★けんかはやめて
「城戸洸平! 俺と勝負しろ!」
ワイルド・ウルフ系の八坂くんが挑戦状を叩きつけた。
全校生徒といってもいいぐらい、女子も男子もみんなが見守る校庭で、二人の人気男子が睨み合う。
「八坂亮……。キミとは決着をつけたいと思っていた」
秀才の王子様、城戸くんが、負けじと八坂くんを睨み返す。
二人の麗しい顔が、キスするの? ってぐらい近づき合う。
「勝負の方法は?」と城戸くん。
「もちろんタイマンだ!」と八坂くんが拳を鳴らす。
「……それじゃキミの土俵じゃないか。学力勝負というのはどうだ?」
「おまえの勝ちに決まってんじゃねーか! どちらも得意なものにしようぜ」
二人は今、あたしを巡って争っているのだ。
あたしがもし「けんかはやめて」と叫びながら間に入っても、きっと聞く耳をもってない。
「じゃあ、100メートル走でどうだ?」
「なるほど。それなら二人とも専門外だな」
「勝ったほうが夢咲と付き合う!」
「文句は言いっこなしだぜ?」
それを見ながら黙って立っているあたしの周りで、みんながコソコソ言ってるけど、しっかり聞こえてます。
「夢咲さんなんてどこがいいんだろう?」
「ふつうの女子だよね」
「あの二人が争うほどの子かなぁ」
あたしにもわからない。
なぜ、ウチの高校1の座を争うあの二人が、あたしなんかを好きなのか……。
まぁ、きっと中身のかわいさが二人を狂わせてるんだよね。テヘ!
「誰かスタートの合図を頼む」
城戸くんがそう言うので、あたしが進んで前に出た。
「夢咲花子……。あんたが、直々に?」
八坂くんが崇めるようにあたしを見た。
「ふふっ……。女神は残酷だな。二人の争いを止めるどころか、早く終わらせる手伝いをしようというのか」
城戸くんがそう言って、死地へ赴く兵士のように寂しそうに笑う。
「位置について、よーい……」
あたしは口でピストルの音を鳴らした。
「パァーン!」
二人が揃って駆け出した。
100メートル走の描写なんてめんどくさい。
勝ったのは──
「やったぞ!」
王子様・城戸くんが、喜びに両手を振り上げた。
そして荒い息を吐きながら、あたしの前へやって来た。
「……夢咲。俺はおまえと恋人どうしになりたい」
熱のこもったまなざしで、あたしをまっすぐ見つめるけど──
「ごめんなさい」
あたしはぺこりと謝った。
「……な」
「なんだって!?」
城戸くんと八坂くんがびっくりした顔をする。
「あたし、好きなひとがいるんです」
その好きなひとが、ちょうど二人のイケメンの後ろを通り過ぎようとした。
あたしは二人を押しのけるようにして駆け寄った。
「又利郎くん!」
ヒョロヒョロに細長いその体型──
油ぎった前髪で半分隠れた目──
何よりそのキモいところが大好きなの。
キモくなければ男じゃない!
「好きです! 付き合ってください!」
又利郎くんがギョロッとあたしを見た。
今、あたしの価値は爆上がりしてる。
二人のイケメンを争わせる女神に成り上がってる。
だから勇気いらずで告白できた。
又利郎くんは怯えたような表情になると、悲鳴をあげるように、あたしの告白に答えた。
「なんだこのブス! ひぃやぁぁあ〜〜〜!」




