑張れ、デビッド。
給料日はあさってだ。
給料日、ようやくお金が入ったのは昼11時を過ぎてからだった。




