第四十四話 「vsメニヒ第二幕」
もうメニヒの隊は見えるところまで近づいていた。
早い。
もう少し敵右翼が瓦解してから出てくると思ったのに。
ここに到達しているということは、かなり早い段階で情勢を見切っている。
敵将の本隊という割には非常にこじんまりした隊に見える。
おそらくあれは
「黒鉄の葬列って奴らか」
妙に楽しそうなウェズレイの声。
「そうですね、特に選ばれてメニヒの脇を固めてるということですから、我々宮廷騎士団と同格の実力はあると思ってくださいね」
「そいつはとことんやり合ってみてえなあ」
「夢中になってるとメニヒがきて真っ二つにされますよ」
「あ、そういやそうだっけ」
バクスターとクーリアも並んでくる。
「きやつらを相手に撤退戦ですかな」
「おーお、なんだかガラの悪そうなのばっかだな」
クーリアよ、ガラの悪さならお前が一番だ。
「敵を削り取った我が軍の出口が丁度このあたりになります。本来ならばここで緩やかに左回頭して王都に逃げ込んでしまうのですが、あの連中に背を向けたらどれだけ食われるかわかりません。相当厳しくなると思いますが、バルディス軍はここで全力を挙げて敵を食い止めて撤退を実現します」
とは言っても死んでしまえば元も子もない。
要はメニヒにさえ絡まれなきゃなんとかなると思いたい。
「浮かない顔してんなあ、アニキ」
「アニキではないと何度言ったら…、いやこの前メニヒに目つけられて、次はきっちり勝負つけるとか言われてるので憂鬱なんですよ。勝負つけるって要はわたしの首と胴体がつながっていない状態のことですからね」
「ぶ、ぶわははは!なんだなんだえらく弱気じゃねえか。アニキが本気出せば余裕だって」
こいつはメニヒを実際見てないからってそんな適当なことを言いおってからに。
「無駄口はこれまで。来ますよ!」
「応!」
黒鉄の葬列の実力は評判どおりだった。
正直優勢に戦っているのは僕、ウェズレイ、ダナードの三人だけ。
あとは互角から劣勢だった。
「単騎で勝負しないで!二対一の状況を作り出すように小隊を手近で組む!」
僕は相性がいい。重装の騎士に対して剣の速さと回転で捌き、なおかつ霧断丸は相手に致命の一撃を負わせるのが容易だ。
ウェズレイとダナードは明らかに実力で凌駕している。
当然逆もあるわけで、宮廷騎士団ではまだないものの王都騎士団では被害が出ている。
こりゃもうちょい僕も奮闘しないとまずいな。
「マッシュバーン様戦死!大隊が瓦解します!」
「リンデロン様、敵騎兵一騎討ち取りも負傷!後退します!」
あまり喜ばしくない報告が入る。
「メルレン・サイカーティス前に出ます!左翼指揮はウェズレイ殿にお願いします!」
「おいおい、そりゃねえだろうよ。左翼指揮はダナード・エルゴが執る!構わねえよな?」
「……うっス」
ダナードは超不承不承だ。
「ちょっと引っ掻き回しますから、ヴァーサタイル卿と組んで戦線を維持してください。無論メニヒが出てきたら隊列も無視して構わないので全軍一斉退却です」
「了解したっス」
敵陣を斜めに削り取る機動は概ね成功している。
僕らは最前線で激戦となりつつも戦況としては押している。
そして突出気味に敵主力を食い散らかして、押し上げられるように前がかりになっていた。
「ウェズレイ殿、頃合でしょう!」
「んー?味方は三分の二くらい抜けたか?」
「はい、戦闘は既に王都に向けて動いています」
「敵に食いつかれてる様子は?」
「斜めの機動が幸いし、敵の突撃をうまく逸らせています。味方陣を抜いていく様子はありません」
「よしよし、お前さんの狙い通りだな」
黒鉄の葬列の二割、四十騎程は削れたのではないか。
しかし、こちらの被害は数でいけばそれを上回る。
死者はこの局地戦だけで五十は下らない。
ただ敵最高戦力をこちらのそれで迎撃する以外に被害を抑える方法はなかった。
そして僕らはいきなり籠城戦をやるわけにはいかなかったのだ。
敵主力を食い止めるという実績なしには、王都での戦いに不安が残ってしまう。
もう一つは敵に打撃を与えてやりながら逃げを演出するという、ここまでの筋書きを踏襲している。
僕らとしては一矢報いながらも、イダヴェルに追い立てられて王都に逃げ込むことで、敵がこちらの思惑通り追撃し王都に攻め込んでくれなくては困るのだ。
「あんな危ないこと」は城壁に囲まれた箱庭の中でしかできない。
「それじゃあ逃げますか!」
「おう」
引き揚げにかかろうとした瞬間、寒気がした。
なにかが陽光を反射して閃いたと思ったら、ズドンという凄まじい音を立てて地面に剛槍が突き刺さった。
間一髪だった。
気がついて身をかわさなければ串刺しどころかちぎれ飛んでいたかもしれない。
「さすがにかわしおるか」
メニヒだった。
最初にメニヒが戦場に現れたという報告があった後は、目立った報告はなかった。
おそらくは
「探したぞ」
そういうことだ。
「わたしとしては再戦を約束したわけではありませんので」
「つれないことを言いおる。無理にでも付きおうて貰うがな」
うう、やだなあ。
完全にロックオンされてる。
背中向けられない。
しかし前回の苦い経験もある。やることは一個だけ。
即ち「いかにして逃げるか」だ。
「ゆくぞ」
メニヒは騎乗している青鹿毛の巨大な軍馬もろとも突っ込んできた。
恐ろしく疾い。
これだけの巨馬で馬鎧を着込んでいるというのに、戦場の空気や血の臭いにも全く怯まず、真っ直ぐ突き進んできた。
ちなみにうちの馬も結構頑張っていると思う。
メニヒの得物は少し反りのある巨大な剣だ。
どう見ても両手剣なんだが、メニヒは片手で振り回している。
またあの衝撃受けなければならないかと思うとユウウツになるよ。
受ける?いやそうそう受けきれないぞ?
前回は加速と筋肥大使ってもまったく意味無しだった。
なんかうまいこと行かないかなー。
などと考えている間に、間合いに入った。
ドギイィィィン!
今回は学習したためにようやく力を捌くように逃がすことができた。が、
いてえよ!こんなもん逃がしきれるワケないって。
僕の腕は金属バットで丸太でも思い切り殴ったような衝撃で痺れていた。
腕どころじゃなくて全身に響くなこりゃ。
でも前回より怖くない。
今回はみんないる。
もし僕が倒れてしまってもみんながなんとかしてくれる。
「エルフ!やはりぬしは面白いわ!もう我と互角に打ち合うか!」
メニヒは次々に斬撃を放ってくる。僕はそれを捌くので精一杯だ。
これって打ち合いって言うのか?防御一辺倒で喋る余裕すらない。
おまけに魔術挟む余裕もない。
どうやら周りは予め命令されていたらしく、少し距離を空けて戦闘を続行している。
この状態で背後から斬りつけられたら確実に死ぬ。
「メルレン!やっぱり俺も混ぜろー!」
え?
聞こえてきた声はウェズレイだった。
あいつ戻ってきたのか。
ギャリィィィン!
僕とメニヒの間に無理やり皆殺しが捩じ込まれる。
「えーと、我こそはバルディス宮廷騎士団副団長ザックラー・ウェズレイなりー、でいいのか?」
「知りませんよ!」
「二人がかりでも一向に構わぬ。存分に来るがよい」
闖入者に対し黒鉄の葬列は一瞬緊張を見せたが、メニヒの言葉を聞いて自身の戦闘に戻っていった。
よく調教されてるなあ。
「おー、さすがメニヒ大将軍。太っ腹だねえ。じゃあ遠慮なくいかせて貰いますか!」
ウェズレイは果敢に打ち込んでいくが、僅か二合でもう押し込まれている。
「わわ!こりゃ確かにつええや!おい、メルレン何してんだ手伝え!死んじゃうだろ!」
あんたまったく何してんだ…
「丁寧に捌かないと腕がもちませんよ!防御徹底してください!」
「言われなくたって防御しかできねえよ!」
一方のメニヒは二人を向こうに回してまだ余裕を見せる。
「ウェズレイ、名前は聞いている。名を挙げたくば我が首級狙ってみよ!」
「いや!無理だ!」
諦めるのはええ…
左右から挟んで攻撃を仕掛けてもこちらの得物を引っ掛けて回されてしまう。
会心の突きを放っても籠手で跳ね上げられたりする。
隙がない。
攻撃は速く重く変幻自在だ。
攻略の糸口どころか、二人まとめて切り倒されそうだ。
「やべー帰りたくなってきたぜ」
「わたしは最初から帰ろうとしてましたけどね!」
「もう少し遊んでゆけい」
冗談も通じる大将軍閣下、素敵です。
しかしこのままではジリ貧だ。ウェズレイはスタミナ的にはメニヒと互角だが、メルレンの身体ではそれほどのスタミナはない。
まして暴風のようなメニヒの攻撃を凌ぐことで急速に削られている。
その時だった。
「先人より我らバルディスの治める地に断りもなく踏み入り、暴力をもって蹂躙せしめんとするとは不届き千万。栄光あるバルディス宮廷騎士団団長を代行する、このバルテルミ・ピアーズがその罪を思い知らせよう!」
時代がかった名乗りが聞こえたと思うと、白馬にまたがった長髪の美丈夫が斬りこんできた。
「バルテルミ殿!本陣は!?」
「本陣の部隊はメルレン殿達の奮戦により既に戦闘離脱しつつあります。現在右翼中陣から後陣が戦闘中です」
「了解!」
「ぬしがバルテルミか。騎士が尋常の立ち合いをせんでも構わぬのか?」
メニヒが挑発的に笑う。
「生憎ですが私の騎士道は主君への忠誠にのみ拠って立ちます。主君のためとあれば暗殺だろうが卑怯討ちだろうが躊躇はありません」
「犬か」
「いいえ忠犬と言っていただきましょうか」
バルテルミは冷静だ。
「犬がいくら群れても獅子は狩れぬぞ」
ん?メニヒが妙に喋るなあ。余裕ないのかな?
どうせ卑怯ならここはいっちょ。…食らえ!
バルテルミに気を取られてる様子のメニヒの脇腹めがけて渾身の突きを繰り出す。
「ちいっ!」
しかし後にも目があるらしいメニヒは肘で剣の腹を叩いて軌道を逸らす。
「エルフ、ぬしも騎士とは思えん手を使ってくるな」
「騎士の行いについて教則本でもあったらくれませんかね。なにせ人間界の世情に疎くてね」
どうやら現在のバルディスの最高戦力三人とでようやく釣り合いが取れそうだ。
そして三対一の打ち合いが始まった。
三方を囲んでメニヒをここで討とうとする僕ら。
囲みを打ち破り、三騎を破らんとするメニヒ。
応酬される攻撃は全て必殺の一撃だった。
ウェズレイは斧槍の回転半径を活かし、旋風のような重量感のある攻撃を繰り出す。
バルテルミは僕との仕合とは比べ物にならないほどの鋭い突きを連続で放つ。
二つのベクトルはあまりにも異なるため、メニヒはやや戸惑っているようにも見える。
仕掛け時か。
「雷撃!」
雷撃の術を放たずに、刀身に乗せる。刃は紫電を纏ってうっすらと輝く。
「ふっ!」
呼気と共に打ち込んで行く。
しかしそのことごとくをメニヒは防御する。
ここまでいくと驚異的だな。
あの巨大な剣をこれほど高速で、器用に扱えるというのは現に目にしていても信じ難い。
いや、それはいいとして、こうやって三人で強敵を囲んで攻めてると呂布対劉備、関羽、張飛みたいだな。
あれって虎牢関だっけか。
どう考えてもウェズレイが張飛だな。劉備はどっちだ?バルテルミか?
どうでもいいか。
僕の攻撃を受け続けたせいで、メニヒの剣も紫電を帯び始めた。
ウェズレイが文句を言う。
「おおおおい!メルレン!攻撃受けるとビリビリ来てかなわんぞ!」
「そこは気合で堪えてください」
「根性論かよ!」
一方のバルテルミは哄笑する神の断罪の付与効果に魔力遮断かなんかがついているらしくノーダメージだった。
ウェズレイの付与は魔術防壁破壊だもんなあ。
「雷撃!」
僕はさらに霧断丸に魔力を乗せる。
「おおおいってばよ!」
ウェズレイを無視して、僕はメニヒに向けて大きく振りかぶる。
それはそれは大きく振りかぶったので、どう見ても隙だらけだ。
ちょっとわざとらしかったかな?と反省したのだが、高速の攻防中でもあったのでメニヒは思わずそれに反応してしまった。
「!」
最短距離を最速で、無駄の一切ない突きが僕に襲い掛かる。
三対一でも防御一辺倒にならないあたりは呂布より強いかもしれない。
僕は「予定どおり」に刀の裏に左手を添え、メニヒの突きを防御すべく霧断丸を構えた。
「なんだと!!」
メニヒの剣は僕の刀に触れることが無く、その軌道を逸らされた。
結果メニヒの体勢は大きく崩れて空中に泳ぐ形になった。
僕はメニヒの剣を帯電させ、自分の刀もまた同極に帯電させることによって反発力を生み出したのだ。
反発力は二つのものが近づくほどに増大し、結果自分の膂力によってメニヒは体勢を崩すことになった。
咄嗟に考えたにしてはうまくいったね。
初めて優位に立った。
返す刀を握りこむ僕に対して、無防備に近いメニヒ。
すかさずウェズレイの攻撃がメニヒに打ち込まれる。
「むうっ!」
ほとんど馬から投げ出されそうになりながらもメニヒは驚異の力でウェズレイの一撃を防ぐ。
しかし不安定な姿勢で踏ん張りが利かないらしく、ついに剣を打ち落とされてしまった。
これは完全な勝機か!?作中で消息不明となるメニヒはここで命を落としていたのか!?
僕は大きく踏み込んで、メニヒの首筋に向けて刀を振り下ろした。
「え!?」
メニヒはかわした。
一体どうやって?
メニヒは不安定な体勢から更に空中へ身を乗り出して、僕の馬のたてがみを掴むと自分の体を引き起こしたのだ。
「それい!」
そして反対の拳で僕の馬の鼻面を思い切り殴りつけた。
その反動で完全に起き上がると、馬上で体勢を整えた。
「ここで勝負を預けるのは残念であるが些か分が悪いようだ。我も命を無駄に投げ捨てる積もりはない。退かせて貰う」
僕はそう言うメニヒに追撃をかけることはできなかった。
この一年近くを共に過ごしてきた愛馬はメニヒの拳によって絶命していた。
「我が剣は次にまみえる時に返してもらうとしよう」
バルテルミはメニヒに斬りかかろうとしたが、退路を確保すべく黒鉄の葬列が数騎阻んできた。
「団長!退くぜ!」
僕はウェズレイに引っ張り上げられて後に乗せられた。
バルテルミは後方を確認する。
「我が軍はほとんど抜けきりましたね。被害は思ったより大きくなったようですが、敵も狙い通り追撃にかかるようです。退きましょう」
馬、ちゃんと名前つけてやればよかった。
僕は無言でウェズレイの後で揺られながら、沈んだ気分になっていた。
結局メニヒと戦うといつもうまくいかない。
更新空いてしまいました!申し訳ありません。
次回こそ挽回…いや言うまい^^:
いつも読んでくださってありがとうございます~




