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異界のストーリーテラー  作者: バルバダイン
第一部 「イダヴェル戦乱編」
43/65

第四十一話 「川辺にて」

 バルテルミ・ピアーズ視点




「なんとか間に合いましたね」


 新調された城門を見上げる。


 見るからに立派な真新しい門だが、異様な点が二つある。


 ひとつはすぐに気づくだろう。


 門全体におどろおどろしい魔法陣が描かれていることだ。


 もう一つは門にはつきものの閂が二つある。。

 

 通常と違って、閂が内側だけではなく外側にも取り付けられているのだ。


 パッと見には気づかないが、この門には普通と違う点がもう一つ。


 門の素材となっている木が通常は堅牢な樫の木なのに対して、この門ではハシバミが使われている。


 この木材が苦労の元。


 実はこうしてすべて取り替えられた門のうち、主要な四方の門はそれぞれ材質指定がついてきた。


 北門はエンジュ、東門はサンザシ、西門はトネリコ、そしてこの南門がハシバミ。


 それぞれに魔法陣について詳細な図面がついており、素材調達から魔法陣の施工と工数がかさみ、ギリギリの納期で仕上がった。


 まさか細々と魔法の杖くらいにしか使われていない素材を一度にこれほど大量に仕入れる手筈などあるわけがなく、木こりに割り増し料金を支払い心当たりの森の木を大急ぎで伐採させた。


 魔法陣にしても一箇所間違えば大変で機能しないならまだまし、下手をすれば暴走してしまうのだから、細工師、工芸家、はては美術教師まで一旦避難先から呼び寄せて夜も昼もない交代仕事だった。


 発注元はメルレン、というより大賢者殿になる。


 四方の門はそれぞれの位置関係と材質、描かれた魔法陣によってお互いが干渉、共鳴作用を起こすそうだ。


 メルレンも実行される術は把握しているが、仕組みについてはさっぱりわからないと言っていた。


「魔術自体はそう莫大な魔力を消費するものでもないのですが…」


 私も内容を聞いて正直怖気がした。




 メルレンの策では、王都はイダヴェル軍によって占領されなければならない。


 これは予言の書による確定事項なので曲げられないそうだ。


 しかし、それなら占領されるのではなく、一旦無理にでも占領させればよいという。


 それがこの仕掛けになっているらしい。


「しかし…麗しの都にそぐわないことこの上ありませんね」


 魔法陣は今にも赤く輝き、脈動を始めそうに見える。


 洗練された町並みとの対比で余計に不気味さが引き立つ。


 無論これらはメルレンとリュタン殿が戻り、魔力を通さねば発動しないのだが。


「まったくだ!そのエルフの新人騎士というのは何を考えているのだ!」


「兄上、いえ陛下、そのような乱暴な口をきかれては困ります」


 陛下の影武者へと変装させられた我が兄、ロイド・シュプーリアン・ピアーズはいたくご立腹のようだ。


「何度も申し上げている通り名誉な務めですよ」


「しかし!何もわたしでなくてもよいではないか!ここまで化粧やらカツラやらで変装するのであればお前でも構わないだろう」


「わたしは宮廷騎士団の任がありますので」


「わたしとて父上の補佐という仕事があるわ!どうもグレティル、いや陛下もお前も面白がっているフシがある」


「まさかそのようなことは」


 いや、実際は堅物の兄が狼狽する様子を、陛下もわたしも楽しんでいる。


 ただ影武者の必要性は感じていたし、ピアーズの世継ぎたる兄ならば威厳も充分だ。


 陛下とは知己の仲であるし、演技にも不自然さは少ない。


 そして万が一のことがあっても、わたしという『スペア』がいる。


 何より王国と陛下の盾となるためには臣下として名誉なことだ。


 それは兄もわかっているので、不満は口にしても放り出すことはない。


 こうして視察に出かけた馬車の中から、兵に敬礼されれば微笑んで手を挙げて労うくらいのことはこなしてくれる。


「イダヴェル軍が王城へ雪崩れ込んできたら、存分に剣の腕を振るってください」


「当たり前だ、真っ先に突貫してやる」


「それは勘弁してください」






 メルレン・サイカーティス視点



「川上の堰は切ってしまいましょう」


 実は王都の前にはバルディス・イダヴェル国境の川と同じくらいの大河がある。


 これは『輝き川」と呼ばれる川で、源流はロガランド国境に近い山間になるが、そこから支流を集めてヌクレヴァータの名の元にもなった平原『麗し野』を横切って東の海へと注ぐ。


 水源としてヌクレヴァータや流域の各町を潤し、漁業資源や材木の運搬ルートとしても役立った。


 実は王都への連絡をした時に、この川に堰を作った。


 当然水計のためだ。


「どうしてだ?」


 ジレコ伯が聞く。


「リスクと効果が釣り合いませんし、多分不発に終わります」


「ふむ、根拠は?」


 僕は水計の効果範囲が帯状であることをあげた。敵は一斉に川を渡るわけではないので、流される兵力は少数となる。


 また敵にやや変化が見られる。

 

 策自体を操ってくるところまではいかないがこちらの策に対応した、また対応しようという行動が感じ取れる。


 これはこちらを警戒し、きちんと思考を巡らせることができる人物の存在を意味する。


「水計とよばれる、水を使った罠の弱点は2つ。水をせき止めた場所があることを察知され制圧されると不発に終わること。そしてもっと重要なのは、不発にさせたままでは敵に目の前にあるのは水位の下がった渡りやすい川だけが存在してしまうことです」


「なるほどな。で、察知される危険を冒すならば先に水量を元に戻した方が良いというわけだな」


「その通りです」




 分担作業になった。


 川にかかる橋は近いもので二本ある。しかも主要街道の橋なので頑丈な造りになっている。


 渡った後解体するには時間がない。よって燃やすことにした。


 幸い煮炊きにも使っていた油と柴の束はまだ若干残っている。


 これを橋に並べて火をかける。


 ある程度の人数を割かなければならない。


 そして上流の堰を破壊しに行く者の選出。


「サラとランベール、そしてリュタンに来てもらいましょう」


「それだけっスか?」


 驚くダナードに小声で囁く。


「サラとリュタンは絶対こういった作業には向きません。あとはサラを連れて行くとなればランベールはセットみたいなものですし」


「いや、自分が考えたのは敵が上流に向かってる可能性っス」


 水位の低下した川を維持し、水計を発動させないためには堰を制圧すればいい。ダナードの懸念は最もだ。


「さすがにその可能性は今は低いでしょう。川を見て水位が低いことに疑念を抱き、上流の調査をして対応すると思われます。それに制圧するためにある程度の兵力で動くのならば、その準備にも時間がかかるはずです」


「わかったっス。お気をつけて」


「こっちの準備にはある程度時間がかかるでしょうから、日が暮れてから堰のロープを切ります」


「了解っス」




 というわけで、サラ、ランベール、リュタンを引き連れて上流へ向かう。


 可能性は低いが接敵の可能性があるので、注意するよう言っておく。

 

 アル君を置いてきたが、地味な作業でも確実にこなすので人員にと思ったわけだ。


 決して僕が地味な作業から逃げ出してきたワケではない。


「リュタンさん、もし敵と遭遇したら魔術を使用する可能性がありますので、その時はわたしがサポートします。合成術の要領でやりますから任せてください」


「大丈夫ですかあ?」


「まあ伊達に五百年以上も生きてるわけじゃないですよ」


 外見も中身も実は若いんですが。


「サラ、ランベール、敵を発見または遭遇した場合は、その規模によって作戦を変えます。ただし基本的には我々は少数ですので敵の方が多い可能性が高いです。わたしとリュタンが魔術を実行する間の前衛として働いてもらうことになりますので、そのおつもりで」


「どうやら漸くあなたに教わった剣術を存分に振るう機会が来たようですわね」


 サラ…、前衛と言っても盾役だから防御的に戦ってくれよ。


「サラ様、今回の主攻はリュタン殿になります。我々は防御に徹し、敵を食い止めて時間を稼ぐことを心がけましょう」


 その通り。ランベールは普通で助かるわ。


「ですが敵が多いと判断したら逃げます。やや多かったら隠れます。なるべく直接戦闘はしないようにしましょう」


 ただ川の周辺は街道も並走しており開けているため身を隠す場所はない。


 敵の気配を察知した場合は素早い判断が要りそうだ。






 アリエン・ワーデルガー視点


「ちょっと心配なことがあります」


「申してみよ」


 大将軍のもとに先発していた潜入偵察をしていた人が戻ってきて、王都の様子がいくらかわかってきた。




 まず僕達の侵攻は相当早い段階で察知されていたこと。


 南部の方まで避難が完了したり、罠が仕掛けられたりしていたのはこのためらしい。


 ただし普通にはあり得ないほど早く侵攻が知られた理由はわからない。


 でも噂では、あのエルフの騎士が関係しているということだ。


 メルレン・サイカーティスというらしい。


 聞いたことがない。



 

 次に王都にはバルディス国内のほぼ全戦力が集まっているらしい。


 これを聞いたときは「じゃあ王都を攻めないで他を攻めればいいかも」と思ったけど、すぐ思い直した。


 だって、他を攻めてもバルディスの戦力は無傷なままなのだから、いつ背後から襲われるかわからない。


 そうでなくても攻め落とした町や城に防衛の戦力を残さなくてはならない。


 戦に勝てば勝つほどイダヴェルの戦力は小さくなっていく。バルディスは変わらないままなのに。


 結局王都を攻めるしかないのだ。


 でも、全戦力同士がぶつかったら凄い被害が出てしまう。


 それじゃあ結局、バルディスの後にマガニアを攻めるなんてできっこない。


 もしかして僕らは既に戦略的に負けてるんじゃないか?


 でもそれは大将軍が考えること。僕が考えなきゃならないのは用意された場所でなるべく良い結果になるようにすることだ。




 他にも王が市街にまで来て兵を激励する様子が見られたこと、城門の交換作業をしているが普通の城門ではないらしいことなどが報告された。


 王がいることがわかったのはよかった。


 詳しい居場所がわかれば、そこを集中して攻めて王を捕らえてしまえば降伏させることが出来る。


 味方の被害を抑えて勝つには、もうそれしかないんじゃないかな。




 でも当面で気になったことはそれじゃない。


 川だ。


 国境の川を渡っている時に思ったんだ。


 もしこの川を渡ってる時に洪水が起きたら怖いなあって。


 もし洪水をわざと起こすことができたらどうしよう。


 洪水を起こす方法なんてあるのかな?


 多分できる。


 木や石なんかをたくさん運んできて川をせき止めてしまえばいい。


 それを杭とロープを使って崩れないようにしておけば、段々たまってくる水で重さがかかってくる。


 あとはロープを切ってやれば一気に流れた水は下流を押し流してしまう。


 でも待てよ?僕らは縦列で進んでいるから、一度にたくさんの兵が川を渡っている時じゃないと洪水なんか起こしてもあまり効果がないんじゃないかな。


 そんなことはしないか。


 あ!ウォーレンナック大将軍!


 あのエルフの騎士-メルレンは大将軍に負けているんだ。


 既にアトラーヴェイが撤退してしまった今、大将軍を失うようなことになったら僕らは完全に負けだ。


 正面からの戦いで勝てないならば、違う方法で大将軍を倒すことを狙うかもしれない。


 メルレンはやるだろうか。


 わからない。


 でもやる可能性は充分にある。


 ならば!




「少数で小回りの利く機動性のある部隊を前方の川の上流へ向かわせることを進言いたします!」


 大将軍は僕の意見を真剣に聞いて取り上げてくれた。


「危険性があるということだな」


「はい!王都を目の前にして我々が川を急ぎ渡ろうとすることを見込んでいるかもしれません。偵察のうえせき止められている場合は応援を要請して一帯を制圧するべきだと思われます」


「渡河予定地点の水位を確認して異常の有無を見てからではいかんのか?」


「通常時の水位との差がはっきりわからないと判断しかねます」


「アリエンの進言を容れよう!第二騎兵隊長を呼び出せい!」


 第二騎兵隊!?兄上の隊だ!






 メルレン・サイカーティス視点



 敵を先に発見できたのは単なる幸運としか言いようがない。


「全員馬を降りて、脇へ!」


 堰を視認できる距離まで来た時に、そこには二百騎ほどの騎馬が警戒に当たっているのが見えた。


 おそらくこちらの守備兵は既に倒されてしまったと思われる。


「もう制圧済みですか。早いな」


 僕の心積もりとしては、もし敵がやってきても守備兵と連携して堰の開放まで防備するつもりだったのだが。


 四対二百か。イダヴェル軍が簡単に川を渡ることにこだわらず、さっさと王都に逃げ込んで次の策に取り掛かった方がいいかもしれないな。


「皆ゆっくりと後退してください。たとえ遠距離でも動くものは目立ちます」


 見つかりませんように…


 祈るような気持ちで後退を開始しはじめた。


 が、


「見つかったようですね」


 さすがに向こうも警戒中だったため、数歩動いただけであっさり発見された。


 堰周辺の騎兵達が一本棒のようにこちらに殺到してくる。


「騎乗して全速退避!」


 僕らはあっという間に駆け出した。


 どうしよう。


 まさかこのまま二百騎を引き連れて自軍に戻るわけにも行かない。


 チラと後を振り返ってみると二百騎すべてが追撃しているわけでもないようだ。


 五十騎程度か。さすがにこちらが陽動の可能性があるため、大半はそのまま防備を固めているらしい。


 こりゃまいったね。当たり前の対応なんだが。


 いちかばちか行ってみようか。


「全員馬足を少し落として敵との距離を詰めましょう」


「応戦するんですの?」


「ちょっと厳しいので逃げますが、このまま逃げても味方に迷惑かけそうなので一計を案じました」


 サラのジト目。


「それってズルい作戦と危ない作戦とどっちなんですの?」


 失礼な。


「危ない作戦ですね」


 僕が即答すると、サラはなぜか胸を張った。


「望むところですわ!いつもあなたときたら突っ込むだけ突っ込んで行くばかり。少しは見ている方の身にもなって欲しいものですわ。どうせならこうやって見ているだけよりは一緒に戦ったほうが幾らかマシというものですっ」


「ハハハ」


「で、どうするんですかあ?」


 リュタンが不安そうに聞いてくる。


「まああまり基本と変わりません。魔法でカタをつけます、というか逃げることに使うかもしれません」


 皆の頭上にクエスチョンマークが浮かんだ。


「まあ聞いてください」

いつも読んでくださってありがとうございます。


なんか今回キリが悪いとこですいません。


もうすぐ王都攻防戦になります。

第一章もいよいよ山場ですね。

と言ってもいつもどおりなんかドタバタしそうです。


よろしければお気に入り、評価、感想などください。

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