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ユーフェミアは今日も眠い。  作者: 南蛇井


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王子陣営への報告 — “演出の破壊”

王子陣営の作戦室は、戦場でもないのに冷気が張り付いていた。

報告書の紙面は白い――だが、その空白こそが敗北の証である。


参謀たちの声は、いつもより低い。


参謀A

「……脅迫状を受領、開封せず、机の水平維持に使用……」

彼は読み上げながら眉間を押さえた。

「反応なし。挑発効果、発現せず……と記録されています」


参謀Bは報告書を覗き込み、信じられないというように首を振る。

「“脅迫状としての役割を果たさなかった”……

これ以上、何を書けと言うのです? 悲鳴の一つもない」


報告文の余白は、巨大な沈黙を抱えている。

言葉にならなかったすべての感情が、そこに埋められたかのように。


沈黙を裂いたのは、机を叩く音――だが怒号ではなかった。

ライナー王子は拳の痕を木面に刻み、そのまま呟いた。


ライナー

「脅迫は挑発ではない。

悪を演じる舞台装置だ。恐怖を見せ、憎悪を燃やすための幕だ」


その声は、芝居の暗幕の裏で独りごちる役者に似ている。

観客に届かない声。届かぬがゆえに、どこまでも痛々しい。


ライナー

「奴はそれを……家具にしたのか」


参謀たちの目が揃って浮遊した。

怒るべきなのか、失笑すべきなのか、判断の軸を失っている。


英雄の剣は、怪物の喉元に突き立てられて初めて輝く。

だがここには怪物はいない。

挑発も悲鳴も、敵意さえ存在しない。


あるのは――机を水平に保った一枚の紙だけだ。


参謀B

「王子……これは……失敗、というより……不成立です」


ライナーは顔を覆った。

敗北すら許されない敗北――認識できない敗北。


それは「攻撃が通じなかった」のではない。

攻撃という概念ごと受け取られなかったのだ。


王子の声は、ひどく静かだった。


ライナー

「……演出が壊された。

剣を握る前に、観客席を撤去されたんだ」


勝利も敗北も成立しない戦場。

ユーフェミアの足元には、感情の瓦礫すら残らない。

ただ、水平に保たれた机だけが規則正しくそこにある――。

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