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第48話 許嫁と夫婦のような関係

「もう結構暗くなりましたね」

「1月だしな」


 教室の鍵を返したら、俺と結愛は校舎から出て校門へと歩く。今の時刻はそこまで遅い時間ではないが、辺りの日は落ち始めていて、オレンジ色の空色は見えなくなっていた。


 校舎を出た結愛は、クリスマスに俺があげた手袋をつけて外を歩く。俺も、結愛から貰ったマフラーを首に巻いた。



「つけてくれてるんですね」

「そりゃな。結愛もつけてくれたんだな」

「当然です」


 それに気づかないはずもなく、2人して感謝をしあった。


 校門までの道では部活動生の声が聞こえてきて、チラホラと姿も瞳に映る。それでも辺りが暗いとそこまで顔には気づかれないようで、俺と結愛が歩いていても、特に視線が集まることはなかった。



「そういえば莉音くんは何か用事があったのですか?一回帰ったかのように見えたのですが」

「あ、やべそうだったわ」


 そんな中、2人並んで歩いていれば、隣からは結愛の声が聞こえてくる。

 その声を聞いて思い出したが、俺が教室に戻った本来の目的は、忘れ物を取りに行くことだった。


 すれ違った教室に結愛がいたことで気を取られ、すっかりと頭から抜け落ちていた。



「取りに戻ります?」

「んー、もういいかな。俺が忘れたのは筆箱だけし、今日は必要なさそうだからな」

「それもそうですね」


 もう今更階段を登る気力はなく、取りに戻るのは諦めた。流石にこの時間にはもう鍵も閉まっているだろうし、今から借りてまた返すのも手間だ。


 何より家に帰った頃にはもう夕食の時間なので、おそらくペンを握る暇はない。



「…………結愛、嫌なら嫌と言ってくれて構わないんだけどさ」

「何ですか?」


 校門を抜けて、朝ぶりの通学路を通って家まで帰っている時に、俺は結愛に声を掛けた。



「…………今は結愛を見送るのが俺の役目だけど、ちょっと寄り道していいか?」

「どこに行くんです?」

「スーパー」


 ふと家でのことを考えていれば、今日の夕食メニューのことを考え始めてしまう。


 家にいるだけでは中々良いメニューが思い浮かばないことがあるので、スーパーに行って、パーっと店内を見て回れば、何となく浮かんでくるような気がした。

 


「見送られるだけじゃつまらないので、むしろ寄り道は嬉しいくらいです。嫌なわけないです」

「そう言ってもらえると助かるわ」


 隣でカチンとした防御力を誇って制服を着こなす結愛は、顔にだけは防御力がなく、表情を緩ませていた。



「それで、何か買いたいものでもあるんですか?」

「んー夜ご飯のために何か目星いものがあったら買おうかなと。別に家に食材がないわけじゃないけどな。結愛は何か欲しいのあるか?」

「私は特にないですね。でもついていきます」


 お互いにこれといった目的はないが、なんとなくスーパーへと行くことにする。そのやり取りを行なう空気感が心地よいのだが、それを結愛本人には伝えることはない。



「…………莉音くん、私は鍋を食べてみたいです」

「いいな鍋。この時期には食べたくなるな」

「はい。1人じゃする機会もなかったので、これを機に食べたいです」

「まだこっちに来てから一回もやってないし、今日は鍋にするか」


 スーパーに行く前に今夜の夕食は決定し、作る側の俺としては悩まずに済んだ。

 結愛の言葉の節々からは悲しげな雰囲気を感じるが、本人がそれを気にした様子もなかった。



「はいっ!」


 俺も賛同してみせたら、結愛は顔を一段と明るくして笑みを浮かべる。声色もそれに伴って、いつもより高くなって聞こえてきた。



「結愛、車危ないぞ」

「…………どうもです」


 車道側を歩いていた結愛の横を車が通ったので、危ないと思い、反射的に腕を伸ばして俺の方へと引き寄せる。


 思ったよりも結愛の力は弱く、引き寄せたら結愛の肩が俺の体に当たった。

 

 女性に車道側を歩かせてしまうという自分の配慮の足りなさを実感されられながらも、今になって場所を変わる。


 その後に結愛と顔を合わせれば、瞳を大きく開き、驚いたような顔をした結愛がいた。



「俺も悪いけど、ちゃんと前見て歩けよ?」

「…………たった今、見すぎるのも良くないと思いました」

「それはどういうことだ」

「……内緒です」


 そう言って、結愛は一歩下がって俺の背中を押してくる。それが何の照れ隠しなのかは、分かるはずもなかった。

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