表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーフェミアは今日も眠い。  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/115

派閥の分裂 ― 正義を求める者と演劇を求める者

大広間に並ぶ椅子は二つの陣営に割れた。

敷き詰められた絨毯の中央に銀の燭台が立ち、炎は静かに揺らぎながらも、参列者たちの声に陰影を与えていた。


「泣かぬのは、未熟な証左だ。」

先に声を上げたのは、嫡男を三人抱える名門バルドゥス家の当主である。

椅子の背もたれに指を叩きながら、彼は淡々と語った。

「王子殿下に救われた娘であれば、その恩を涙で示すのが自然だ。

感謝も恐怖も見せぬとは、いささか態度が横柄である。」


その発言に、彼を支持する者たちが同調する。

白い手袋が輝くほど拍手を打つ者、眉を吊り上げながら義憤を語る者。

彼らはユーフェミアを**“導かれるべき姫君”**の役に押し込め、そこに居心地の良い構造を築く。

彼女が沈黙を貫くたび、彼らの信仰は歪んだ救済の形を取って膨張していく。


対して、もう一方の席では囁きが交わされた。

豪奢な扇の陰で交錯する青い瞳、計算に満ちた声色。


「寄付者を集めるには、心を揺らす悲劇が不可欠です。」

「彼女の涙が舞台の幕を開く鍵なのです。」

——王家のイメージを磨く宝石細工師。

——社交界に人脈を編み込む投機家。

――王都を“感動の劇場”に変える興行師。


彼らにとってユーフェミアは、顧客の涙を喚起する装置であり、人格ではない。

脅迫状の封を切ろうが破ろうが、恐怖の真偽などどちらでも良い。

必要なのは、「弱く震える少女」という購買可能な物語の供給だ。


Aは信仰の名で支配を望み、

Bは計算の名で感情を収奪する。


どちらも、ユーフェミア本人の意志を見ていなかった。

彼女がどのように息をし、どのように歩み、どんな言葉を心に抱くか――

そんなことは、会議のどこにも議題として存在しなかった。


沈黙だけが、広間の高い天蓋に昇っていく。

やがて誰かが気づくだろう。

ユーフェミアが泣かぬのではない。

この王都こそが、彼女に泣く価値を示せていないのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ