★縁結びの猫さん
「この神社にね、いるらしいよ」
「縁結びの猫さん?」
つい、知っていることをバラしてしまった。
蒼が驚いたような顔をする。
知らないフリをしてあげればよかったな。
あたしはいつもこうだ。相手が言いたかったことを横取りしてしまう。
でも、あたしもその猫さんに会いたくて、蒼に誘われた時、二つ返事で同行することにしたのだった。
「……なんだ、知ってたのか。知らないと思って連れて来たのに」
蒼ががっかりしたような顔をしながら、それでも速い歩き方は変わらない。
長い石段を登って来たというのに、ちっとも疲れを見せずにスイスイ歩いて行く。
「ま……、待って。蒼……」
あたしはさすがについて行けなくなって、境内の真ん中でへたり込んだ。
「ハァ、ハァ……。ちょっと休憩させて」
縁結びの猫さん──
この神社はほんとうは一般人立入禁止だ。
秘密の神様を祀っているらしく、修行を積んだ者でなければ、一度立ち入ったら生きて出られないとネットでいわれている。
そんな物騒な場所にあたしが踏み込んだのは、恋に飢えてるからだ。
19歳の頃から何もない人生──
死んでもいいから素敵な恋がしたい。
それを叶えてくれるのが、この神社に住むという、縁結びの猫さん──
それは新たな縁を結ぶ。
あるいは一緒に訪れたカップルどうしを、とんでもなく強い力で結びつけるという。
へたばってしゃがみ込んでいるあたしを、立ち止まった蒼が振り向いた。
「はな……。私があんたをここに連れて来た理由……、それじゃ、わかっちゃったよね?」
「……え?」
本気で意味がわからなかった。
あたしはただ、新たな出会いを渇望するあまり、こんな危険な地に足を踏み入れた。それだけだった。
蒼もそうだと──
「縁結びの猫さんはね、一緒に訪れたカップルを、とんでもなく強い力で結びつけてくれるのよ」
いや……。それ、カップルの話でしょ?
あたしと蒼は、ただの、同じソープランドで働く同僚……。
「縁結びの猫さん! 姿を見せて!」
蒼が魔法の呪文を唱えるように、空からUFOを呼び寄せるように、声を張り上げた。
「私とはなを結びつけて! とんでもなく強い力で! 一生離れられない関係にして!」
叢をかき分ける音と同時に、不気味な猫の声がした。
あたしたちの前に飛び出して来たのは、山伏のような恰好をした、白い猫だった。
猫は、言った。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・ニャンっ!」
ネットの情報は間違っていたようだ。
それは印結びの猫だった。
なんだこれ……。




