第六十話 「ラトロード学園設置準備」
いつもおひさしぶりですいません
せっかく学園設置の命令というか許可も出たワケだし、キリタチの街の線引きを拡大することにした。
戦時の街でもないし、王都に近い学園都市という構想でいきたい。
王都からの戦災避難民というのが、これまでの人口増加の一番手だったが、学園生、職員というものを念頭にしたい。
具体的には僕のお屋敷と中央執務庁を一応中心に据え、目貫通りを東西南北へ。
南へ向かう通り沿いは商業区として、特に区画を縦横する道幅も広くとる。
この区域の東西外側は住宅用地として、必要に応じて建築していく。
北西ブロックはすべて軍用となり、宿舎、訓練場、練兵場、各種研究施設等々が置かれる。
ちなみに中央に近いところに各庁も置かれる。
具体的には、民生局、法政局、軍政局、財政局、商工局、都市計画局、農林水産局、学園局等だ。
北東ブロックを学園用地として、各校舎、学生寮、職員寮、研究棟、各種訓練施設、修練場が置かれる。
なにせ切り開いた場所にポンポン据えていくわけだから、余裕をもって計画どおりに配置していける。
あとは人口の増加と町の発展、予算を鑑みて拡張していけばいい。
そのあたりはネヴェとカーマインさんに薫陶を受けて、都市計画局が立案していく。
僕はざっくりとした構想を投げるだけだ。
さて、ここからの僕の仕事は厄介だ。
学園の魔術科の指導教員をスカウトしなきゃいけない。
その上で指導カリキュラムを策定し、学生の募集と選抜の条件を考えなきゃいけない。
ゆくゆくは卒業生から教員を選出もできるが、スターターの人材集めが目下の急務だ。
まさか僕が全部指導するワケにもいかない、無理だし、イヤだ。
卒業後の就職先として、国立または公立の魔術研究所や魔術兵団の創設にも関わる必要があるだろう。
これは大変だなあ。
人材調達元として考えられるのはいくつかある。
友好国、帝政マガニアの魔法兵団ミスカーチュに金を積んで融通してもらう。
敗戦国、イダヴェルは国内事情が逼迫しているので、帝国魔術団アトラーヴェイも資金繰りが良くないはずなので、 そこに付け込んで、良さそげな人材を買う。
十王国中に募集広告を出す。
大賢者に聞いてみる。
…一番最後だけ速攻で聞けるな。
双子ノート(通称)に書き込む。
『ご無沙汰しております。魔術学校を設立することになりまして、講師の魔術師に心当たりがありましたら教えていただけませんか?』
『そんなもんおらんわ、ボケ』
はい終了。
期待はしてなかった。
準備に時を費やし、まず募集は国内と魔術師を国として公募していない友好国である、キャルバル、ロガランド、ドロームン、ヒヤルランディ、カタラクで高札で出す手配をした。
ただし魔術師として自覚があればすでにいずこかに売り込んでいると思われるので、これも期待薄。
マガニア行は一応祖国であるし、生家もあり親兄弟もいるリュタンに行ってもらうこととした。
本人は随分嫌そうだったが。
まあ、実家では厄介者扱いされて、国許では歩く災害扱いされているので気持ちはわかる。
無論一人で行かせると三歩で遭難するので、バルディス有力貴族ヴィクセン伯の次期当主という名目でサラ、セットでランヴェール、黒犬…もといラトロード騎士団からテスカ百人隊という明らかにランヴェールの負担が大きそうな編成。
一方のイダヴェル行は僕が行く。
お供はアル君とラトロード騎士団から、本編初登場の副騎士団長ネクタリス・ジェイド・シェンカー。
荒っぽい団長のクーリアを抑える役なので割とマシな人。
麾下の百人隊も多少は躾が良いので選んだ。
名目は帝制から王制に戻り、今後は誼を結ぶことになるイダヴェルへの親善大使だ。
当然、戦勝国が敗戦国へとわざわざこちらから出向くのだから親善などではありえない。
きっちり賠償金を払えという念押しと、残存兵力をかき集めて再侵攻でも企んではおるまいな、という視察だ。
だからこそ大戦でイダヴェルに痛撃を加えた僕がわざわざ刺激しにいく形になる。
一応最高戦力扱いなので、謀殺されそうになっても独力で切り抜けられる可能性が最も高いこと、新参者なのでほかの宮廷騎士または重要人物よりはやられても惜しくないこと、そして何よりバルディスに侵攻した兵士の心に恐怖を刻み込んだ僕が行くことが最も脅しとして効果的であると判断された。
万が一僕が殺されても、既に眠り湖三国同盟は解消されており、バルディス同様イダヴェルに賠償を請求する立場のミクラガルド、コルベイン両国も敵に回って一国対九王国で嬲り殺しになることは明白なので多分大丈夫だし、ヤメてほしい。
しかし帝政から王立議会制に移行し、新王となったクスコ・ガンカナーは求心力、内政力も高く理性的、おまけに宰相としてアスタニーヴ・サイレン元将軍、王立議員最年少として抜擢されたアリエン・ワーデルガー君がいるので、この先は安泰だろう。
そして僕らの訪問相手もこの三人が主になる。
シェンカーと無駄口をたたきながらの道行。
「お頭が行くってことはイダヴェルのヤツらに脅しカマして、落とし前にしこたまふんだくるってことですか?」
結局ラトロード騎士団脳でした。
「いや単に知った顔だって理由ですよ。それに敗戦国を追い込むとどうなるか考えてみてください」
「うーーーーん、キレるとか?」
「お、正解です。前国王は討たれ遠征も失敗に終わりましたが国土を蹂躙されたわけでもなく、敗戦を実感できない人が大多数です。そんな時に無茶な賠償を要求すればいらぬ恨みを買うだけでなく、暴発を招きかねません」
「ナルホドねー。第二次イダヴェル大戦の始まりになるわけっすね。さすがお頭、獲物は生かさず殺さずってね」
「人聞きが悪すぎますよ!あとお頭はやめなさい」
「でもイダヴェルは国土も豊かで、生活圏の拡大が必要ではなかったはずなのに何故本格的な侵攻をしたんですか?」
アル君の尤もな質問。
「昔から領土が隣接していて小規模な衝突はありましたが、結局はバシュトナークの個人的なワガママです」
「ワガママ…そんな理由で戦争が起きるんですか?」
「それはもちろんです。個人のワガママで戦争を起こせる人が帝王であり、独裁者であり、総書記なのです」
「総書記?」
「あ、いえいえ忘れてください。で、肝心の理由ですがバシュトナークが『我は一代で大陸を武をもって統一することができる』と証明したかっただけなんですよ。結局できなかったので、ホラフキの迷惑ってことになりますが」
「なんて子供じみた考えなのでしょう」
「大義ある戦争なんてあるわけないじゃないですか。資源ほしい、土地ほしい、ムカつく、俺ツエー、これ以外の理由で戦争起きたことがあるのなら教えて欲しいくらいですよ。バシュトナークは取り繕わないだけマトモかもしれません」
「巻き込まれた方は大変ですね」
「攻められた方は運が悪いですが、当事国民は百万人で鍬もって王宮を襲撃して王を殺せばいいのですよ。それをしないのなら王のやることに賛成してるということです。それがイヤイヤなのか、喜んでなのか、だまされてなのかに関わらず、ね」
アル君は神妙な顔をする。
「でも、生まれは選べませんし」
「それでも自分の生き方は選べます。」
続けて言いたいことはあったが飲み込んでおく。
よくある世界の不条理だ。
途中国境のジェルケルハイム要塞でひとやすみ。
王都騎士団の人員が非常に不足しているため、砦の防備と管理は最寄りのウイラード辺境伯に権限委譲された。
「あ、どうもご無沙汰しております。お元気でしたか?」
「…」
守備隊長に就いていたのは、収監後爵位を剥奪され罰金を払わされた挙句、温情という名目でこの職を頂戴したレスター・ウイラード元子爵だった。
見逃したハズなんだが、兄のウイラード辺境伯から実質勘当されたらしい。
「申し訳ありませんでした、伯爵」
おお!?まさかの謝罪。
てっきり逆恨みされてると思ったのに。
「大局を見ず、ただ感情と自身の狭い見識に固執し領民と国を危機にさらすところでした。閣下の見識と手腕に感銘を受け、以後一騎士として砦と国境の守護に一生を捧げます」
なんと、志願してのことだったのか。
こりゃ失礼しました。
「ウイラード卿(騎士籍は与えられている)は剣の腕も確かだと聞いておりますので、国境の護りとして心強い限りですね」
「これは過分のお言葉、痛み入ります。お役目しかと勤めさせていただきます」
バルディス宮廷騎士団リイウスィーンもなかなか定数を満たせない中、国境の護りにひとつ楔が入るのはいいことだ。
ウイラード騎士団長の地位はさすがに与えられないかもしれないが、本人のモチベーションは充分らしい。
王都から流れてきた噂レベルの僕の武勇伝を鼻息荒く話すレスター氏に訂正を入れる僕。
それを聞いてウンウンとうなずきながら更に目をキラキラさせるレスター氏。
国境の夜は妙な感じで更けていった。
その後はイダヴェル入りすると、護衛の名目で一個大隊くらいのお迎え、または監視の一団が合流し一挙に大人数になった。
「帝国剣術団アークロイガー第一軍、軍団長ハンス・フルーエ・ワーデルガーと申します」
「これはいつぞやの騎士殿。わたしが言うのもなんですが、息災で何より」
ハンス氏は王都決戦の直前にあわや僕が負けそうになった知将だ。
軍団長とは大出世。
それだけ有力な武人が亡くなったのかもしれない。
「あの大戦火の中、お互い無事とは数奇なものです。遺恨は流し帝都までの道中、全力で護衛を務めさせていただきます」
「よろしくお願いいたします」
やっぱこの人もいい武人だなあ。
道中は平穏で、ハンス氏がアリエン君の兄だと聞いて驚いたくらいで事件は起こらなかった。
そして旧帝都ウルである。
正門にをくぐった大通りの左右はアークロイガーの剣士が整列して抜剣、捧げ礼をしており壮観だった。
これで斬りかかられたら確実に死んでしまうが、幸いそういうことにはならなかった。
街の人たちの雰囲気は正直良くも悪くも無かった。
武の人であった先代バシュトナークは治世においてはおおよそ及第点といったところで、今代のクスコ・ガンカナー・イダヴェル帝の方が評価が高い。
その状況を作った敵国の将への感情は、国内での被害の少なさもあり随分割引されているといったところだろうか。
「遠路はるばるようこそお越しくださいました。宰相のサイレンです」
「盛大なご歓待に感謝します。バルディス王国特使、サイカーティスです」
理知的なイケオジ。
歓迎の飲み会(楽しみすぎる!)は夜なので、早速実務者協議に入る。
会議室で再度顔合わせ。
とは言ってもこっちは文官連れてきてないので、アル君を秘書がわりに全部僕が取り仕切る。
やることは戦後賠償として確定している額から、魔術師を人身売買して、その分減額するというなかなかにエグい内容だ。
魔術師として紹介された人物を、能力とニーズによって査定し、金額を提示する。
リストアップされている候補に目を通す。
『ルバイヤート・ウクバル 帝国魔術団アトラーヴェイ 後方支援担当 40歳 男性
エルラン・フェイテルモ 帝国魔術団アトラーヴェイ 攻撃術担当 29歳 女性
パル・クォーラー・キリアム 帝国魔術団アトラーヴェイ 後方支援担当 付与術 34歳 男性
ウーワレク・ザヒア 帝国魔術団アトラーヴェイ 強化術担当 25歳 男性
レイモンド・クーシャ・トピエフ 帝国魔術団アトラーヴェイ 精霊魔術研究科 66歳 男性』
これはなんと良心的な人材。
ほぼ各担当の人員がそろっている。
「こちらの方々は本人の希望でのリスト入りですか?」
国の意向で無理やりとかはイヤだと思って聞いてみた。
無理やりと言っても困窮していて、家族などのケアと引き換えとかだと仕方ない面もあるかもしれないが。
「事情はそれぞれ違いますが希望してのことです。全員登城しておりますぼで、個別に面談なさいますか?」
「是非お願いします」
「魔術阻害の装具を付けさせた上で面談させますのでご安心ください」
「お気遣いいただきありがとうございます。ですが魔法剣士である私には不要です」
面談は僕とアル君とシェンカー、相手側は本人とアトラーヴェイの渉外担当のクスニフ師、財務担当の文官数名、ハンス卿、アリエン君というメンツ。
到着早々ではあるし、夜の飲み会は超優先事項なのでごあいさつくらいで。
アリエン君にも軽く挨拶をしていざ面接開始。
最初はルバイヤート・ウクバル。
細身でやや南方系の血を感じさせる褐色の肌と、少々ぼーっとした印象の男性だ。
「初めまして、ウクバル師。この度は面談に応じてくださってありがとうございます」
「魔術の深淵に到るには弛まぬ地道な研究が不可欠」
「…はあ」
「研究には予算が必要なのです」
「…はあ」
「湯水のように予算を使わせてくれるのならば是非貴国へ行きたい!すぐにでも!」
うん、魔術師ナメてた。
剣術団と魔術団は「帝国」が入ったままですが、名称の一部ということで据え置きです。
時代とともに変わっていくのかもしれませんねえ(遠い目
王国だと響きがイマイチという僕の個人的見解という噂も




