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異界のストーリーテラー  作者: バルバダイン
第一部 「イダヴェル戦乱編」
38/65

第三十六話 「魔術師狩りの罠」

 ヘタレた。


 ビビった。


 なんでもいい。


 結局は自分の腕ではどうにも通用しないメニヒに対して恐れただけだ。


 オマケにサラにビンタされて我に返るとは二重三重に恥ずかしい。


 というわけでちょっとぶりの軍議である。


「まずは指揮に不備があったこと、その後の対応でご心配、ご迷惑をおかけしたことを陳謝いたします」


 TVで見る不祥事の記者会見のような見事な『ザ・謝罪』を見せる僕。


 日本人の必須スキルである。


 この他には土下座もできるが、あまりというかほぼ経験がない。


 あれは浮気がバレた時か借金を待ってもらう時にするものらしいので、経験がないのも仕方ない。


「敵が見逃してくれたとはいえ被害は皆無、敵には相当な損害があったんだろ?いいんじゃないか?」


 テスカはまだ笑っている。


 ビンタされるの見て爆笑してたの忘れないぞう。


「隊長、タイマンは戦争じゃないって言ってたじゃないッスか」


 ダナード、自分で言ったことは半分がイキオイで、もう半分は忘れてるんだ。


 あれ?それじゃ実質言ってるだけじゃないか。


「そうですね、メニヒがどんな状況でも絶対負けないのなら軍など必要ありません。一人で攻め込んで全員殺してしまえば勝ちですから。でも実際には違います。メニヒは軍を率いていますし、わたしももた皆さんと一緒に戦っています。人並み外れた武人ではありますが、人間ですから怪我もするし死にます。人間じゃないという点ではわたしの方が人間じゃないですね」


 つまらない冗談だが、場には笑いが起こった。


「アニキ、もう大丈夫みたいだな」


「クーリアにも心配かけました」


「あのままメニヒと一騎打ちやって倒しちまったら、この戦争も終わっちまったしな。まだあんまりボーナス稼いでないからよ。もうちょい色がつくように頼むわ」


 うん、もう大丈夫だ。


 切り替えた。


 覚悟うんぬんについてはしっかりできたか、まだ不安な部分もあるけど…


 少なくともメニヒは『フクロにすりゃいい』と割り切った。


 その状況をいかにして作り出すかが腕の見せ所でしょ。




 ん?そういやメニヒってどうなったんだっけ。


 本編ではゼフィアとダルタイシュがカタラク諸部族連合の軍とイルベオス率いるヒヤルランディの合同軍で第二軍を撃破。


 続いてイダヴェル本国に突入して親衛隊と急遽帝都防衛に戻った第三軍を撃破する。


 この時はドロームンの軍と反旗を翻したコルベイン、ミクラガルドの反乱軍も吸収されて結構な大軍になっている。


 で、第一軍は連合軍の帝都攻めに間に合わなかった、っていうだけだったな。


 メニヒはどうなったんだ?


 僕、そこ触れてないぞ?


 まあ、うっかり……


 イダヴェルは事実上解体されて領土は半減、貴族もいなくなってたので連合軍の相談の上、信頼できる人物が王になる。


 メニヒは結局消息不明のままだ。


 どうなったんだろ。


 いや、実際どうなっていくんだろう。





 次の襲撃ポイントを決めることにした。


 リュタンの大規模魔術からのコンボという大技で大勢を決するにはまだ削り足りない。


 最終的な決戦兵力がバルディスと拮抗し、おまけに士気が低い状態ならば初期作戦目標であるバルディスを抜いてマガニアに侵攻するという目標を達することは難しくなる。


 そこで撤退か全面対決かを迫れば十中八九撤退に追い込める。


 この基本戦略に変更はない。


 数の優位は当然だが、兵も精強であるために士気を落とすのは容易ではない。


 拠り所は二つ。


 一つはメニヒだ。


 バシュトナークに並ぶ最強の将に率いられているという安心感と矜持がある。


 しかしこれは揺るがせられないというのが身をもって判った。


 だって倒せねえし、あんなバケモノ。




 問題はもう一つ。


 十王国でも数少ない魔法兵団だ。


 組織的魔法兵団は二つしかない。


 帝政マガニアの魔法兵団ミスカーチュとイダヴェル帝国魔術団アトラーヴェイだ。


 そして規模も強力さもアトラーヴェイに軍配が上がる。


 ミスカーチュは強力な魔術師が数人いるが、あとは日常魔術に毛の生えたレベルの者が多い。


 一方のアトラーヴェイは筆頭魔術師アシュケム・ヴィドマーを中心に魔法兵としてよく組織化されており、個々の能力が高い。


 この近隣最強ともいえる魔術師軍団がイダヴェルの火力の一翼を担い、また兵達の士気の根拠ともなっている。


 そして実際にヤバイ。


 通常兵力で拮抗させても魔術師が千人もいたら確実に戦局は敵に傾く。


 そう、できればここで千人のあらかたを潰さねばならない。


 しかも、傷を負えば戦力として期待できない通常の兵と違って、魔術の行使が不可能なレベルまで損傷を与えなければならない。


 確実なのはやはり命を奪うことか。


 千の魔術師を相手に立ち回るには、やはり奇襲しかない。


 先手を取って、詠唱が完了するまでに相手を戦闘不能に追い込む。


 肝は対魔術師用魔術、『竜咆(ドラゴンズ・ロア)』の使い所だろう。


 詠唱キャンセルさせることが可能ではあるが、敵がなるべく密集してくれないと遠くの相手は麻痺する時間も短い。


 希望的観測を極力排除して作戦を立てないと、メニヒ襲来の二の舞になる。




 うう、そんなに軍師タイプじゃないんだがなあ。


 思考が柔軟であるとか、軍略に明るいとか素敵な特長を持ってればよかったのだが、せいぜい資料に読んだものの中で印象が強いものを覚えているくらい。


 あとは敵が策略に疎いことにつけこんでいるだけ。


 いやいや、やると決めたからには泣き言言わずにやらないとね。



 

「メルレン殿、何やら根を詰めてるようだな」


「ああ、ジレコ伯爵。凡人の限界に愕然としているところですよ」


「ははは、謙遜も過ぎると嫌味になるぞ」


「冗談はさておき、実際にどうしたものかと悩んでいるのです」


「魔術師狩りか」


「わたしも魔術師のはしくれではあるのですがね」


「貴殿はどちらかというとペテン師だな」


 やかましいわ。


「第一軍の、というよりはイダヴェル軍の虎の子ですからね、魔術師だけを切り離して攻撃する機会を狙うというのはなかなかに難しそうです」


「ふむ、逆に考えてみるとどうであろう。例えば魔術師が出てこざるをえない状況に持ち込むとか」


「魔術師が出てくる状況ですか?う~ん、通常戦力で圧倒された場合とかですかね…有りえませんね」


 しかし待てよ?メニヒはアトラーヴェイをまじない師呼ばわりしてたなあ。


 指揮系統も違ってやりづらいのかもしれないな。


「ん?何か思いついたようだな」


「まあ取っ掛かりといいますか。油断はまあしててもしてなくても大した差はないので、ちょっと違ったアプローチをしようかと」


「ほう、どういう考えか聞かせてもらえるか?」


「ええ、メニヒにはわたしが魔術を使えるのがバレたので、ここまでのような剣士押しではなく、魔術師としてのわたしを餌にしてみましょうか」





 今日から僕はあやしい魔術師。


 古代魔法王国に伝わるあやしい魔術で栄光あるイダヴェル軍に仇なそうとしています。


 そんな体でいってみます。


 場所はイダヴェル軍が侵攻目標にしているであろうサレイマン伯爵城。


 現在みんなであやしい作業中です。


 作戦は今回は、いや今回も?非常に適当。


 ここであやしいことをしてると、魔術師が興味を持って近づく。


 で、僕らでそれを倒す。


 あはは…、うまくいくのか?


 まあ演技力とあやしさ次第ではいけるかも。もし無視されたらまた考えればいいし、攻め寄せられたら逃げればいい。


 問題のあやしさ、いかがわしさなのだけど考えた結果、呪法兵装っぽいものにしてみた。


 サレイマン伯爵城には初代サイレイマン伯爵だと思われる結構大きいブロンズ像がある。


 サレイマン伯爵には事後承諾を取るとして、これをいかがわしく改装させていただく。


 イメージ的にはサレイマン型呪法兵だ。


 この像の全身に適当な魔法陣をびっしり描いていく。


 乗っている騎馬には大砲もくくりつける。


 これにも魔法陣を描いてみる。



 

 そんなあやしい作業をしていれば、偵察から報告を受けた魔術師が魔法陣の解析ができるレベルの者を連れて接近するのではないかという思惑だ。


 そうすれば最低でもある程度の実力者とそのフォローをする一団、多分その護衛の兵も来るだろうが、それらを本隊から切り離せるのではないかなあ。


 さんざんおかしな仕掛けをしてきたのでいきなり突撃はしてこないと思う。


 


 現在はまだ土木作業中だ。


 サレイマン像のまわりに足場を組んで、大砲を吊り上げたりしている。


「メルレン様」


 現場監督をしていた僕のところへリュタンがやってきた。


「はい」


「お忙しいところすいません。お師匠様からです」


 出た、ノート型携帯か。普通に文字チャットだよな。


『面白そうな事をしておるの』


『どちらかというとくだらないと思いますがね』


『形だけならそうかもしれんが、どうせやるなら本物にしてみんか?』


 え?この騎馬ゴーレムを?ゴーレム作成技術なんかあったのか?


『できるのですか?』


『おぬしの想像しとるようなゴーレムじゃないぞ。原理はボケ弟子の操縦法とおんなじじゃ』


 なんだそれ?



 聞いた話を要約すると、騎馬はオマケだそうだ。


 せいぜい微妙に浮遊させてゆっくり飛ぶのが関の山。


 全身七十箇所可動とかはしないらしい。バランス取るだけで魔力を使いすぎるそうだ。


 本体はなにか。


 大砲だ。


 魔力を吸い上げて、馬の胴に吊った二門の大砲に集約、前方に収束エネルギーを投射するという…


 それってもう口からビーム出すのと変わらんよね。


 薙ぎ払う…のか?


『大賢者殿、その魔術兵器、ですか?威力にもよりますが、魔力の原資はどこで調達しますか?あまりリュタンさんに負担かけたくないのですが』


 話のイメージでは戦術級兵器並の破壊力だ。


 また倒れてしまっては可哀想だと思ってきいてみた。


『そんなもん現地調達に決まっておろうが』




 その後びっしりと細かい字でノートまる二冊の魔法陣の作成手順と配置図が送られてきた。


 あやしい風だった僕らの作業は本格的にあやしくなった。


 リュタンを中心に微細な作業をする「魔砲」準備班、像を移動するための浮揚(レビテート)施術班、その他のハッタリ魔法陣を適当に描く班に分かれて、勇壮だったサレイマン伯爵像はどんどんといかがわしく、おどろおどろしい見た目に変わっていく。


 見たら呪われそうな感じがする。


 テスカによると既に敵の斥候がこちらを発見したらしい。


 おそらく確認のために二次偵察があるはずだ。


 動きがあるのはその後か。


 いずれにせよ準備を急がねば。


 


 夜、敵偵察の目がない時間帯を選んで、更に準備を進める。


 こっちがまた大掛かりだ。


 直径200mはあろうかという巨大魔法陣。


 これが大賢者言うところの現地調達装置、どちらかというと変な騎馬巨人よりも本命の仕掛けになる。


 これを図面どおりに溝を掘って、石やレンガを並べていく。


 昼間の仕掛けは大体終わっているが、さすがに総掛かりで徹夜もきつい。


 交代で休みながら、掘って埋めてを続けていく。


「あなたの作戦って実際戦うことって少ないような気がしますわね」


 サラ、そこでふんぞり返っているくらいなら手伝ってくれ。


「なんですの?その目は。まさか乙女たるわたくしに土いじりをさせるお積りではないでしょうね」


 自称乙女とかウザい。


「おかげさまで土いじりの方はなんとか予定どおり進捗しておりますので、サラの手を煩わせる必要はなさそうです」


「そうですか」


「あと実際戦うということですが、敵と剣を交えることが一番不確定の事項が多いということは先日身をもって学びましたので、なるべく戦わないことこそが良策であると前にも増して考えています」


「わかっておりますわ、そんなこと。ただ言ってみただけですわ」


 こいつ要するに暇なだけだな。


「この大きな魔法陣は何に使うんですの?」


「うーん、言ってみれば罠ですね」


「お得意の罠ですか」


 く、なんか嫌味ったらしいな。


「落とし穴と変わらないものですが、よほど性質(たち)が悪いですね」


「嫌らしい罠はいつものことじゃありませんの?」


 なんだか妙にからむなあ。


「魔術師むけの落とし穴みたいなものですよ。……ところでサラ、なにかあったのですか?」


「何がですのっ?」


「なにやらご機嫌が優れないようですが」


「……」


 案の定のようだ。


「……浮いているんですの」


「浮いている?」


「この隊はテスカさんの隊と、ジレコ伯爵の隊の混成部隊じゃありませんか」


「ええ」


「それと別に、派遣武官として宮廷騎士団からエルゴ様が、王都騎士団からは千人長のダンスタン様とポロニアム様がおられます」


「そうですね」


「その中で…わ、わたくしだけ部外者っぽいんですのよ!」


 は?


 ぽかんとしていると、サラはまくしたてる。


「ポロニアム様はランベールの実兄ということはご存知かしら?」


「いいえ、初耳です」


「二人の御父上は過去に非業の死を遂げ、ポロニアム様も一時期はそのせいで随分風当りが強かったようですけれど、陛下のおとりなしもあって最近はポロニアム様ご本人のお人柄や武術の腕前が評価されるようになったのです。それでランベールもようやく兄君と交流することが人目をはばからずにできるようになりましたの」


 そんなことがあったのか。


「それで周囲の二人を見る目は同情も含めて好意的で、『ランベールはポロニアムの妹』という見方が大半ですの」


「そうなのですか」


「アルタイさんは正式にメルレンの従者であるから問題ありませんわ。でも…」


「でも?」


「わたくしだけは王都騎士団でも所属が違いますし、口さがない者は『ヴィクセン伯爵の力で功績狙いでねじこんだ』やら『お嬢さんがバルテルミ殿に無理を言って遊び半分でついてきている』などと……い、いえ!わたくしはそのような中傷など歯牙にもかけませんわ!」


 思いっきりダメージ食らってんじゃん。


「サラはどうして同行を申し出たんですか?」


「それは!未曾有の国難と聞いて是非バルディスのために身を捧げたいと思ったからですわ!あと……」


「あと?」


「メルレンが…!」


「わたしが?」


 言ったきりサラは顔を赤くして黙り込んだ。


 わかやすくて可愛らしい、が、それ言ったら結局わがままでついてきたことになっちゃうもんな。


「ならば態度で示すしかないですね」


「態度で、ですの?」


「ええ、サラがいかにバルディスのためを思い、任務とこの隊のために貢献しようとしているか。それをわかりやすく示すには行動あるのみです」


「行動ですか」


「それでもわかってくれない人がいるかもしれません。でもきっとわかってくれる人もいます。少なくともわたしはサラが努力家であることは知っているつもりですよ」


「メルレン…」


 サラはぼーっと僕を見ていたが、やがて腕まくりをしはじめた。


「サラ?」


「わかりましたわ!行動で示すのみですわ!」


 サラは傍らのスコップを手に取ると、慣れない手つきで土を掘り始めた。


「サラ、なにも穴掘りをしろとは言っていませんよ」


「いいえ、何事もやってみませんと見えてこないものもあります」


 あっという間にサラは泥だらけになっていく。


「わたしは貴族の生まれですが、生まれだけで全てが決まるなどと思ってはいません。人は才能と努力によって国や民に貢献できる人材となっていくのです」


 これだ。


 これがサラの凄いところだ。


 この娘はたしかに伯爵家の娘だが、狭い価値観に囚われない。


 むしろ自分の価値観が限定的であることを知って、それを恥じ、改めていこうとする。


 だからって穴掘りしてどうになるとも思えないが。


 サラは一心不乱に穴掘りをする。


 仕方なく僕はスコップの使い方についてレクチャーなどしていった。




 翌日、両手のまめが潰れ悲惨なことになったサラは涙を浮かべつつランベールさんに包帯を巻いてもらっていた。


 僕はなぜ止めなかったのかとランベールさんに説教されることになった。


 


 きっとサラの頑張りは無駄にはならない。


 いつかみんなに「ただのお嬢様」じゃないことがわかってもらえるはずだ。


 きっとその頃には立派な領主としての器になっていると思う。




 だから僕を次期ヴィクセン伯にするのは諦めて欲しい。




 そして、巨大魔法陣が完成した。

お気に入り、評価、感想、閲覧ありがとうございます。

ちょっと更新遅れましたが、次回はなんとしても挽回します。


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