【歴史小説】隠れスケベでしたん
えっちは愛の行為である
けっしてスケベな行為なのではない
ゆえに時の幕府は厳しくスケベな者を取り締まった
澄ました顔をして善良な羊たちに紛れているが
その正体はスケベな市民のことを『隠れスケベでしたん』と呼び
発覚次第それを死刑に処した
隠れスケベでしたんは愛を冒涜する者とされ
風紀を乱す者として奉行所は積極的に捜査に乗り出した
怪しい者には『踏み春画』をさせた
生生しく描かれたマツタケが、同じく生生しく描かれたアワビの中に挿し込まれている
そんな春画だ
善良な市民ならばこんなもの汚らわしいと踏みにじって然るべきものである
しかし隠れスケベでしたんにはけっして踏めるものではなかった
神々しい快楽の行為を描いたそんな
気持ちよさそうな顔をした男女のそんな
そんな、そんな羨ましい絵を踏めるわけがなかったのである
隠れスケベでしたん達は次々と見つかった
ある者は通報され
ある者は春画を読んでいるところを発見され
ある者はセフレとの行為の最中に踏み込まれた
「愛の行為を楽しみのためにするとは何事だ」
「子殺しである」
「姦淫することなかれと神は申した」
「無為なことに激しい労力を費やす者どもに死罰を与えよ」
そんなことを口々に言う彼らもほんとうはスケベであった
しかしそのことを否定したがるように、彼らは異常なレベルで隠れスケベでしたんを迫害したのである
やがて時は流れ
文明が開花して
人々は目が覚めはじめる
日本人は世界でも特別級のスケベであり、変態だということを自覚しはじめる
しかし頑なにそれを認めないところもあり
ゆえに誰も『スケベ』という言葉は禁忌のように口にしなかった
その代わりに使われたのが『エロ』である
くだらない感じのする『スケベ』と違い
『エロ』には何か隠された意味がある感じがして高尚に思えたのである
そこには愛も含まれているような気がしたのである
隠れスケベでしたんは過去のものとなった
魔女狩りのような迫害はなくなった
その代わりに今でもそんな風習は形を変えて残っている
『ムッツリスケベ』だけにとどまらない
それは様々に形を変えて、しかし根っこは同じものとして
いまだに差別され、迫害を受けているのである
胸に手を当てて考えてみてほしい
あなたにもそうした差別意識はあるはずだ




