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異界のストーリーテラー  作者: バルバダイン
第一部 「イダヴェル戦乱編」
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第四十九話 「もうひとつの決着へ」

 目を覚ますと、リュタンは涙目で謝りまくってきた。


 しかし「ちゃんと言ってくれればよかったのに」と非難もしてきた。


 いや、言ったけど聞こえてないから意識に割り込んだんじゃないか。


 ちなみに男だったら結界貫通効果のあるハンマーで思い切り頭ぶん殴って気絶させたな。


 そんなハンマー都合よく手近にないけどね。


「危険性を甘く見積もったわたしの責任です。リュタンも危険な目に遭わせてしまい申し訳ありませんでした」


 幸いキスの方に気を取られていたので、魔術暴走のほうは先回りして謝っておいた。


 僕が制御に失敗してしまったのだ、と。


 それで納得したわけではないが、キスの方もあわせてひたすら謝っていたら、自責するタイミングを逸してしまったようだ。


「それでもわたしの魔術が破壊をもたらしたことには違いありません。死者が出なかったとはいえなんとお詫びしたらいいか」


 バルテルミもちょっと渋面だった。


「確かにイダヴェルの危機を凌ぐような未曾有の危険だったと思います。申し訳ありませんが、シーリア殿は以後魔術の行使を阻害するような装具を身につけていただきたい」


「もちろんです…」


 まあ仕方ないか。でも完全抑止のアイテムなんか入手が大変そうだ。


「で、わたくしには一言もありませんの!?」


 やあサラ。


「サラ、危険に巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」


「く、そっちではありませんのに!」


「ん?どっちですか?」


 とぼけるに限る。


「アレですわ、あの…衆目も憚らず、あのような破廉恥な行為を!」


「ああ、直接干渉(ダイレクトリンク)ですか?」


 そんな言葉はない。たった今考えた。


直接干渉(ダイレクトリンク)?」


「ええ、術の行使中に術者が危険な状態に陥った場合に外部から強制的に術を中断させる方法です」


 流れるように嘘が出てくるよ。僕には詐欺師の才能があるのかな。


「では必要な行為で、魔術師としては一般的なことだと?」


「稀なことではありますが、今回は有効でした」


 ここは嘘じゃない。


「なら、仕方ありませんわね…」


 よし勝った。




 しかし王都の様子は洒落にならなかった。


 ほとんどの建物は倒壊、十王国で最も美しいと称された王城は尖塔がボッキリと折れで消失しており、外壁も半分は崩壊している。


 きっと作り直した方が早い。


 奇しくも十王国物語に僕が書いた「バルディスは王都などに壊滅的な被害を受けたものの」という部分は自らの手で実行してしまった。


 皮肉なものだ。


 騎士団をはじめとする戦力以外の人員は避難しており、内政を担当する大臣ズなども疎開しているワケなのだが、見たらきっと卒倒するな。


 命あっての物だね、という言い訳でどこまで通用するかな。


 ただイダヴェル侵攻によって直接被害を受けたのはバルディス、ミクラガルド、コルベインの三国だけなので、勝利の暁には莫大な補償をふんだくると思われる。



 イダヴェル第一軍はメニヒがさすがに負傷と疲労が大きく、撤収についての指揮はあの時のサイレンという将軍が執っていた。


 その処理能力と統率力は目を瞠るものがあり、バルテルミも引き抜きたいと漏らしていた。


 そういえば宮廷騎士団のメンバーを見渡すとウェズレイとかダナードとか肉弾タイプが多い。


 麗し野のバルディスの宮廷騎士団の割りにはむさくるしい。


 知将タイプの人材が欲しいんだろうなあ。


 と思ったら「期待していますよ」と言われた。


 いや、僕は華奢なので見た目知将タイプに分類されるのかもしれないけど内政ダメだよ?


 領地すらない切り盛りなのにカーマインさんにまかせっきりなんだからね。




 文字通り山と積まれていく武具。


 これらは一点ずつ鑑定され引き取られるか、鋳潰されて再生される。


 目先の収入として大半は商人に引き取られるが、こう大量にあるとほぼ買い叩かれる。


 むこうも商売なので仕方ない。


 さばききるまでは在庫を持て余すだけであるし、バルディス国内の戦闘は現状落ち着いたワケなので、遠隔地まで輸送し売らねばならない。


 中にはイダヴェルに持ち込んで再軍備用に捌こうと考える商人もいるようだが、戦費と補償を支払った後のイダヴェルにどこまで余裕があるかは不明だ。


 兵達は武装解除された後、千名ほどの集団に分けられ最低限の食糧とともに国境まで送られるらしい。


 メニヒ、サイレン将軍などの数名は捕虜として交渉材料に使われるそうだ。


 集団には百名ほどのバルディス兵が監視としてつき、手縄をかけられたまま生気のない目をしたイダヴェル兵たちが護送されていく。


 十五万のイダヴェル兵は半数にやや届かないところまで減っていた。


 麗し野の会戦で斃れた兵の遺体はほぼ収容され、荼毘に付された後荷車に積まれていた。


 王都の戦いでの死者は大半が行方知れずになっていた。


 強力な風によって巻き上げられた遺体は散り散りになるか、予想もつかないほど遠くへ飛ばされたようだ。


 その捜索に割くほどの人員はいない。



 塀があるか無いかで、王都の中と外には最早違いは無かった。


 逃亡を防ぐ意味では王都内にイダヴェル兵を置く方が効率がいいと思って提案したのだが二つの理由から却下された。


 一つは仮にも国王の座所に敵を置くというのはいかがなものかという、一面から考えれば至極真っ当な意見が上がったこと。


 もう一つは当のイダヴェル兵の一部が惨劇の舞台となったヌクレヴァータに入るのをひどく嫌がって恐慌状態に陥る者がいたこと。


 騒ぐ者、自死をはかろうとする者もいたということで、却って混乱をまねきかねない懸念があった。


 結局、バルディス兵は王都にイダヴェル兵は監視つきで城外に置かれた。


 こちらの人員割り振りや、護送ルート、食糧の調達などがほぼ完了し、いよいよ明日にはメニヒやサイレンをはじめとする重要人物を乗せた馬車と護送グループ第一弾が出発と相成った。


 


 アリエン・ワーデルガー視点



 捕虜としての扱いは決していいとは言えなかったが、それも王都がほぼ無くなってしまったのだから仕方ないと思う。


 それでも僕は参謀格として待遇して貰えているのか、年少なためなのかサイレン将軍とおなじ天幕に寝泊りしており、監視つきとはいえ手枷もされていない。


 サイレン将軍も手枷無しだが、さすがに大将軍は手枷に足枷、鉄格子に監視も十人いるらしい。


 戦いは終わった。


 酷いものだ。


 僕も兄上もサイレン将軍も大将軍も生き残りはした。


 でも恐ろしくたくさんの人が亡くなって、残りの人も戦に脅えるようになってしまった。


 エルフの騎士のせいだ。


 あんなの(・ ・ ・ ・)はない。あれは戦じゃない。


 ズルイとは思わない。戦なんて突き詰めれば殺し合いだ。


 ルールなんてあるわけはない。


 でも、どこかで常識というか、こうあるべきだっていう線引きがあったんだろう。


 ちょっと前の戦では陣形すら研究されていなかった。


 みんな横一線に並んで、双方名乗りをあげたら一斉に突撃だ。


 それがイダヴェル流というか、奇襲をしたり、名乗りをあげてる敵に矢を撃ち込んだり、兵ではない民衆を人質にとって武装解除させたりという「なんでもあり」の戦を持ち込んでしまった。


 それをやり返されただけだ。


 何を文句が言えよう。


 ただ予想できなかった、ということだ。


 こんなおとぎ話に出てくるような、アシュケム様よりもおそらくは大規模な魔術を使ったり、侵攻をとうの昔に予知して住民を避難させるだけではなく、あちこちに罠をはりめぐらせたり。


 そんなことは考えもつかなかった。


 けど、もう見た。


 次はうまくやれる。


 次?


 僕は何を考えているのだろう。


 また戦に出るのか?


 いや、もうたくさんだ。



 深夜だった。


 変なことを寝る前に考えたせいか、なかなか寝付けなかった。


 明日から長距離の移動があり体力が必要だというのに。


 遠くで金属同士が打ち合う音が聞こえた。


 悲鳴、そして怒号も。


 それは、紛れも無く戦の気配だった。


「アリエン!」


 サイレン将軍もすぐに起きて傍に来てくださった。


「何事でしょうか」


「わからない。でも見張りもいるし、迂闊な真似はできないだろう。もし、何かの理由で我々を処刑することに決まったのなら…私はできるだけ抵抗する。お前は逃げなさい」


「な!そんなことはできません!僕は将軍の従卒です!何故主を捨てて逃げられましょうか」


「お前はまだ若く、メニヒ様すら認めてくださった才がある。ここで死なせるわけにはいかない。一人でも逃げ延びて、国の復興に力を尽くすのだ」


「聞けません」


「聞き分けるのだ、これは命令だ」


 ズルイ。これは確実にそう言える。


 自分の感情で命令を下すなんてズルイ。


「復唱したまえ、アリエン・ワーデルガー」


「…僕はイダヴェル帰還を最優先します」


「よろしい」



 戦の音が近づいてきた。


 どうも様子がおかしい。


 バルディス兵が捕虜を殺している可能性を考えていたのだが、それにしては音が激しいすぎるのだ。


 ついには僕らの天幕前まで音は達し、重い音と悲鳴とともに天幕が切り裂かれた。


「メニヒ様!」


 真紅に染まった巨躯。


 凄絶な笑いを顔に浮かべて、ウォーレンナック大将軍は半裸に剣といういでだちでそこに立っておられた。


「ご苦労、サイレン、アリエン」



 僕は驚きのあまり一言も喋れなかったが、サイレン将軍は矢継ぎ早に質問を浴びせていた。


「メニヒ様!何をお考えですか!?まさかお一人で残るイダヴェル兵を解放し、バルディスへ反撃でもなさるおつもりですか!?」


「それは豪気だな、しかしそれでは軍など必要ないではないか。我が単騎で敵国に斬り込んで平らげてくれば事足りよう」


 大将軍は笑っておられた。


「笑い事ではありません!ここでバルディスを刺激すれば、イダヴェル兵が全て処刑されてしまうかもしれません!それにメニヒ様はこの戦に幕を引くことを承知して下さったのではありませんか!?」


「騒ぐなサイレン、心配ない。貴様らはここで大人しく繋がれておればよい」


「どういうことでしょうか?」


「我は狂うたのだ」


「は?」


 大将軍は見たことがないほどに笑顔だった。それを見て本当に狂ったのかとも思ったが、そうではないだろう。


「国許へ戻れば将としての責を問われ斬首かよくても指揮権の剥奪であろう。我はそうした負け戦の心労に耐えられず狂うた。そして見張りを斬り殺し逐電する。追っ手がかかり囲まれて死ぬるか、どこぞで野垂れ死ぬかは天のみぞ知る、だ」


「正気でございますか」


「だから狂うたと言っておる」


 僕は大将軍の言いたいことがわかった。


「あのエルフですか?」


 大将軍は僕を見て一層笑顔になった。


「わかるか」


「はい」


「ここで退いてしまっては二度と機会はないのだ。敗軍の将としては悄然とつながれたまま恥を晒すのが当然の勤めであろう。恥なぞいくらかいても構わぬが…バシュトナーク陛下ともう一度斬り合う機会が無い以上、我の最期の相手は奴につとめて貰う」


 大将軍は勝っても負けても死ぬ気なのだ。


 サイレン将軍はどうにも諦めきれないらしく翻意を促したが、結局大将軍は聞き入れなかった。


 僅か数分のことだった。


 大将軍は去り際ににいいっと凄絶な笑顔を見せて


「励めよ」


 と言い残して行かれた。


 それが僕らと、稀代の武人メニヒ・ウォーレンナックとの最後の別れとなった。




 メルレン・サイカーティス視点



 王都の僕の屋敷は屋根と二階部分がすっとんでいたものの、ぎりぎり一階の一画は住めた。


 いや住める状態じゃないのだが、扉と壁と屋根があった。


 もとの使用人部屋が二部屋と厨房がなんとか崩壊せずに寝られる状態だ。


 とはいえ家具の類は無いし、窓もない。


 窓の代わりに床板をめくって打ち付け、ベッドの代わりは野営用の布ぶとんだ。


 伯爵令嬢のサラですら野営慣れしてしまい、リュタンと同室でくっついて寝ている。


 アル君は僕と同室で構わないと言ったのだが、頑なに厨房で寝ている。


(まあ、終わったなあ)


 ところどころ空いた穴から星が見える。


 この世界は宇宙に浮かぶ天体として地球があるわけではないのに星があるのは妙なのだが、話としては亡くなった人の魂が天に召し上げられて地上の人の夜の明りとして、あるいは道しるべとして輝いているのだと言われている。


 なんともファンタジーでいいではないか。


 これから王都は復興に向けて全力を振り向けていかなくてはならない。


 人的被害が極端に低く抑えられたのはよかったが、シビアな見方をすると戦争で経済基盤や食糧生産体制が大きく減衰したのに人口が変わっていない、ということになる。


 相当急ピッチで復興しないと飢餓や難民が発生しかねない。そこまで行かなくても食糧価格の高騰や、治安の悪化があるかもしれない。


 僕がそこまで絡むのかどうかは不明だ。


 あてになるかどうかはわからないが、一応クソ大賢者のお告げどおりに動いたワケだから、そろそろ元の世界へのゲートか何かがパーっと開いてもいい。


 この世界へ来たのは事故には思えない。


 あきらかに何らかの意思が介在していた。


 でもテンプレの異世界トリップの前に神様が現れてチート能力をあげる~という一幕は無かった。


 またはこの世界で封印された魔王を倒せとも言われていない。


 僕の知る限り魔王がいた歴史はないが。


 帰還のためのトリガーがわからない。


 何をすればいいのか、僕はいつまでここにいればいいのか、元の世界では時間経過とかどうなってんのか。


 駆け足でここまで来てしまったのだが、今更ながらよく考えてみるまでもなく何もわからない。


 不安はあるにはあるが、考えても仕方ないとも思う。


 どうせなるようにしかならない。


 復興の手伝いしながら、またオーベイのところに行ってみるさ。


 リュタンも返してこなきゃならないしね。



 いつの間にか眠っていた。


 しかし、突如強烈な気配がして飛び起きる。


(なんだ!?)


 枕元の剣を瞬時に抜いて窓の方に向き直る。


 同時に小さく窓がノックされて声が聞こえてきた。


「夜分すまぬな、メニヒ・ウォーレンナックである」


(えええ!?なんでここに?護送準備中じゃねえのかよ!)


「どうしてここにいるのですか?」


 僕は内心の動揺を抑えつつ聞く。


「…忘れ物を取りに来たのよ」


「忘れ物ですか?」


 意図がつかめない。


「邪魔ばかり入って貴様と存分にやりあえておらぬ、今宵こそ最後まで付きおうて貰おうか」


 そんなむちゃくちゃな。


「アークロイガー第一軍は投降を取りやめるということですか?」


「我の我儘だ」


「どういうことですか?」


「我は逐電し、負け戦の責に狂うて恨み心頭に発し敵将に単独で斬りかかりバルディス軍によって処刑される。斬りかかられた敵将が返り討ちにしたのか、将を討たれた軍によって射殺されたのか。どっちになるのであろうな」


「…どうあってもですか」


「受けぬというならここで貴様を斬り、バルディスの兵を千でも万でも斬って斬り死ぬとしよう」


 これは元の世界になんか帰れないかもしれねえなあ。


「是非もなしということですか。わかりました、場所を変えましょう」


「感謝する」



(月も綺麗だなあ)


 現実逃避というわけではないが、僕は空を見上げて歩いていた。


 騒ぎが遠くで聞こえるが、王都の外でメニヒが暴れたため捜索隊が出ているらしく王都内はかえって人が少なくなっていた。


「どうやって中へ入ったのですか?」


「城壁をよじ登ったまで」


「なるほど」


 聞かなきゃよかった。こいつどんだけだよ。


 目指すのは王城跡。


 王都の中心にあって最も破壊の影響が強く、人がほとんどいない。


 濠に渡されていた跳ね橋は見るも無残に捻じ曲がっていて使い物にならなかったが、肝心の濠の水が全て飛んでいってしまったのでどっちでもいい。


 僕らは濠の跡を渡って進み、もとは王城の庭園だった場所まで行く。


 途中、バルテルミかウェズレイあたりのところへ行って囲み殺してやろうかとも思ったが、そんな気にもなれなかった。


「覇気が感じられんな」


「当たり前ですよ、誰がこんな無駄な命のやり取りで戦意を上げられるというんですか」


「突き詰めれば戦いなど全て無駄でしかないぞ」


「ここまで来てる人に言われたくないです」


「娯楽などは全て無駄であろう。無駄で不必要であるものこそ愉しみがあるのではないか」


 んー極端だけど真理を含んでいる気がする。


「諦観なのか?我を斬らねば貴様が屍となるだけだぞ」


「言われなくてもわかっていますよ」


 メニヒは大剣を構えた。


 僕は霧断丸。


「ゆくぞ」


「どうぞ」

いつも遅い更新ですいません!

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