第13話 目覚めよ、僕のアビリティ―
鬱蒼と生い茂る森。
時々、どこからか獣の遠吠えが聞こえてくる。時々、どこからか何かの悲鳴が聞こえてくる。
お昼前のはずなのに、暗い雰囲気が漂うその森は、“第八周円状”と“第七周円状”の国境に位置する“第八周円状”領内の北の森・・・・・・通称“叫びの森”。
「さーて、そんじゃあ試験のためにも準備するか!」
そう言うとソフィーは、ルカとニコに立ち位置を指示してきた。
「はい、ルカ君はこっち。猫ちゃんはこっち・・・・・・」
立ち位置はこうなった・・・・・・中心にソフィー。その二歩前にヨーク。そしてリースがソフィーの数歩後ろに。ルカとニコはリースの左隣へ。
(フォーメーションとかあるのかな?
ソフィーさんなら「あっ、もう適当に戦っちゃって」とか言いそうと思ってたのに)
意外だ。
ソフィーのちゃんとしたリーダー的な指示に従いながらも、ルカは一人感心した。
「じゃ、始めるから・・・・・・そこから一歩も動かないでよね?」
言葉の後半、ソフィーの顔が真剣なものとなった。
そう思っている内に、ソフィーが身につけている指輪やピアスなどのアクセサリーが、様々な色を放ちながら、全ていっせいに光り出す。
「“子供が笑う 丘の上で笑う 見えし世界は 最悪の楽園 災厄の女神が 歌う鎮魂歌”
今、求めるは結界。
願いしは光の精霊の助力。我の考えを実行したまえっ!!」
ブワッ
はっきり言って凄いと思った。
凄くて、その迫力に飲み込まれてしまって。僕は言葉も出ず、ただただその光を見つめることしかできず。
ソフィーの詠唱が終わるとともに、光はさらに増幅していった。
そして、広範囲に配置されているルカを含めたレチア組員全体を覆うように、眩しくて、それでいて母のように優しい光が球状に広がる。
「うわぁ・・・・・・」
やっと出た言葉が、ありきたりな驚き方で少し後悔。
しかし僕の少ない語いの中で、一番大きく素直な驚きの表現を選んだらこうなったのだから、仕方あるまい。
「ソフィーさんは、“半人間”でありながら、私の知っている中で最高の魔術師です。
彼女の魔術は、本当に凄い。“半人間”のため魔力が少ないのが惜しすぎます。
そんな素晴らしいソフィーさんを、人々は尊敬と皮肉を込めて“光の魔術師”と呼びますが・・・・・・今のを見てたら、ルカさんでもその由来が分かったのでは?」
「うん、凄い!!」
リースの説明に、ソフィーへの尊敬が込められているのがよくわかる。
魔術を実行しているソフィーの姿は、本当に格好いい。
「さてさて、今、アタシはアナタ達の周りに結界を貼らしてもらったわ。
この光の枠内から出ちゃダメよ」
そう言うソフィーの声はいつもの声色に戻っていた。
しかし、彼女自身、気を抜いたわけでは決してない。
ほら。
口もとは笑っているのに、目は全く笑ってないでしょ?
彼女は、今、真剣なのだ。
(僕も・・・・・・召喚術がどんなのか全くわかんないけど、気を引き締めなきゃ)
「じゃ、リース。
例のヤツ、放り投げちゃって」
「はいっ」
(例のヤツって?)
何だろうと、リースの方を見てみれば、いつの間にかリースの右手に筒状の物体が握られていた。
その筒状の物体の端っこに出ている紐。
リースはこの紐を引っ張って抜くと、素早く結界の外。緑が生い茂る森の中へと投げ込んだ。
プシュー
結界の外でもよくわかる。
その投げ込んだ筒状の物体から、何やら凄まじい匂いがしそうな、何ともいえない色の煙が出ているのを。
「あの臭そうなの、何ですか・・・・・・」
「あれはモンスターを誘き寄せるための道具ですね。
きっと、今回のテストのターゲットをこちらへ誘うためでしょう」
ルカの質問に、右横にいるニコが答えた。
そのニコの答えに、ソフィーがより詳しく説明を付け加える。
「そうそう、猫ちゃんの言う通り。
―――今回狙うのは、この“叫びの森”を縄張りとしている中級モンスター・・・・・・“狼頭”よ」
ソフィーがモンスター名を言ってくれたが・・・・・・
(ゴメンなさい。
僕にはどんなのか名前だけじゃ分かんないよ~)
ゴメンなさい。箱入り息子なもんでして・・・・・・はい。
ニコはそんなルカのことを、ちゃんと分かってくれている。
「“狼頭”とは、その名の通り、頭が狼そっくりなモンスターでして。
頭以外は人間で、もちろん二足歩行で攻めてきます。
しかし、頭が狼なせいか。どうやら、脳みそも狼なようで、敏捷力は人間以上ですが知能は狼以下にバカです。
まぁ、簡単に言うと目の前の敵を何の考えもなく真正面から、力技で攻めてきますんで」
「うん、ニコの説明よ~くわかったよ・・・・・・想像するよりも早く、もう視界が届く範囲にいるし」
ウォーン
狼の遠吠え。一つ、また一つと増えて、ルカ達の鼓膜を震わす。
ターゲットは早くも。
異臭に誘われて、やってきたのだった。




