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第22話 タウンウェアはひと騒ぎとともに♯4

「ほぅ、このねぇーちゃんが命令したっていうのか?」

ゲヘゲヘと気色悪い笑い声。

「いや、そんなの僕、言ってませんしー!」

顔を引きつらせながらの愛想笑いを浮かべ、答えたのは財布盗んだ男の子…………ではなく、僕。

(おいおいおいおいっ!!?

なんだこの状況!!なんなんだ、この状況はっ!!)

冷や汗が心の中の涙と合体し、大きな滝となってルカの背中を駆け下りる。

その寒さのせいか、体中の震えが止まらない。さっきの言葉だって語尾が震えていたし。

「あっ?さっきのガキが言ってたぞ?

ダメだなぁ~、純粋な子供脅して悪いことさせるっちゅーのは、なぁ?」

先ほど、仲間らしき男達から“スティグリー”と呼ばれていたリーダー格っぽい奴が、顔を近づけて言う。

ちなみに今のルカの状況。

背後には薄汚い壁。もう一歩も下げれぬ状態。足元さえつま先立ちでこれでもかというほど壁にくっつき虫状態。

続いて前方。スティグリーの小汚く酒臭い顔面が……鼻と鼻がぶつかりそうなほど近くにあり。

最後に左右。

スティグリー率いる見るからに絡みたくない奴らが、一人、二人、三……ざっと六人ぐらい。えぇ、もう

僕の逃げ場なんて無いっす。

「ほ、ほんとうにし、してない、です。

ほ、本当か、どうか……あの、男の子に聞いたら…………」

そう言いながら、本来あのソフィーの財布を盗んだ男の子がいる方へと目を向ける。

だが、しかし。

もちろんと言うべきか。お約束と言うべきか。……もうあの男の子の姿はなかった。

(くそぅ……元凶はアイツなのにーーー!!)

握りこぶしを作るにも、振り上げる相手が残念ながらもうすでにいないのだ。

ルカは怒りを鎮め、すぐにこれからどう目の前の奴らから逃げるか、それだけを考え始める。

(たぶん、無傷で済むわけないよなー)

さて、殴られるとしようか。

別にルカ自体に謝る理由はない。

しかし、ここは謝り続けて、相手の気がすむまで殴られて、蹴られて。……きっと死にはしない、はず。それに途中でリースやヨークが追ってきて助けてくれるかもしれない。

ここで謝らず、抵抗しようものなら、きっともっと酷くなる。それ以前に自分には“抵抗”という選択肢なんてない。生憎、持ってない。

「す、すみませんでした」

ギリギリ口内に籠らずに吐きだせた言葉。納得いかないけど、自分自身を説得させるしかない。

不本意だが少し頭を垂れる。前髪が、ちょうど視界を遮るぐらいまで。

これが、僕の処世術。ずっと、弱く生き続けてきた僕の……ちゃんとは何故か思い出せないが、今みたいな経験、どこかのデジャブかもしれない気がする。




「おいおい、ねぇーちゃん。

俺達…………そんな嘘丸見えな謝罪なんて求めてねーんだわ」



ガシッ

無理矢理、視界がクリアになり、目の前に青空背景バックのスティグリーと愉快な仲間達の下品な笑顔が広がる。

「……ッ!?」

前頭が痛い。おでこがスースーする。

それもそのはず、僕の真っ黄色な前髪は鷲掴みで引っ張られてるのだから。

急な痛みにつられて、僕の眉間もつり上がる。

その反動で瞳が自然と細まり…………それが奴的ヒットだったらしい。

「そうそう、そうやって睨んでる顔の方がいい。女は少々、反抗的な方がいい。

その方がこれから楽しませてもらえるというものだしな!」

ビクッ

真っ直ぐ目があった。

濁った瞳。前方しか見てない瞳。

(――――こわい、恐い!!)

一気に怯む。さっきまでのカス程の反抗心、一気に削がれてしまう。

ルカは完全に忘れていたのかもしれないし、知らなかったのかもしれない。

自分が今、女の子進化途中なこと。女の子一人に課せられる価値のこと。女の子一人が、………………男の集団前にしてどれだけ非力なのかということを。


「や、止めっ!!」

震える足は震えたまま役立たず。腰は砕けちゃって、もう太ももから地面の冷たさが伝わってきてる。

やっと状況理解出来てきた脳が指令を出す、「逃げろ」と。

だけど現実に反映出来たのは「現実逃避」だけ。目のみ、必死に怖さから逃げるためにきつく閉じてしまった。最悪な状況。言の葉震えて、振動だけで助けが来ないことを自分自身に伝える。悪循環。

「座り込むなよっ。オラっ、さっさと立てよっ」

パシッ

苛立つような、急かすような。

誰かがルカの頬を強く叩いた。

その痛さから、ついに耐えきれず目尻がジワリと熱くなる。





――――情けない。

情けなさすぎるだろ、自分。





必死に抵抗したが、ついにワンピースの襟に手をかけられてしまった。

熱を帯びたゴツゴツした手。反対にすっかり冷え切り怯える、自分の小さくなった肩。

気持ち悪い温度差なんて、知りたくも無かったし、経験もしたくなかったのに。


諦め20%、助けにすがる他人任せ80%


(例え、リース達が今助けに来てくれても……この状況、知られたら嫌だなー。

てかなんでこんな時に、ニコはいないんだよー。ソフィーさんも何で財布盗られちゃうんだよー)

いっそ男たちがこのままワンピース引き裂いて、実は男でしたとバレた方が良いんじゃないか。

その場合、その後の仕打ちが僕の想像内で済めばいいのだけれど。


男たちの存在無視して、現実を出来るだけ遠ざけて、

ルカは憮然と青いままの空を見た。こんな時でも空は青かった。

(もし助けが来るんだったら……優しい見ず知らずの人がいいなー)

無茶ぶりを天に願ってみた。いわゆる神様頼みってやつ。

目ん玉の黒いところ、瞳に空をいっぱい吸い込ませて。

すると、そらから対照的に黒い点が落ちてきて………………って、影?




ヒュっと風が真上から降ってくる。カッコイイセリフとともに降ってくる。




「――――ちょっと止めてくれないかな、君達。

そんな汚い手で俺の大事な婚約者ファインセ、汚さないでくれたまえ」



ルカの願った通り。

優しそうな笑顔で見ず知らずの青年、空から助けに降りてきた。









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