第三十一話 「夜間迎撃戦」
むう金曜日に書き上げられませんでした。
次回は頑張ります。
テスカが自ら斥候に出ることは多い。
まだ彼女らが盗賊団だった頃から常に陣頭に立ち、斥候なども積極的に勤めたらしい。
さすがの隠密ぶりと、様々な痕跡を発見する技能は抜群なので
『効率考えればこれが一番いいのさ。うちの盆暗共はどうにも信用ならなくてねえ』
とは本人の言。
さすがアネゴ。
そのテスカが持ってきた報告は想定していたものだった。
「500騎程度で3隊以上ですか」
「ああ、でもお頭。気をつけた方がいいね。ありゃあ多分結構手練だよ」
「お頭はやめなさい」
予想通りゲリラ討伐部隊を編成してきた。
向こうにもちゃんと常識的考えの人間がいるな。
この世界では僕らの考える国と国の戦争にまだまだ不慣れなところが多い。
きちんとそれぞれの領域で棲み分けがされてきたからだ。
なので一旦戦争になってもノウハウの蓄積がない。
それでこんな小僧にいいようにかき回される。
しかしちゃんと対抗策を考えてきた。
「こっちが少ないと思って片手間に潰すつもりですね」
「て言ったってこっちの十倍以上だよ?やれるのかい?」
「500騎の部隊が複数ということなので相手はせいぜい5倍ですね。卑怯打ちすればなんとかなるでしょう」
「別々にやるんだね」
「無論です」
この討伐隊を叩いておけば、またしばらくは様子見になる。
戦力の逐次投入という愚は犯すまい。
また、もし討伐隊を放っておいては今後付きまとわれて動きづらくなる。
全滅させることはない。戦意を喪失させるか、撤退させてやればいい。
誘いをかけて引き込み叩く。
複数部隊の連携を分断する。
こちらの被害が出ることも想定されるが、ここである程度の武力を示さないと呑まれかねない。
「部隊に3つの役目をつけます」
ふむふむと頷く面々。
「まず囮グループ。これは文字通りです。20名程度で偵察部隊を偽装します。接敵したら一目散に逃げて予定ルートに敵を誘導します」
囮グループリーダーにはクーリアを指名。もし追いつかれそうになったら殿で敵を抑えつつ逃げる。
見せ場じゃないか。どこかの百人斬りの人みたいだぞ?
「次に迎撃グループ。これは本隊ですね。囮が引き込んだ敵に向かって扇状に展開(鶴翼なんて言葉はこの世界にはない)して弓を主とした攻撃を仕掛けます」
ここは僕が統率する。別に難しいとこはないんだけど、攻めあぐねたら容赦なく魔法でもぶっ放す必要があるし。
「最後に奇襲グループ。敵先頭が攻撃され崩れると反転すると思われます。このタイミングで潜んでいたグループが敵の背後および側面から攻撃をかけます。また敵の伝令が他の部隊に連絡に行く素振りがあったらこれを阻止してください」
奇襲グループはダナードが率いる。隠密行動には向かない巨体だが、ただ伏せてるだけなら、夜にはなんとか見つからないだろう。
それに敵に恐怖心を与える武力というとダナードが適任だ。他にはテスカも奇襲グループに入る。
サラとランベール、バクスター、アル君は本隊だ。
誘導地点は森の中の伐採された広場だ。
ここへ続く道は二列縦隊がせいぜいというところで、これを迎撃すれば多対少の状況を局地的に作り出すことができる。
結局突き詰めれば策とか言っても段階を踏むってだけだ。
大人数や大量の兵器や武力に優れた者で質や数に劣るものを打ち破る。
策はそのお膳立てをするものだ。
多数で圧倒するのも策。
少数で油断させて罠にはめるのも策。
戦わずして勝つ策はあっても、10人で1000人を倒す策なんかない。
いかに有利な状況にするかってことだ。
今回の新兵器はジェルケルハイム砦からひっぺがしてきた弩弓。
馬車1台を潰して二門を左右別方向に向けて搭載してある。
巻き上げ機を改良しないと速射性能なんて期待できない。
第一、撃ったら馬車をわざわざ180度回頭してやらないと次射が撃てない。
それでも現代世界某国の某最新鋭自走砲と同じくらいの発射間隔は保てるだろう。(※某国K○自走砲はカタログスペックでは6発/分の発射速度だが、実戦では1発撃つのに1分30秒を要する。今回の発射間隔は当然1分30秒)
その弩弓を中心に鶴翼に展開して布陣。
弓の心得がある者は弓が多い。
僕は弓もいけるけれど、敵が死に物狂いで突撃してきた時はストッパーとして機能するために剣にしておく。
篝火は点けずにシャッター付ランタンの明りで準備をすすめていると、待望の一報が入る。
「クーリア様が敵と接触した模様!」
時刻はおおよそ19時。
「現在敵から逃走しつつ、予定どおり迂回してこの森へ向かう予定です!」
「敵は伝令を出しましたか?」
「いいえ!その兆候はなかったようです!」
よし、とりあえず賭けに勝ったようだな。
敵が増援を要請する伝令を出し、それを取り逃がした場合は森へ向かわずに囮部隊20名をさらに少数に分散させて各個に逃げる作戦になっていた。
逃げ込む先は点在する村や町で、伏せ手を警戒して事前調査や偵察もせずに敵の町へ飛び込むこともないだろうとい判断だった。
それも不要になった。
「準備急いで!終わり次第灯火管制!」
珍しく隊長っぽく指示を飛ばすとどっかの艦長みたいだ。
でも別に左舷の弾幕は薄くないようだ。
「奇襲グループにも伝達!」
「了解しました!」
ひとつまたひとつとランタンに覆いが下ろされ辺りを闇が支配していく。
星明りも木々に遮られ、完全ではないものの鼻をつままれてもわからないかもしれない。
しばらくして遠くから蹄の音が響いてくる。
「準備!」
抑え目に鋭く指示を出す。
緊張感が高まっていく。
地鳴りのように蹄の音が大きく、そして近くなってくる。
蛍のように明りがちらちらと近づいてくる。先頭の騎馬が後続の目印となるようにランタンを掲げて疾走しているのだ。
それは見る見る近づいてきて広場に突入してくる。
「ご苦労!下がっていろ!」
陣形を割って後方に下がらせる。
最後尾のクーリアがすれ違いざまににっと笑ったようだった。
そのすぐ後から敵の足音が近づいてくる。
「弩弓構え!弓隊は馬を狙え!」
キリキリと弦の引き絞られる音が聞こえる。
ついに先頭の騎馬が姿を見せた。
「撃て!!」
号令とともに槍ほどもある弩弓の矢が敵に襲い掛かった。
ドンッッ!!
轟音を立てて二列縦隊の右側の騎兵が串刺しになり馬上からもんどりうった。
反対側の騎兵には矢が殺到し、ハリネズミのようになる。
「弩弓次射準備!弓隊焦るな!射順を守って狙って撃て!」
前列の異変に気づいた後続の騎兵は減速するが、押し出されるように広場に現れる。
そして次々に馬を射られて地面に投げ出され、そのまま動かなくなるか唸り声を上げている。
運よく立ち上がった者もいたが、弓で狙い撃たれたり抜刀したバルディス兵に斬られた。
数十名がなにかしらの被害を負ったところで漸く隊列全体に異変が伝わる。
『敵の待ち伏せだー!』
大声も聞こえる。
狭い道ではあるが、なんとか馬を転回して後退を計ろうとし始めた。
しかし充分に連絡が取れず、前進しようとする者と後退しようとする者で混乱が生じた。
「頃合かな」
連絡手段にしてある高音を発する笛を取り出すと思い切り吹いた。
ピーーーッ!
中継に入っている者からの返信の笛が聞こえて、だんだん遠くまで連絡されていく。
奇襲部隊が動く。
「迎撃部隊は陣形を密に変更、突出する!」
遠くから喧騒が聞こえてき始めた。
奇襲部隊の攻撃が始まった。
闇夜であった。
前に出た兵は次々と待ち伏せにあって倒れているようだ。
しかも後方からは別の敵が襲い掛かってくる。
前からは必死で撤退しようとする者が押し寄せ、後からは追撃に慌てた者が逃れてこようとする。
敵はどれだけの数なのか、味方はどれだけ残っているのか。
何もわからない中でただひとつわかるのは敵の罠にはまってしまったこと。
イダヴェル兵の不安は手に取るように伝わってきた。
こちらが追撃を開始したことで1対1の状況になっているのだが、指揮系統も隊列もなく恐慌に陥ってしまった軍を立て直すのは容易ではない。
テスカは手練と言った部隊だったが、こういうものはいくら剣がうまく使えても仕方ない。
人のことがいえるものではないが、お互い戦争の経験もロクにないのだ。
張られた策謀に見事にかかってしまい、生命の危機というもっとも根源的な恐怖にさらされては稽古で覚えた剣術など十全に発揮できるわけはない。
「イダヴェル軍に告ぐ!武器を捨て投降すれば生命は保証する!馬を降り降伏せよ!」
大声で告げる。
しかしそれにすぐさま応じる者はなく、必死で馬首をこちらに再反転し
「ふざけるな!」
と斬りかかってきた。
「メルレン様!」
併走していたランベールがその攻撃を防いで、逆に敵の頭部に剣を打ち込んだ。
「があっ!」
敵兵は悲鳴を上げて落馬する。
「イダヴェル軍よ再度通告する!われわれは無駄に血が流れるのは好まない。ただちに投降せよ!」
それでも攻撃に転ずる者がいたので、今度は僕が5人ほど斬った。
無慈悲に。
圧倒的に。
すると一人二人と馬足を緩め、武器を投げ捨てて両手を挙げ降伏する者が現れ始めた。
そうすると雪崩をうったように降伏する者が増えていく。
「降伏感謝する!降伏した者は両手を後に縛り、武器防具をはずして両足拘束の上後送しろ!」
奇襲部隊が戦線を維持する間に敵は総崩れとなり、味方死者なし、重傷2、軽傷5に対して敵は死者26、重傷67、軽傷103という一方的な内容になった。
死者、重傷者の多くは最初の弓で馬上から転落した際に死傷したものだ。
装備はすべて回収し後日再利用できるものはさせてもらう。
馬も全て接収して輜重隊から空馬車をいくつか調達し、ふんじばった敵を放り込んでいく。
御者はこちらの兵がある程度のところまで勤めるが、敵の一部を解放して自陣まで帰らせる。
などなど準備を進めながら、敵の指揮官ぽいのが見つかったので尋問する。
「わたしはバルディス王国宮廷騎士団団長代行補佐兼任南方方面軍総指揮官メルレン・サイカーティスだ」
ちょっと役職を盛った。
サラが目を丸くしている。
いいか、今は黙ってろ。バラしたら・・・くすぐるぞ。
「わたしはイダヴェル帝国剣術団アークロイガー所属第一軍第二陣第二騎兵団五百騎長のロイド・カッセルだ。まずは部下の安全を保証してくれて感謝する」
おお、まずそれが言えるとはなかなかの人物じゃあないか。
「われわれは約束したことはこれを違えることはない。さて、貴軍はバルディス王国の領土を深く侵している。これはいかなる意図か」
わかっているんだけどまあ聞いてみないとね。
「すべてはバシュトナーク陛下の御威光を天下あまねく知らしめるためだ」
「・・・交渉の余地はないと?」
「まずわたしにそのような権限はない。それにわれわれイダヴェル帝国はバルディス、マガニア、バンディオルフ、ロガランドに到るまで版図におさめるべく軍を動かしている。一地方の資源を取り合うような小競り合いではない」
「なるほど。では帰って汝らが将に伝えよ。『分を弁えぬ大望は身を滅ぼすのみであると。まずはこのメルレン率いる南方方面軍3000が相手をする。浅慮愚挙を血で贖うがよい』とな!」
サラが目をまんまるに(ry
「く、そちらこそたかだか3000の兵でイダヴェル15万を止められると思うな。この借りは必ず返す」
「受けて立とう」
顎で合図してカッセルさんは引き立てられていく。
ふいー、慣れない演技は疲れるねー。
「ちょっとメルレン、なんかいろいろ何言ってますの?」
「あはは、嘘つきました。まあこちらに警戒してくれればいいんですがね。3000の敵を捜索するも見つからない。と思えば細かい嫌がらせは執拗に続く。そんな感じです」
「細かいって・・・自分で言ってどうしますの」
「それより、怪我人の様子はどうですか?」
「幸い血は止まっていますが、数ヶ月は戦えませんわ」
「そうですか・・・」
うーん痛いなあ。
「ジレコ伯から兵を借りても指揮の行き渡り方とかでムラが出ますしね。とりあえずは軽傷者の一部に重傷者を王都まで後送して貰い、クーリアの直属の騎士を送ってもらいますか」
さしあたりは今あるものでなんとかしよう精神だ。
クーリアと入れ替わったバクスターが偵察部隊(囮)を編成し、他の敵部隊との接触を試みたが不発に終わり夜が明ける。
とりあえずの戦果は500騎の部隊の撃退に成功し、馬は一杯入手できた。
ジレコ伯と合流するために移動を開始しながらダナードや輜重隊と相談し、程度のいい馬を今回の戦いで負傷したり失われた馬の代わりとして補充し、予備としてある程度を確保。
怪我のひどい馬を中心にばっさりと解体し、手際よく食糧として加工することになった。
残りは馬具をはずして解き放った。
あまり連れていても動きが制限されるし、正直用もない。
中には飼い主の臭いを辿って自陣まで帰り着く馬もいるだろうが、そのへんは別にどうでもいい。
「ひさしぶりに昼間に動くなあ」
「お、クーリア昨晩はお疲れ様、勲功一等の働きでしたね」
「へへへ、まあな」
相変わらず毛皮などあしらった鎧を着ているので、どうみても騎士には見えない。
蛮族と言ってもいい。
「アニキには感謝してるぜ」
「なんでですか?」
「まあ、見てわかると思うけどよ、俺たちは王都騎士団の厄介者なんだよ」
うんまあいろいろ厄介ぽい。
「バクスターはなんでかわからんが良くしてくれるけど、貴族の息子とかもいるから他のヤツらの当たりはきついのなんのって」
「あーまーそうかもしれませんね」
「アニキは新顔だからまだ煙たがってるヤツも多いだろ?それで厄介者を押し付けたってのが多分今回の編成さ」
「まとめて全滅しても惜しくないってことですか」
「まあな」
バルテルミから王都騎士団に話が行って、比較的すんなりと兵が借りられたのはそんな背景があってのことかー。
「感謝ってなんでですか?」
「いわばはみ出し者の俺達がまがりなりにもバルディス王国の先鋒として戦果を上げたんだぜ。テスカも隊のヤツらもすげー喜びようだ。王都に帰ったら置いてきたうちの隊の連中に羨ましがられるだろうな」
なるほどね、多分しっかりした訓練機構もない都市防衛騎士団は時に手っ取り早い戦力として改心させたゴロツキなんかも雇うのだろう。
しかし多くは『ちゃんとした』騎士に蔑まれ、危険であったり地味であったりといった任務に投入される。
それが今回のような陽のあたる活躍ができるのは何より嬉しいということか。
陽のあたるゲリラ戦??
「王都の仲間に土産話ができるように死なないで帰らないといけませんね」
「おう!頼りにしてるぜアニキ!」
ばんばんと僕の背中を叩くクーリア。
「ところで、徹夜あけで眠くないですか?」
「俺は大丈夫だが、そういうことはおたくの従者に言ってやりな」
親指で指された方を見ればアル君が馬上で爆睡して落馬しかけていた。
「わああああ!アル君!起きてください!せめて体を固定してから寝なさい!」
子供に徹夜は禁物だ。
ジレコ領に戻ってきた。
その後接敵もなく、敵もやや進軍速度を速めてきたらしい。
こちらの反攻がないことに警戒していたが、それを緩めたか、それとも警戒していても仕方ないと開き直ったか。
本当はこっちと出会った時に御大将メニヒが出てきて前線で無双されたらどうにもならないんだが、あいつ面倒臭がりだからな。
面倒臭いのでなるべく効率のいい方法を考えるという思考回路をしている根っからの職業軍人だ。
一方のバシュトナーク皇帝は戦大好き。
戦っていさえすれば戦争だろうが、ケンカだろうが満足という単なるキ○ガイと言っても過言ではない。
偉そうに言ってる理想なんかぜーんぶ嘘っぱち。
後付けでそれっぽいこと言ってるだけ。
付き合わされて死ぬヤツらは迷惑でしかない。
補給は伸びているし当初の予定より若干厳しいくらいになっているはずだ。
現地で補給しようにも毒などが怖く手間取っている。
撤退を検討するような被害はない。
しかし姿も見えない少数の敵にいいように翻弄されて連敗した。
どうもしっくりこない。
そんな不安とストレスを感じながらの進軍だ。
早く王都を落として王を捕らえ、降伏に追い込みたいというのが本音だろう。
まだ敵が多い。
僕としては1割は無理としても王都までに5%くらいは削りたい。
数千人、無視できない被害を与える。
あとは厄介な帝国魔術団もどうにかしたい。
こっちが魔術師だってバレなければなんとかなる・・・はずだ。
当面はジレコ伯が仕込んだ大仕掛けの罠の打ち合わせをしなくてはな。
いつも読んでくださってありがとうございます。
そういえば20万字を漸く超えましたね。
他の作家さんに比べ亀のごとしですが、地道に積み上げます。




