第16話 目覚めよ、僕のアビリティ―♯4
「リースさんっ!!」
涙で滲む視界の中。
映るのは、灼熱の炎を振う真っ赤な救世主。
「ルカ君!
大丈夫でしたか?」
振り返りながらそう優しくたずね、そっと手を差し伸べてくれたルカの救世主、リース。
その差し出された手を掴むルカの中で、これまで以上の急上昇、リースの株。
「はいっ!!」
(もう、一生この人にならついて行ってもいい!!)
ルカはどこか熱のこもった目でリースを絶賛尊敬中。
そんなルカの耳にはもちろん、
「こらっ、リース!!
それじゃあ、ルカ君のテストにならないじゃない。
もう、そのまま死にそうになるまでほっとかなきゃ」
とかいう、ソフィーの悪魔の声は聞こえない。いや、聞こえないふり。
「すみません。
つい、手が出ちゃって」
そう謝るリースの手だけをソフィーは引き、グイッと結界内へと連れ戻す。
「別にリースさんが謝ることじゃ無い・・・・・・って僕も入れてください!!」
リースだけ。
ルカは今だに結界の外。
「だから、これは君のテストだって言ってんでしょ」
少しの苛立ちがソフィーから見え隠れしている。
「・・・・・・はい、ごめんなさい」
そんなソフィーに逆らうほどの力は残念、ルカには持ち合わせていない。
「・・・・・・リースさんは“能力者”の魔術師なのに、媒体や詠唱を使っているのですか?」
結界内へと戻ってきたリースに、ニコは一つお礼を言い、リースの持っている大きな本に目を向けながらも疑問を口にした。
「!!・・・・・・あぁ、これのことですか。
いやー、お恥ずかしいことなんですけどね・・・・・・私、“能力者”の魔術師なんですが同時に“現実主義者”でして。
・・・・・・そのー、想像を能力の主とする魔術師なのに、その想像が苦手でして」
ああ。
そこでようやくニコは納得する。
「だから、その本の内容などを補助に想像力を膨らませ魔術を使っていた、ということですか」
「はい、ニコさんの言うとおりです」
ほのぼのとした感じに話し合う二人。
しかし、二人の周りの和やかな雰囲気はある重大なことを忘れさせていた。
「ちょーと、これやばいんじゃないの・・・・・・?」
流れるのはもう涙ではない。冷たい冷や汗。嫌な汗。
さきほどのリースの攻撃、一時的にはルカを助ける形になったものの、今思えば余計な手だしだったのかもしれない。
「あーあ、言わんこっちゃない。
狼頭、本気になっちゃってるねぇ」
結界の中、のほほんとあの後二人の世界へと旅立った二人以外のもう一人、ソフィーが大半が炎にやられて真っ黒コゲになった狼頭の群れをみて冷静に呟く。
ソフィーの言うとおり、狼頭の目が完全に変わった状態でルカを見据えている。
それもそのはず。
まず、いっぱいいた群れのほとんどをヨークに切り刻まれ。
次に、残党の大半をリースに焼かれ。
狼頭もさすがに黙っちゃいない。
もうこれ以上倒されては、彼らの群れが亡くなってしまう。
「うわぁ、本気モードだ。
僕、無理だよぅ。こんなの相手にしろって・・・・・・って、そういえば!!」
そこでルカはある人物を思い出した。
この狼頭に大打撃を加えたあの男が、まだ結界外にいるじゃないかと。
「ヨークさん!!」
声を張り上げ、すがるような目で狼頭の残党よりもっと向こう。
森の奥にいるはずの彼を見た。
しかし・・・・・・しかし、彼はルカの期待を瞬時に裏切る。
「そ、そんな、倒れてるなんて・・・・・・」
倒れていた。
緑生い茂る森の中、周りの血の海を気にもせず、こと切れたように堂々と倒れていた。
今のヨークには先ほどの勢いの面影も、また、いつものあの消極的な活動さえも行う力がなさそうだ。
そんなヨークを見て、ソフィーはルカの疑問に答えた。
「あー、さすがにタイムリミットが来たようね。
ルカ君、残念でしたー。
ヨークはね、一時的にアタシの力で“人間”以上の身体的能力がグンと上がり、その魔術の副作用で性格は狂気的なものに。
また、その狂気的な性格もプラスとなって、さっきみたいな無敵なヨークが出来あがっていたの。
でもね。
これまた副作用で、その一時的な身体的にも精神的にも跳躍を見せた後、かなりの力の消費から一気に体が最低限必要な活動以外、全てオフモードになっちゃう。
つまり、今のヨークは生きている半面、死にかけている状態。
だから、今のヨークにはルカ君を助けることなんて出来ないの・・・・・・おわかり?」
サー
一気に血の気の引ける音が聞こえる。
(えっ、じゃあ、今、僕、本当のほんとーに、絶対絶命の危機なんじゃあ・・・・・・)
グルルルルルー
狼頭がいっせいに牙をむき出しにして、ルカを睨み据える。
やばい。
本当にやばい。
狼頭が右足を後ろに力を込め始めた。
やばい。やばい。やばい。
狼頭が武器を構え始めた。
やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイやbどうずる。どうする。どうする。どうする。どうする。どうする。どうする。どうする。どうする。どうする。どうする。どうする。・・・・・・・どうしたらいい。・・・・・・どうしたらいいんだっ!!!!!!!!!!!!
遠くからドドドドっていう地響きが聞こえてくる。
狼頭たちが、ルカ目がけて走りだしたのだ。
カチッ。
何かが困惑するルカの頭の中で一致した。
何かが困惑するルカの頭の中で蘇った。
「あっ、思い出したかも・・・・・・」
そうルカが呟いた時、もう狼頭との距離はわずか。
だけど、もうルカは慌てない。そもそも、何故慌てる必要があるのだろう?
ボソリ。。
「・・・・・・僕は最強なのに」
ブチッ
ルカは何の躊躇いもなく、右手の親指を歯で嚙み切った。
痛い。
でも、こんなのへっちゃら。慣れてるから。
滴る自身の鮮血。
でも、気にしない。それよか、もっと出さないと。
自らの血をドバドバと地面に垂らしながら、ルカは口から滑るようにその詞を吐いた。
「さぁ、出でよ。我、願った。
さぁ、出でよ。我、命ずる。
聖なる水を操る女神、テフヌートよ。我に従うべし。
さすれば、汝の願いを叶えようぞ。
―――来いっ、テフヌート!!」
赤黒い鮮血は、清らかな光へと変わり。
ルカの足元から彼女を召喚する道となったのであった。




