第十八話 「メルレン隊の入隊儀式・前編」
ちょっと間があいちゃいましたね。
釣りに行ったらアオリイカが釣れてホクホクですよ。
前後編に分割しましたが、そんなにおおげさな話ではありません。
あとお気に入り10件到達です^^
ありがとうございます~
メルレン隊の出発は国境でイダヴェル第一軍にちょっかいをかけるため、一週間後の出発が決まった。
国を挙げての後退戦となるわけだが、悟られてはまずい。ちょっとは手ごたえのあるところを見せないと。
どうせ途中でバレるとは思うが、それにしても侵攻を早めてると何か仕掛けてくるかも、という疑念を相手に抱かせなければならない。
百騎ではできることも限られるが、逆に小回りも利く。意志の疎通もしやすい。
出発までの間はまたまた準備に奔走する。
部隊内のことは指示だけにして各責任者に丸投げした。
次に帰ってくるタイミングが王都侵攻より前になるように努力するつもりではあるが、戦は水物。今あるヌクレヴァータの姿とはこれでお別れになってしまうかもしれないということで、挨拶まわりやなんやら。
ちなみにサイカーティス商会についてはカーマインに一任してある。
なんだか利益の増加率が恐ろしいことになっている。
「次の大商いは復興特需を当て込んでおります」
半笑いはやめてくれ。
そしてサイカーティス商会に新しい仲間が入った。
「メルレンさま、このたびお世話になることになりました。銀杏の並木亭のアネカです!」
いや正確に言うならば銀杏の並木亭を切り盛りするアネカの一家が、サイカーティス商会入りをした。
これは避難先での仮宿の運営、復興時にも臨時の人足で王都の人口が一時的に増加することが考えられる。
そのためにも宿は大事なものだ。その時の状況を見てこれまでの銀杏の並木亭のような高級宿ばかりではなく、グレードごとに複数の宿を運営してもらう必要が出てくるかもしれない。
これまでのノウハウを活かして王都旅館組合みたいなものも立ち上げる可能性も考慮していた。
被害は出る。
しかし最初からそれを覚悟し、準備して、予め復興に向けて舵をきっていれば精神的ダメージだけでも違う。
一般市民には「参軍(僕のことだね)の策略によって王都は一時的に放棄されるが、これはすべて計画されたもので被害に対しては最大限王国で補償する」と布令がされている。
すぐさま元通りとはいかないが、ある程度パニックを抑えることはできるだろう。
リュタンに気になっていたことを聞いてみる。
「大賢者に連絡を取ることはできませんか?」
リュタンが遠隔操作された時にはあきらかに魔力回路のようなものを通じて大賢者側、まあ正確には準備された彼の蔵書類だったのだが、と接続状態にあった。
一方通行のモニタリングなら仕方ないが、双方向コミュニケーションが可能だったらありがたい。
「できますよお」
こともなげに言われて若干ずっこける。
「そ、そうなのですか」
「ええ、お師匠さまはわたしが暴走しちゃわないか監視するために、監視用の本をくださったのです」
と、言って手帳サイズの本を懐から取り出した。
「拝見します」
渡されて開いてみるが、中には何も書かれていない。マジで手帳だ。
「これはどういったものですか?」
「これは双子の本です。魔術的な複製をされていて、同じ本が2つあるもたいな感じなのです」
「ふむ」
要領を得ない。
「つまりですねえ」
リュタンは手帳を取ると、サラサラと何か書きこんだ。
『おししょうさまー』
と、書かれている。
「ちょっと待っててくださいね」
言われて待っていると、手帳に文字が浮かび上がる。
『やかましいわ、何か用か』
うわ!気持ちわるっ!
「これはお師匠様が双子の本の片方に書いたのですよ」
なるほどー、メールというかインスタントメッセンジャーみたいなものか。便利じゃないか。
「お借りしていいですか?」
「どうぞー」
『オーベイ殿、メルレンです。お聞きしたいことがあるのですが』
『なんじゃ、化けエルフか』
く!我慢だ!
若干お互いヒートアップした文調になりながらもリュタンの目もあるので抑えつつ聞きたいことを聞いた。
あやうく某巨大掲示版のノリになるとこだった。
しかし、これで助かった。
どうしても聞きたかったことなので、サラとランベールあたりを再びオーベイのところまで派遣しなければならないかと思っていた。
手帳はこれからもちょいちょい利用させてもらおう。
インク+羽根ペンはどうにも使いづらい。
次回からはシャープペンを使うことにする。
副官ダナードは好みのタイプだ。
いや、ラヴな意味ではない。
改めて親睦を深める必要もなく、僕に対して全幅の信頼と忠誠を寄せてくれているらしい。
しかも盲従するのではなく、あくまでも任務であり、指揮系統を引き締めるためらしい。
プロフェッショナルだ。
寡黙、職業軍人、凄腕、これだけそろえば男としては憧れる。
とはいえ騎士団といえば基本的にはあまり身分の低い者は入らない。
一部アル君のような例外を除いては騎士爵の家の者、貴族の次男以降など。
一般市民はいくら腕が立つといっても衛兵団がせいぜいだ。ましてや戦時にしかほぼ動員されない大量の歩兵を常備軍としているのはイダヴェル以外にはほとんどない。
さて、ダナードはもともとはウェズレイが指揮官を務めていた南部の砦の衛兵だったらしい。
そこを見込まれて抜擢、推薦されて王都騎士団へ入り、さらに推薦されて宮廷騎士団入りしたという叩き上げだ。
ますます渋い。
ウェズレイから引っこ抜きたいところだが、あのおっさんに恩義を感じているらしく調略は難しいとみた。
忠誠度100だ。
王都騎士団の面々も個性的だった。
バクスター・ポロニアムは観戦武官じゃないかと思うくらい戦っけがない。
整えられたヒゲがおしゃれなあんちゃんだ。
案の定、東部ヴィクセン伯爵が取りまとめる男爵家の三男だそうで、僕とおなじ所領なしの騎士爵として王都に屋敷を構えている。
ワインと女性をこよなく愛する30歳という自称で、たしかにサラ、ランベール、リュタンにも満遍なく愛想を振りまいていた。
うん、イタリア人だなアレは。
剣の腕は思いのほか立つらしい。三銃士のカッコさせたら似合いそうだ。
クーリア・ダンスタンはガラが悪い。
街の暴れん坊だったのをバルテルミにボッコボコにされて衛兵団にブチこまれたのだが、そこからめきめきと頭角を現し千人隊長まできたというから凄い。
騎士団の昇進試験てケンカなのか?
ちなみに配下の千人隊はどちらかというと非貴族枠や、問題児が多いそうだ。
中でも今回連れてこられたテスカ・ロズハーの百人隊は最も荒っぽいという触れ込みだ。
「かしらあ!」
「バカヤロウ!隊長と言えっつってんのがわかんねえのか!?殺すぞ!」
というお決まりのやり取りを見ているとどうしても騎士団には見えない。盗賊団だよね。
テスカ・ロズハーはクーリアが引っ張ってきた腹心らしい。
ロズハー隊の面々からは「アネゴ」と呼ばれている、いかにも女盗賊にしか見えないお姉さんだ。
装備するあらゆる武器に毒を仕込むという、これもおおよそ騎士団には似つかわしくない技の持ち主だが、あらゆる毒物とその取り扱いに精通していないと無理なことなので、その技能は素直に賞賛に値すると思う。
「よろしくお願いしますね、ロズハーさん」
「ああ!?」
軍紀という点ではアレだが。
しかし個性的な面々が一糸乱れぬ動きをしてくれないと命に関わるのが今回の任務だ。
策に基づき、あるいは現場の状況によって臨機応変に、瞬時の対応が要求される。
キモは僕の統率力だ。
どうしたら隊をすみやかに掌握できるのか。ダナードに聞いてみた。
「ダナードさん、みんなの信頼を得るにはどうしたらいいでしょう」
「・・・積み重ねだと思うっス」
それは当然だが。
「結成間もなくで作戦に投入されますので、初戦がいきなりメニヒ本隊の可能性もあります。手っ取り早い方法はないでしょうか」
「・・・タイマンがいいと思うっス」
またソレカ・・・
しかし荒っぽい連中なので、わかりやすく力でいくのはひとつの手段か・・・
「それで根に持たれたりしませんかね」
「力試しみたいにすればいいっス」
軽いイベントノリかあ。しかしそれで魔法剣士の技使うのは大人げなくないか?
さじ加減か。まあいいや、やってみよう。
と、言うわけで、親睦会という名目で皆に銀杏の並木亭に集まってもらい酒を振舞った。
いつもは高級旅館風の銀杏の並木亭だが、今日は途端に場末の酒場の雰囲気が出ている。
「皆さんお楽しみのところすいません。ちょっとした趣向を用意しました。わたしと腕試しをして一本取った方には賞金として金貨1枚を進呈します」
ざわっ
あれ?雰囲気変わった。
一応なんかなごやかな感じだったのが急に殺気立ったような・・・
「ナメてんのか!?」
そんな声が聞こえる。
あれ?
「いきなり挑戦状突きつけるとはいい度胸してんじゃねえか!」
テスカ・ロズハーが立ち上がる。
「アネゴ!」
あれ?挑戦状?
どうもノリを読み違えたみたいだなあ・・・
「あ、すいません。せっかくだから皆さんと仲良くしたいなあと思いまして・・・」
「どこがだよ!」
あはは、ツッコまれた。
まあ、こうなっては仕方ない。腕ずくで行こう。
「んんー、では約束どおりわたしが負けたら金貨を進呈します。勝ったら作戦中はきっちり言うこと聞いてくださいね」
「お前が勝ったらな」
アネカが「ここではやめてください」と涙目で訴えたので場所を外へ移す。
「アネゴー!殺っちゃってくれえ!」
いや、殺ったらまずいだろ。
「カスれば勝てますぜー!」
まあ、毒使いだしな。いや!ていうか毒仕込む腕だめしってアリなのか!?
見ればテスカのナイフは妖しい輝きを放っている。ウン、毒ぶっこんであるね。殺る気マンマンだね。
「ではどちらかの参った、で勝負をつけるとしましょうか」
「もしくはどちらかの死だな」
こええよ。
こちらはさすがに霧断丸の試し斬りをするわけにもいかないので、サーベルを所謂峰打ちで構える。
某暴れん坊な殿みたいだよな。
「行くよ!」
ザアッと突っ込んでくるテスカ。滅茶苦茶速い。両手に構えた短剣(毒つき)で華麗なるソードダンスが始まった。
右へ左へ回転しながら間断無い連続攻撃を仕掛けてくる。
しかも軌道が読みづらく、毒が塗ってあるためにこちらは全身が急所状態だ。
上段、下段、切り上げ切り下ろし、突き。
フェイントを織り交ぜ、こちらの剣の握り手、首、腹、足にいたるまで、恐ろしく速い回転攻撃は疲れを知らぬかのように続く。
しかしバルテルミほどの速さではない。しかも独楽のように回転するなら軸を狙えばいいのは道理だ。
高速回転が反転しようとした一瞬の隙に片方のナイフを思い切り跳ね上げると、しゃがみこみながら手を地面について右足を低空で振り回した。
水面蹴り、もしくは後掃腿と呼ばれる技だ。見よう見まねの割にはうまくいき、テスカの軸足を跳ね飛ばした。
バランスを崩したテスカは思い切り転んでしまう。
「アネゴ!」
僕は一番警戒する必要のある毒塗りナイフを、転んだテスカの両手が交差したポイントを片足で踏んづけて封じてしまう。
「畜生!」
テスカはあきらめずに転んだまま足を振って僕の胴あたりを狙う。
ジャキン!
お約束だが、爪先から刃物が飛び出した。
「よっと」
サーベルで受けて刃物を叩き折る。絶対これも毒塗りだよな。
もう片方の足もどうせ同じなので先に切っ先を爪先の仕掛けと思しき部分に突っ込んで壊す。
やれやれ、これで片付いたかな?
見ればじいいっと僕をにらむテスカ。
フッ!
含み針だ。
サーベルの刃で目を狙って飛んできた針を払うと、今度こそ攻撃手段が尽きたようだ。
コイツ騎士じゃなくてカンペキに暗殺者じゃん。
「参った・・・」
超不承不承参ったをするテスカ。
「いやあ、ヒヤリとする場面が結構ありましたよ」
「・・・嘘付け。余裕で捌いてたじゃないか。それにそこの女(サラのことを指している)との勝負では魔術を混ぜたのに、アタシには使わなかった・・・!」
うわあ、結構めんどくせ。
「い、いや勝負が早くて使う暇も無かったんですよ」
「まあいい、アタシの負けだ。アンタに従う」
「よろしくお願いします、テスカ百人隊長。素晴らしいナイフの腕前でした。体術をもっと駆使すれば隙がなくなりそうです」
「わかった」
まあしおらしくなったからいいか。
結構美人だし、仲間から人気があるのも頷けるな。
「次は俺だな!」
クーリア・ダンスタンが立ち上がる。
テスカ百人隊からは「かしら!」と声援があがり、クーリアはいちいちそれを「隊長」と訂正する。
得物は肉厚のブロードソードだ。本来は正統派剣士だとか勇者に似合いそうな武器なんだが、巨躯、悪人面のクーリアが持つと蛮刀に見えるから不思議だ。
しかもアレ、なんか魔術付与あるな。
千人隊長の武器なんだから当たり前なんだが、正体がわからないとちょっと不気味だ。
「聞くとてめえはあのバルテルミに勝ったそうじゃねえか」
「まぐれですよ」
「やかましい!あれがまぐれで勝たせてくれるようなタマかよ!つうことはてめえに勝てればアイツにリベンジできる目処が立つってわけだな!」
おーい、バルテルミー、こいつ改心してないかもよー。
「それじゃあ補佐としては団長代行の露払いをしなければいけませんね」
「やってみろ!」
「はい」
なんだか珍しく「いざ勝負」という雰囲気になった。
さて、相手観察。
クーリアは見た目に反して猪突してこない。構えは大きいが隙もない。筋肉には力がたわめられており、瞬時に攻撃でも回避でも移れるようだ。
野獣系ではあるが狡猾な獣といえる。
「いくぜ!」
しかしやがて剣を大きく振りかぶって突進してくる。
上段で突撃?急に隙を作った?
罠っぽかったが、選択肢もあまりなくカウンターの突きを右腕の付け根めがけて繰り出す。
と、
「ぐう!」
無警戒だった腹に蹴りを食らってしまう。
なるほど上段を餌に蹴りを入れるとは、先程のテスカへの水面蹴りの意趣返しのつもりか。
やるじゃないか。
そういえば盗賊の頭は思い切り魔術で完封しちゃったので、これまでの対人戦といえば結構綺麗な戦いが多かったもんな。
こういう泥臭い勝負も嫌いじゃない。
クーリアは倒れた僕への追撃を横薙ぎにしてきた。
おお!これは嫌らしい。縦に斬撃すれば横回転でかわしやすいが倒れた状態へ胴薙ぎされたら回避は難しい。
場慣れしたクーリアの攻撃に感心しながら、サーベルの握りの部分で攻撃を受ける。
力の乗った攻撃に吹き飛ばされそうになるが、勢いを利用して立ち上がる。
さて反撃ターンだ。
クーリアはいわゆるストリートファイターだ。
自分の経験と体格を活かした攻撃を組み立てている。
修羅場も経験しているようで油断もない。よくまとまっていると思う。
それなら対抗策としては・・・
僕は構えを変えた。
放浪の超剣士ラザルス・アクシオム、その一番弟子である魔法剣士レイスリー・プロガーンから叩き込まれた言うなればアクシオム流の磨き上げられた剣術。
千年以上の時をかけて達人の手によって修練と実戦の中で極められた剣術は芸術に近い。
いわばアクシオム流ともいえる正統派の剣術、無駄をそぎ落とした動きで我流に対抗する。
「ほう。いい目するじゃねえか」
サーベルを半身に構え、力を抜いて対するとクーリアはニヤリとした。
とはいえ仮称「アクシオム流」は別にサーベルの流儀ではない。ラザルスは主に片手直剣、両手直剣を使用するし、レイスリーは片手剣と盾を使う。
ただしラザルスは得物は選ばないと自称していて、過去素手でゴーレムを仕留めたと言っているが真偽不明だ。それは剣士じゃなくて拳士だな。
こういう技やこういう練習方法があって修行する、というものではなく、とにかくマンツーマンでしごかれる。
悪い所があれが力ずくで矯正される。打たれながら防御を学ぶ。
長い間続けていくことで徐々に洗練されていく。
そんな過程を駆け足でやり遂げた「砂塵の覇者」ダルタイシュ・セルワーは恐ろしい。
すり足で間合いを詰めていく。
間合いは圧倒的にクーリアが遠い。
しかし間合いは常に変化するし幻惑する方法はいくらでもある。
(そういえば師匠は棒を突っ込んだように間合いをいじらせてくれなかったようだ)
ようだ、とは記憶がメルレンのものなので、どこか他人事に思えるからだ。
(呼吸をお互いに知り尽くしているから、出入りのタイミングも仕掛けも読まれていて、いつまでも勝負がつかない)
じっとクーリアを見つめながら段々呼吸を深く、長くしていく。
クーリアの呼吸もつられるかのように長くなっていく。
やがて息を吐き出しきる直前に呼吸を止め、体中のバネを使って急激に踏み込む。
「!」
一瞬後に反応したクーリアは中段から突きつつ切り下ろすような鋭い斬撃を見せる。
クーリアの剣の切っ先が僕をとらえようとしたが、僕はもう一段ギアを上げる。
切っ先は残像をすり抜け、僕の髪が何本か切れ飛ぶ。
その時にはすでに僕はクーリアに肉薄し喉元にサーベルを突きつけていた。
「わたしの勝ちです」
「あ、ああ。認めてやる」
そういえばユニークもついに1000突破です。
いやあ遠くまで来たものです・・・(感慨)
さぼってるな、と思ったら叱咤してください^^;
これからもよろしくお願いします。




