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異界のストーリーテラー  作者: バルバダイン
第一部 「イダヴェル戦乱編」
56/65

第五十三話 「戦後①」

 夢?


「違うよ~」


 あ、管理人だ。


 てことは失敗したのか。


「違うよ~」


 違うのか?


 半分取り返して外界とアクセスしていたはずなのに、見回すと元の暗い部屋で倒れていて、管理人がいた。


「あ」


 違うところがあった。


 メルレンもそこにいたのだ。


「おめでとう、キミの勝ちだよ。今はダブルノックダウン?みたいな状態だけど、ホラ見てごらん」


 言われて見ると


「うわ!」


 メルレンの顔の右半分が消失していた。


 ただし傷口になっているわけではなくて、切断面は黒く影のように見えた。


「精神体だからねー。キミの魔術でこういうダメージを受けた認識なんだ。死んではいないけど見てのとおり大怪我、まともに思考活動を行うようになるには何年もかかるんじゃないかな」


「僕は?」


 慌てて自分の顔に手をやるも精神体なので感触があやふやだ。


「大丈夫大丈夫。見た目なんともないよー。キミは意外とタフなんだね」


「ははは…」


 どう答えたものかわからず乾いた笑いが出た。


「と、いうわけでキミは目が覚めたらもうここには来られなくなる。つまり悲しいけれどボクともお別れだよ」


 悲しくはない。


「つれないなあ。ええと管理人としてはひとまず問題が片付いて安心したよ。ここからは当初の問題にようやく手がつけられるね」


 当初の問題?


「おいおい、忘れたのかい?キミはエタった責任を取って続きを書くべく現地取材をしなきゃいけないんだよ」


 あーー。あとエタってない。僕なんかより数十シリーズくらいエタってる某伝奇作家でも拉致れよ。


「知らないよ。で、ここからはキミの自由裁量で行動できることになるよ。イダヴェル動乱の戦後を描いてるのはシリーズでは一本、番外編でニ本だから、あんまり強制力が働く場面も無いんじゃないかな」


 自由にしろって言われても…帰る?


「管理人というよりこの世界自体の都合から言ったら、それじゃなんの問題解決にもなってないからダメじゃないのかな。帰る手段はクエストの報酬みたいなもんだってオーベイも言ってたろ?」


 あー!それそれ!お前らグルだろ!


「違うよー、あのじいさんいろいろチートだからボクにもよくわかんないんだよ。ボクよりよっぽど神がかってるし」


 神か?あれ。


「能力能力。人格はほっといてあげてよ」


 ていうかキャラとしてはお前と結構被ってる。


「失敬な!」


 マジギレかよ。よっぽど失礼じゃねえか。


「まあいいよ。そろそろ覚醒すると思うからちゃんとやってよ?頼んだよ?本気で」


 はいはい。自由なら流れに任せてのんびりやらせてもらうよ。


「その辺は任せるけど、元の世界に戻った時に時間の流れがここと同一だったらごめんね」


 おい!お前そこ大事なところ!


「さよおなら~頑張ってねえ~」


 管理人はひらひら手を振る。


 僕の身体(?)は宙に浮き上がり物凄い速さで後方へとすっとんでいく。


 周りが真っ白の光に包まれた。




「あ!目が覚めた!?」


 眩しい。結構うるさい。


 視界がゆっくりと色を帯びてくる。


 先程の争いからさほど経っていないようだ。


 僕はまだ床に倒れたままで窓の外は暗い。


 ランタンらしい灯りに照らされた中には見慣れた三人の顔が見えた。


 サラ、リュタン、ランベール。


 いずれも心配そうにのぞき込んでいる。


 ただしサラの手には剣が握られており、切先は僕の首に押し当てられている。


 偉い偉い。


 ちゃんと言ったこと守ってるね。


どっち( ・ ・ ・)のメルレンなの?」


 意味はわかる。


 しかしそれはどうやって証明したものか。


 サラ達は僕の頭の中のカラクリは知らない。


 メルレンが僕の記憶、またここまでの状況をつぶさに知っているということは本来身の潔白を証明できない、ということだ。


 どうしたものか。


「ええと、サラはクモが大好きです」


「……」


 ジョークを飛ばしてみた。しかし滑ったようだ。


「どうやらわたくしの知っているメルレンは死んでしまったようね」


 剣に力がこめられる。


「わー!冗談ですよ!」


「サラさん!メルレンさんは本物です!魔力の流れが違います!」


 慌てる僕とリュタン。


「わかっていますわ!あっちのメルレンはこーんなしかめ面で、冗談なんか口にするようには見えませんもの」


 サラは「こーんな」と眉間に皺を寄せてみせる。


 僕は居住まいをただし、いわゆる土下座をした。


「大変ご心配をおかけしました。またあやうく危害を加えることになってしまい申し訳ありませんでした」


「……」


 ん?ノーリアクション?


 そうっと顔を上げると皆は目を丸くしている。


「メルレン様、それはどういった意味のポーズでしょうか?謝罪をされているのは理解できるのですが…」


 ランベールが困惑気味に言う。


 あ、やべ。精神体とはいえ自分に戻ってたせいか、うっかりジャパニーズドゲザをやってしまった。


「こ、これは遥か東方の島国に伝わる最大級の謝意を示す姿勢で…」


 リュタンすらジト目で見ている!


「まあよろしいですわ。どうも色々聞かなければならないことがありそうですが」


 サラは打ち切るように言うと微笑んでくれた。


「無事で何よりですわ。おかえりなさい、メルレン」


「ただいま、サラ」




 さあ隠蔽工作だ。


 どこからどこまで隠していいのかわからなかったので全部隠すことにした。


 さすがに異世界人とか言うと色々ダメそうなので、ここより少し未来で死んだバルディスの物書きで、多少歴史を知っていたことにした。


 いかなる神の悪戯か目が覚めたらメルレンの身体にいて、歴史が変わってしまわないように動いたと。


 細かいところを追及されるとボロが出そうなので、記憶が曖昧なことにした。


 サラ達はそれを信じて、胸にしまうと言ってくれた。


 ただメルレンの身体の中にあんな危険思想がいるとバレると厄介なことになるのではないか、と忠告された。


 一々御尤も。


 ということはメニヒとタイマン張って倒してしまっているのはまずい。


 『まぐれでうっかり』勝てる相手ではないとバルテルミもウェズレイもよくわかっている。


 ということでリュタンを伴ってメニヒの遺体のところへ行った。


 念仏唱えるわけにもいかないので、なんとなく合掌して二人で焼いた。


 骨を拾い集めて共同墓地跡に埋葬した。


 墓標は無銘だ。


 その時にわかった。


 『メニヒ・ウォーレンナックがバルディス遠征に失敗した後、行方がわからなくなった』


 その顛末とはこういったことだったのだ。


 書きながら思っていたのは、敗戦の責任を取らされるのを嫌って逃亡したか、被害にあったバルディス兵が仇として殺したか、だった。


 違った。


 メニヒは最後まで戦場を求めて、戦いに果てた。


 それはいかにもメニヒらしい最期だと思う。


 異国で名も無く葬られても悔いることはないだろう。


 たまには墓参にきてやろう。


 サラ達はなぜだかきっちり口封じされてくれるようだし、こんなもんだろうか。


 僕が行方をくらまして、メニヒ探索に参加できなかった理由についてはあまり追究されなかった。


 これは僕が召集より前に独自に探索していたと言い訳したためだ。


「たまたま出ていた時に一報を受けたため、そのまま探索へ向かってしまいました。勝手をして申し訳ありません」


「いえ。メルレン殿であれば単独でメニヒと遭遇してもある程度持ちこたえられるとは思いますが。無茶はあまりされないように」


 バルテルミにちょっと釘を刺された。


 メニヒは逃亡ということで処理された。



 翌日。


 イダヴェル兵が護送されて行くにあたり、僕は敵将を見舞った。


 アスタニーヴ・サイレンだ。


「わざわざのお見送り痛み入ります」


 憎まれ口などきかない。第一印象どおりの理知的な将軍だ。


「戦の勝敗は水物です。当事者としてはこのようなことを言えた筋ではありませんが、戦没者に対し哀悼の意を捧げます」


「かさねがさね感謝いたします。ウォーレンナック大将軍の逃亡に際し貴軍に対し損害を与えたことについても寛大なご処置をいただきありがとうございました」


「ご乱心であったと。そう看視の兵から報告されておりますゆえ」


 そこでサイレン将軍は言葉を切った。声を潜め周囲の兵に聞こえないように囁いた。


「貴殿がここにいらっしゃるということは…そういうことなのですね」


「はい。尋常の立ち合いであったかどうかはわたしにはわかりかねますが、大将軍のご希望に沿えたのではないかと思います」


「そうですか…」


 すると、サイレン将軍についていた少年の従者がおずおずと進み出た。


「ご無礼を承知でお尋ねします」


「控えなさいアリエン」


「いいえ、構いません。アリエン…殿ですか?何を聞きたいのですか?」


 おそろしく聡明そうな少年だ。アリエン・ワーデルガー、確か後半は軍師的立場をつとめたらしい。


 逸材だ。未経験の状態から戦場の空気だけで戦況判断なんてモノが違いすぎる。


 バルテルミのサイレン将軍スカウト欲求じゃないけど、この子欲しいわー。


 あやうく勧誘しかけたが、脳裏にアル君の拗ねた顔が浮かんでやめた。


「ありがとうございます、メルレン将軍」


 将軍!軍率いてないので将軍ではな…率いてるか。なんかカリアゲにしたみたいでむず痒い。


「ウォーレンナック大将軍に何故勝利できたのですか?囲んで矢でも射掛けたとは思えないのですが」


 うあ、核心ついてきた。


「そうですね。わたしはそれまで決して手加減をしていたワケではありませんが、自分の命を危険にさらすような秘中の技があります。今回はそれをもって大将軍になんとか勝ることができました」


「…そうですか。文字通り死力を尽くした戦いだったのですね。僕からもお礼を申し上げます、メニヒ様の笑顔が眼に浮かぶようです」


 僕は何も言えず、無言でアリエンに頭を下げた。


 イダヴェルはこの後混乱を経て領土を切り取られながらも、唯一生き残った第三軍将軍のクスコ・ガンカナーが王位につき、国をまとめ復興へと舵を切る。


 その時にこのサイレンやアリエンがそれを補佐していくのだろう。


 軍事力の喪失に近いダメージ、帰還兵のケア、遺族への慰労金や各国への賠償金、領土の減少による農業収穫や税収減。


 イダヴェルの未来は暗い。


 それでもこれらの才能できっと打開していくのだろう。


 そのうち後日談拾いに行ってみたいな。




 サイカーティス商会はヤバイ儲けを出している。


 さすがに鹵獲武器を捌くわけにはいかないが、戦争もひとまず終わって武器鍛冶は開店休業になり、グルミエ親方は不満を漏らしているらしい。


 しかし復興に入用な生活鍛冶については弟子達が修行がわりにと、良質な道具を多く生産しているのでバカスカ売れている。


 そして一番の売れ筋は木材だ。


 カーマインさんの指示の元、ゼフィアが当主であるエンフィールド公爵領から徹底的に木材を買い上げ、帝政マガニアや、ヒヤルランディ経由でも買い付けて、蓄積された木材は王都の復興へ大量に調達されている。


 王国への税も莫大になるが、資材の入手が優先され一部の王宮向け部材を『相場』換算で物納することで話がついている。


「メルレン様に課せられる税率が上がる前にある程度積み上げられて幸いでした」


「わたしに増税があるのですか?」


「俸禄をいただいて、その他の収入に関して定率で納税する騎士爵とは違い、陞爵して領地を得れば領民からの税収もありますので当然税率は上がります。ただ収入も才覚によりますので、立地とやりようによっては莫大な富を築き上げることも可能です」


 カーマインさん、ちょっと目がギラついていますよ?


 王都の屋敷は既に廃屋なので、面々を引き連れて疎開先に行ったのだけど…


「なんか元々が村だったというのがわからなくなるくらい拡張されてますね」


「はい、交易の便宜と職人の生産拠点、王都から比較的近いということもあり一般民の仮設住居等を建設していると手狭になり、王都の復興にも時間がかかりそうだと説明すると大半の者はここへの定住を望み、村長と相談の結果思い切って大規模拡張に踏み切りました」


 さすがにお屋敷までは建設されていないものの、カーマインさんやコックニーさん、エレイン達が『サイカーティス卿疎開先』として数軒の建物を板塀で囲み、執務可能にしてある。


 拡張した場所に整然と機能的に並べられた各職人の生産工房や作業所、隣接する商店や食堂に宿屋。


 『銀杏の並木亭』もあるな。


「おかえりなさいませ!メルレン様!」


 メイド、いやアネカが現れた。


「ここへは視察に一度来たきりで、こうなってからは初めてなんですがね。戻りました、アネカ」


「ここは活気があってすごいです。王都にいた時よりよっぽどお客さんが来てくれるんです!」


 ハハハソレハナニヨリ。


「これはこれはメルレン様、ご無沙汰しております」


「村長さん、お久しぶりです」


「ご覧ください、この発展振りを!もうおこがましくて村とは呼べませんな。これからはサイカーティスの町と呼びましょう!」


 熱っぽく語る村長さん。


 前来た時は街道途中の寒村で、王都から近いから避難しなくていいかビクビクしており、大量の避難民流入には治安の悪化などに懸念を示していたが、村が潤うと途端に態度が軟化したようだ。


 村と町では明確な線引きはないが、村長は住民の協議で選出されるが、町長は直轄地では王宮の担当官、貴族領では領主によって任命される。


 また町には守備兵がある程度派遣される。


「活気があってわたしも嬉しいですが、名前はそのままでよろしいのではないでしょうか」


「いえいえ、サボの村という名前は『小石』という意味の古語から来ており、小さな村を自嘲してつけられておりますのでもう不似合いですよ」


「はあ、そうですか。まあ町へ昇格が決まったら王都の担当官と相談してください」


「ええ!?メルレン様が陞爵して一帯を治められるのではないのですか!?」


「ええ!?わたしはそんなお話しは聞いておりませんよ!?」


 驚く僕と村長さん。


「メルレン様、無い話ではありませんよ」


 カーマインさんまでそんなこと言って…。


 僕は今も土木工事が行われて広がっていく町を眺めながらため息をついた。



 内政チートなんかできない僕は、書類仕事を任されないように村内をブラブラしていた。


 アル君はカーマインさんに捕まって、経理の初歩なども習わされている。


 あの子って騎士見習いなんだけどなあ。


 リュタンは一旦オーベイのところへ帰って方針を相談してくることになり、ランベールと護衛をつけて千年森へと旅立って行った。


 戻ってくるのは半年後。


 サラは…


「帰らなくてよろしいのですか?」


「なぜですの?」


「なぜと言われましても…ヴィクセンの次期当主ではありませんか」


 そう言うとサラは顔をしかめた。


「お父様が壮健で、実務も有能な者が補佐して領内の経済、治安とも安定しております。わたくしが帰って何をするのです?」


「ヴィクセン伯も会いたいのではないでしょうか」


「お父様は大戦のおりお会いしております。それに一旦騎士として送り出した者を除隊する前にそうそう呼び戻すわけにはいかないでしょう」


 じゃあ今は騎士の務め果たしとるのかいってツッコミはさておき、サラは王都騎士団内のバクスター隊から特に派遣されて僕付き、いわゆる宮廷騎士に付く副官みたいになっている。


 ダナードは通常任務に戻り、今は主にウェズレイとともに行動している。


 だからってサラが副官というのは、いくら平時とはいえ他意がありすぎると思うのだ。


 おもにヴィクセン伯爵の思惑がっ!


「王宮が仮復旧も大詰めらしいですわ。これで延び延びになっていた戦勝祝賀会も執り行われますわね」


 あからさまに話題変えやがった。


「王宮は急ピッチで復旧できましたが、街はさっぱりですね。埋葬や食人鬼(オーガ)火竜(ファイアードレイク)の死骸を解体して処分するだけでも一仕事ですよね」


「他人事みたいに言ってますけど、主にメルレンの仕業ではなくて?」


「これは人聞きの悪い。大賢者殿の魔術を代行して発動したまでですよ。それに食人鬼(オーガ)はともかく、火竜(ファイアードレイク)については防具等の素材の塊ですからあれだけの数がいれば復興費用の足しにはなると思いますよ」


「カーマインも慌てて買い付けに奔走してましたものね」


 火竜(ファイアードレイク)のものでは竜鱗の鎧としては程度が低いが、それでも軽量、堅牢、耐火の性能に優れているので身軽さを身上とする軽歩兵には有用な防具だ。


 おそらくマガニアあたりで売りさばくつもりだろう。


 そのあたりは完全にお任せだ。


 こちらの世界で蓄財しても何になるわけでもない、という感じがしているからか。


「まあ、そろそろ呼び出しですね」


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