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異界のストーリーテラー  作者: バルバダイン
第一部 「イダヴェル戦乱編」
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第四十三話 「麗し野の会戦」


 輝き川の騒ぎから三日後、僕らはヌクレヴァータに一旦帰ったもののすぐに軍の編成に取り掛かり、メルレン隊はめでたく解散となった。


 しかし、クーリア・ダンスタン千人隊、バクスター・ポロニアム千人隊を取り込んで二千の兵を預けられて率いることになった。


 ジレコ伯爵は自前の騎士団を率いるかと思いきや、この戦争が終わったら家督を譲ると言って長男に指揮権を預けると、僕の指揮下に残った。


大戦(おおいくさ)を経験すればきっと息子のためにもなるだろう。まして自分で指揮をとれば何をいわんや、だ」


 息子思いはいいんだけど、指揮がヘマで壊滅したらどうすんだ。


 ちなみにサラ、ランベール、アル君の三人はもともとの所属からバクスター隊に異動になり、間接的に僕の指揮下に入った。


「はっは、新生メルレン隊というわけでありますな」


 高笑いするバクスター。


「宮廷騎士は臨時指揮官ですからね、そこのところ間違わないように。あと聞きましたよ、ランベールから。男爵家の三男って嘘じゃないですか」


「む、家は取り潰されましたがポロニアムの魂は失ってはおりませぬぞ」


 自称貴族じゃないか。


「まあ、わたしは貴族位なんてどうでもいいんです。そんな身分とかで対応変えたりしません。ってもしや断絶貴族の人間だって言ったらわたしが蔑むとでも思ってたんですか?」


「いや!別に…そういうことではなく」


 ははは、飄々としているバクスターが慌てるのは面白いな。


「手柄でも立ててお家再興できるといいですね」


「我輩の宿願であります」


「ただ功を焦って突出したり無理して死ぬとかはナシですよ」


「肝に銘じておきまする」




 夜。


 ひときわ大きな天幕に本陣が置かれ、そこで諸侯顔をそろえての軍議となる。


 王都に集結した諸侯や王都軍との間ではもう何度も重ねられたものだが、僕が混ざるのは久々になる。


「まずはサイカーティス卿、長くの遠征の任務、敵漸減作戦の成功、見事でした。陛下もお喜びになるでしょう」


 座長を務めるのは王不在の今、宮廷騎士団団長代行バルテルミだ。


「いえ十全の結果と呼べるか怪しいものです」


「実際、敵魔法兵団を退けた功績は大であると思いますよ」


 まあそうだなあ。


「王都決戦を控えてのこの会戦は通常とは違うものになるということを、もう一度サイカーティス卿より説明してください」


「わかりました」


 アル君が壁に資料を貼る。


 そこに描かれているのは、いわゆる密集陣形の横陣だ。


 現実世界で言うならばローマ時代の戦争で用いられたものになる。


 これが、この時代のスタンダードだ。


 よーいどんで力比べという古い戦術が今でも常識になっている。


 これ以前は名乗りを挙げ、一騎打ちをして勝った方が陣地の配置を決めた後、矢合わせをしてから一斉突撃という様式美のみの戦闘だった。


 これを破ったのはイダヴェル皇帝バシュトナークであり、帝国剣術団アークロイガーだった。


 防楯を構えた歩兵が一斉に進軍して敵を撃滅するものである。


 もともとはイダヴェルの属国に身を落としているミクラガルドで研究されていたものだが、これに目をつけたバシュトナークに戦力ごと奪われ、弓兵、騎兵、魔法兵と連携した戦術へと昇華された。


 戦況に応じて細かい運用が必要になるのは当たり前だが、根本は単純だ。


 歩兵が敵を止め、騎兵が敵の機動を制限し、弓兵が削って、魔法兵が仕留める。


 長く大戦の無かった世界が未熟なままの戦術を固定化してしまった。


 僕はもう少しそれを進化させてしまうことになるだろう。


「こちらが大まかにですが、イダヴェルの布陣です。右翼には先鋒に重装騎士団、二列には精鋭の歩兵団、そして弓兵団、最後列にメニヒの本隊となります。ここから左翼に向かうに従い、徐々に兵力が少なくなっていきます」


 アル君が次にそれに向かいあうように、もう一枚貼る。


「これは事前に説明してありますが、我が軍の布陣です。一見似た陣形ですが、これは方陣という陣形の一種になります。各隊をそれぞれ戦闘単位として分けて、相互に援護また別々に機動することで流動的に戦術を行います」


 約一万ごとに方陣を組み、中央後列の本陣を守るように八陣が配された衝方陣の形だ。


「ですが、この形はあくまでも見せかけであって戦術はまったく違います。狙いは敵右翼、主力級部隊をできるだけ削ることにあります」




 軍議は進み、やがて一段落した。


 そこで以前の剣幕も鳴りを潜めたウイラード辺境伯が意見を言う。


「この戦術がはまれば敵に大きな打撃を与えることが可能ではないのか?ここで機を得ればそのまま敵本陣を落とし、メニヒ・ウォーレンナックの首級を挙げ完勝もできると思うのだが」


 もっともな疑問だろう。


 しかし、この戦いで勝つことはできない。


「御尤もです。ですが、『予言の書』の存在を忘れてはなりません。彼の書は単に未来のことを予見して書かれたものではありません」


「どういうことだ?」


「つまりあれは言わば『神の視点』から記された、世のありようを予め決めたものなのです。つまりそこに書かれた出来事を変えることはできないのです」


 もう出版しちゃってるしね。


「変えれば…どうなる?」


「恐らくはその書を記した存在、いやあえてここでは『神』と呼びましょう。その神による強制的な介入が起こるのではないかと想像しています。例えば敵将を討たんとしたその時に我らの頭上に雷が降り注ぎ壊滅してしまうとか、我が軍のみに死病が蔓延るといったことがあるかもしれません」


「まさか…!」


「予言の書と史実を対比した場合、そうしたことがあったと思われる出来事がいくつか見受けられると大賢者殿はおっしゃっておりました」


 困った時はジジイの名前出しとけばいい。大体なんとかなる。


 沈黙が場を支配した。


「ですので『バルディスは大きな被害を受ける』ということに関しては逃れようのない事実と思うしかありません。わたしはその被害から人的損耗を極力除くように尽力してきました。わたしとしても伝統ある麗しの都ヌクレヴァータに破壊が及ぶのは本意ではありませんが、陛下も『民の生命には変えられぬ』と仰せでした。お集まりの諸侯も是非こらえてください」


「…あいわかった。被害を王都のみで引き受けてくれるという心遣いには私をはじめ各候もある意味感謝している。それだけに陛下の心中を慮ると何とも断腸の思いだ」


「陛下への忠誠は戦後の復興で示されればよろしいかと存じます」






 明けて翌朝、川を渡ったイダヴェル軍は布陣を完了し麗し野にて両軍は相対した。


 バルディス軍十万。


 正規軍、王都騎士団二万、王都および近隣守備隊二万、宮廷騎士団三十五。


 諸侯軍、エンフィールド公爵領騎士団一万、ピアーズ侯爵領騎士団一万、ウイラード辺境伯領騎士団一万、ジレコ伯爵領騎士団三千、ヴィクセン伯爵領騎士団三千など、総勢六万。


 騎士中心の戦力は精強で機動力に富むが、一方で寄せ集めに近く各部隊の連携には疑問点がある。ただし士気は旺盛だ。


 イダヴェル軍約十四万。


 歩兵八万、騎兵二万、弓兵四万という編成になっている。攻撃に厚みを持たせていた魔法兵団が抜けたのは大きい。


 おまけにここまでには相当距離の行軍をしており、蓄積した疲労や敵地というストレス、僕らによる攻撃などで士気はあまり高くない。


 ただし圧倒的武力を誇るカリスマ、メニヒ・ウォーレンナックの存在があり、練度も高く連携も充分だ。


 正面から当たっては双方に被害が大きい。


 そしてこちらはここでもまだ漸減作戦を取る。


 敵の主攻を中心に戦力をそぎ取り、決戦を王都市街戦とするのだ。


 広大な城壁内ではあるが敵味方入り乱れて二十万以上が乱戦となる。




「いよいよ戦闘開始です。陣形、作戦は昨夜参軍殿の申した通りとなりますが不測の事態に備え常に注意を払うように」


「あ、もう一つ徹底して欲しいことがあります!」


 僕はバルテルミの訓示に割り込んだ。


「メニヒ・ウォーレンナックが自ら突出して戦局を打開しようと企図してくる可能性が充分に考えられます。その時は包囲殲滅等考えずに、全速で撤退してください。死にますよ」


 いくらなんでもという僕の物言いに眉根を寄せる者も多かったが、


「メニヒはそんなにやばいか?」


 ウェズレイが絡んできた。


「失礼ながらウェズレイ殿が四人いても五分かと思われます」


「なんだとう!?俺が四人もいたら一軍相手にできるじゃねえか!そりゃあダメだな、俺も逃げるわ」


 実力では随一とも言われるウェズレイの助け舟で、諸侯は渋々引き下がった。


「では位置についてください」


 一時間後、にらみあいとなっていた両軍はバルディスの先手で動きだした。


「前進!」




 前進の号令で動き始めたのはバルディス左翼の隊、つまり僕らを含む部隊だった。


 つれて左翼中列、後列も前進する。


 左翼前列には僕ら、つまりメルレン・サイカーティスとメルレン隊、ダナード・エルゴ、バクスター・ポロニアム、クーリア・ダンスタン、テスカ・ロズハー、更にはザックラー・ウェズレイ、宮廷騎士からはエンディ・ヴァーサタイル世話役、メツガ・レイロン北部管轄官、王都騎士団長キッツバーグ・スタインフォード、王都守備隊長兼槍術指南役ビルザルド・モーガンといったそうそうたる顔ぶれとなっていた。


 そう本来ならば右翼をつとめるはずのバルディス主力が左翼なのだ。


 敵味方の主力同士がいきなり角突き合わせるという異例の配置である。





 敵先鋒の重装騎士団がやがて視界に入ってくる。


 馬にも鎧を着せた重甲冑の騎士に対しては弓矢攻撃も効果が薄い。


 断空(スラッシュ)でも怪しいか。


「イダヴェルとのケンカは久しぶりだなあ」


 ウェズレイは南部国境のジェルケルハイム砦に詰めていた時に、イダヴェルとの小規模な衝突の経験があるようだ。


「まだ俺も若かった頃で、血の気は多いが腕はからっきしでな」


 今は血の気多くないのか?当時はどんだけだよ。


「一騎打ちやっても決着つけられなくてよ、なんかムカついたから夜に敵陣まで行って飲み比べで勝負して勝ったりとかな」


 ほほう、飲み比べでこのメルレンに挑もうというのかね。いい度胸だな。


「まあ今も昔も変わらねえ、ケンカとなりゃあ先に鼻っ柱叩き折ってやった方の有利ってもんよ」


 うんうん、同意。


「付き合えメルレン、ブチかますぞ」


 にやあと思わず笑ってしまう。暴れるの結構好きになってきてるな。


「遅れないでくださいよ」


「抜かせ」


 僕とウェズレイがやや先行し、先鋒を牽引する形になる。


 対する重装騎兵は騎兵突撃(ランスチャージ)の構えを取り、横一列に突進してくる。


 彼我の距離約100m。


 僕は霧断丸(キリタチマル)を、ウェズレイは皆殺し(エクスターミネーター)を構える。


「雑兵に遅れを取るかっつうの」


「同じく」


 接触。


 繰り出される敵の騎兵槍は僕の馬を狙っている。


 僕の剣筋はその槍の先端に合わせて振られ、槍を真っ二つに綺麗に断ち割る。


 二歩詰めて間合いに入り、返す刀で先頭の騎兵の腹あたりから兜に向けて切り上げ絶命させる。


「相変わらずすげえ剣だな」


「この剣はスピードと『気』のパワーで斬るんですよ」


 適当な軽口を言いあいながら、敵先鋒を蹂躙していく。


 ウェズレイも暴風のように人馬を跳ね飛ばしている。


 除雪車が雪片付けてるようにも見えるな。


「確かに皆殺しにしそうですね」


 味方先鋒も戦闘に入った。こうなるとどうしても被害は出る。


 敵騎兵の突撃をもろに食らって吹き飛ばされる者、板金鎧を突き破られ串刺しになっていく者もいる。


 僕は自分の戦闘を機械的にこなしながら、一度怖気を振るった。


「全隊突貫!予定の機動を実行!」


 僕は号令をかける。


 僕らは優勢のうちに敵先鋒を抜き、第二列の重装歩兵団に向かう。


 これは意外と厄介だ。


 ファランクスとも呼ばれるこの戦術は僕らの世界では古くバビロニアで発祥し、マケドニア等でも用いられた。


 長い槍と大盾を構えた歩兵が密集することで高い防御力を発揮する。


 矢による攻撃は盾を上に構えることで防ぎ、槍衾と化した線の攻撃力で前進する。


 騎馬にとっては馬防柵に突っ込むようなもので相性は悪い。


 まあこれの対策が例のアレだ。


「戦車隊前へ!」


 ぱんつぁーふぉーと言いたいところだがガマンガマン。





 隊の後方からガラガラと音を立てて板バネ式サスペンションを搭載した簡易戦車がやってきた。


 その数三十輌。


 この短期間ではよく揃えられたほうだと思う。


 防楯つきの荷台の左右には大砲が二門。


 重いので動かしづらいなら馬車に積もう。命中率が悪いなら接近して水平発射に近くして撃とうという単純で乱暴な構想で作らせたものだ。


 前回夜間迎撃戦で使用した感想を担当の兵に聞いてみると


「撃った時に火薬のカスは飛び散るわ、熱風は噴き出すわで死ぬとこでしたよ!」


 ということだったので、砲身まわりにカバーをつけ上に煙突で逃がすように改良されている。


 この戦車、重量があるので機動性は良くない。騎兵に出くわせば馬をやられて動けなくなるのだが、密集した歩兵という動きの遅い範囲目標に対しては抜群の効果が期待できる。


「右側砲門準備ー!」


 ズラリと並べられた砲列に敵は慌てる。が、密集陣形で迅速に退避はできない。


「撃てえ!」


 耳をつんざくような轟音。


 着弾した場所では敵兵がぼろきれのように吹き飛んでいく。


 使われている砲弾はいわゆる運動エネルギー弾で、炸薬にのみ火薬が用いられており着弾後炸裂するような技術はない。


 しかし一抱えもある金属塊が黒色火薬の爆発エネルギーで発射されると恐ろしい威力となる。


 もう少し弾速が上がれば要塞攻略戦や拠点破壊兵器として見直されるのかもしれないが、現状でも生身の人間に対してはオーバーキルも甚だしいと思う。


 乱れる隊列に合わせ、アル君達弓兵部隊から弓矢が浴びせられる。


「戦車隊180度回頭!左側砲門発射後急速離脱せよ!」


 戦車はゆるゆると回頭し未発射の砲門を敵へ向ける。


 敵は恐慌状態に陥っている。


 もう普通に瓦解している。


 しかし、


「撃てえ!」


 僕は非情にも号令する。


「戦車隊は離脱後、砲身を冷却して次弾装填して待機!発射要員は予備兵と交代せよ!」





 敵歩兵の戦線崩壊につけ込むかたちでこちらの先鋒は更に浸透した。


 敵弓兵と戦闘に入るが、前衛を欠いた弓兵は防御が非常に脆い。


 そしていよいよ戦線に変化が出てきた。


 こちらの先鋒は敵右翼と激突したのだが、有利に運んだのにはもうひとつ訳があった。


 自軍左翼は敵右翼の最も右側に向けてシフトするように当たった。


 自然と敵右翼は余剰兵力が生じ、こちらの左翼の右側に向かって半包囲するように対峙した。


 ここで遅れて進軍してきたバルディス中央の隊が敵右翼に当たる。


 さらに遅れてバルディス右翼が敵中央をいなしながらイダヴェル右翼めがけて進んでくる。


 要はバルディス軍は斜めに進みながら、時間差で敵右翼に当たっているのだ。


 僕らは押し出される格好で敵の右翼の更に外側から横撃していた。


 敵右翼からすると次々に押し寄せる敵に翻弄されていて、敵左翼から見れば迎撃準備をしていたのに一合も交えずするすると敵が逃げていく感じだろう。


 斜め陣とかとは少し違うのかな?


 思いつかなかったので僕は八卦掌の戦い方である『避正斜撃』と名づけた。


 いや、名前はどうでもいいんだけどね。


 これは中国拳法のひとつである八卦掌では敵の攻撃を正対して受けずにかわし、自分は斜めから攻撃するというものだ。


 力学的にエネルギーを斜めに逸らすという点からも理にかなっている。




 しかしさすがにアークロイガー第一軍。


 状況の混乱がやや収まると、戦線を再構築して防御して持ちこたえるようになってきた。


 指揮がピンと入った感じがする。


 これは、いよいよかな。


「メニヒだあ!」


 声が聞こえた。


 僕はぶるっと身震いする。


 恐怖もある。しかし武者震いだと言いたい。


 ここからは撤退戦だ。


 僕たちが支えないとひっくり返される。

いつもありがとうございます~。


ちょっと挽回しました。

しかしGWですよ!

釣りに行って、温泉に行って、BBQしておまけにタケノコも掘りますよ!

いやでも更新しますよ。


とりあえず今日はお昼に大勝軒みしまに行くんだ…


また読んでくださいね^^

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