第24話 オーセンティックじゃない!この救世主
「まっ、こんなものかな」
青年が真っ赤に燃え盛る的、スティグリーら一味を見ながら呟く。そして不敵で素敵な笑顔のまま、右手を前に差し出して親指と中指で「パンッ」。高く良い音で響き渡ったその音が合図だったようだ。
「わっ!」
ルカは思わず目を見張った。
さっきまでの勢いある炎が全くの嘘のだったかのように、すす一つ残さず一瞬にして姿を消したのだ。
唯一、証拠があるとすれば丸コゲと化したチンピラ共だろう。だけど彼らがいくら騒いだとしても、これまでの現象を第三者へと伝えるのはきっと無理だ。
うずくまったまま苦しそうに両腕を抱え込み、地面と仲良し子よししている焦げた仲間と、その後方で自分たちの強みである魔術軍団がやられたことに驚き硬直している仲間たちをスティグリーは苦い顔で振り返って見た。
そしてこの最悪な状況から判断したのであろう。“奴”には絶対に敵わない、と――――
「クソッ、覚えてろよっ!」
そう勢いよく顔を向け、最大限のガンを飛ばして吐き捨てたお決まりの言葉は…………何故だか、へたり込んで今まで成り行きをポカンと傍観していたルカに向けられ、彼らは超高速で逃げていったのであった。
「――いやいや、何で僕だよ」
意味がわからんとルカは呟きがら奴らが逃げていった方向を見送る。そして思うのだ。サーと引く全身の血の気を感じながら思うのだ。
(………………ソフィーさんの財布、どこに行った?)
まんまとスティグリーらに盗まれてしまったのか、はたまた先ほどの炎で一緒に燃えてしまったのか。いや、はじめに盗んだ男の子が――――。考えれば考えるほどたくさん喪失原因は出てくるが結論を言えば、財布は戻っていない。つまり失敗。
(ど、どうしようー!)
ルカはソフィーになんと言いわけをしようかと新たなる恐怖にガタガタと震えはじめた。
そんなルカに優しい声が背後から降り注ぐ。次いで露出する肩を包み込む温かさ。
「――――大丈夫かい?」
「へっ……あ、……」
ルカはビックリ。
いつの間にか青年が自分の後ろにいた。しかもその青年に自分は抱きすくめられている。
(…………何故だ?)
?だったり、恐怖だったり、またまた?だったりと。脳の処理がなかなかに追いつかないルカは、助けられたという素直な感謝も口にできないまま固まってしまった。
しかし、青年の優しい口調は構わず続くようだ。
「怖かったよね、こんなに震えちゃって。でも、もう大丈夫。恐れ多くも君に不埒なことしようとしたゲス共は俺が追い払ったし、これからは襲いかかろうとしてくる野蛮な奴らから生涯、俺が君を守るよ。だから大丈夫」
青年が喋る度に、青年の吐息が耳にかかる。
それがどこか熱っぽい感じがしてこそばゆく、自然と肩をすくめてしまう。
「(助けてくれて)あ、ありがとうございマス?」
やっとルカの口から感謝の言葉が出たが、何だか話しが噛み合ってない。というか青年の話が後半から何かおかしい。
「いやいや、礼には及ばない。これは俺の義務だからね。そうだ………………じゃあ、これも義務だよね?」
そう言ったあと、青年の行動は瞬時に、不可解に行われた。
今までルカに覆いかぶせていた体をパッと離すなり、今度はルカの体を自分と向かいあうように回転させ、より一層引き寄せた。
青年の金色の髪から覗く黒い瞳を近くで見て、再度その存在感に圧倒させられる。
心なしか青年の顔は、先ほどの戦闘時よりも真剣そうだ。
「さっきアイツらに無理矢理されそうになって。その嫌な記憶、俺が素敵な思い出に上書きしてあげるよ」
そうして青年は、流されるがままのルカのはだけた胸元に口を寄せ――――――
「キャーーーー、ルカ!!」
「ヒュ~♪」
やっと探しに来てくれたリースの甲高い悲鳴。魔術の掛かったままのヨークの短い口笛。
ルカはやっと正気に戻り。
渾身の一撃を青年の顔面目がけて振り下ろした。




