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無意味の幸福
ユーフェミアの思考は、哲学でも分析でもなく、ただいま目蓋の裏を通過する感覚の実況だった。
鳥の影が、薄い皮膚をなぞる。
片眼の端に落ちた黒い線は、太陽に墨を置いた誰かが、
気まぐれに指でこすって滲ませたかのように広がっていく。
その揺れを追うのが、きわめて愉しい。
芝生の葉は一本一本が、王家式典の兵士よりも律儀に整列していた。
色は緑、背丈は均一、光の反射すら統制されている。
踏みつけるのは申し訳ない、と一瞬思う。
だが疲労の前では礼儀も忠誠も敗北する。
この世界で最も偉い神は、眠気だ。
誰かに見せるための仕草も、意図的な侮辱もない。
ただ目蓋を通過する影や、背中で分解される草の弾力に身を委ねる。
それらは構造を持たず、意味を形成しない。
制服の皺のように、ただそこにあるだけの断片。
——期待に対して、無意味で応える。
それは沈黙の皮をかぶった知的な反逆であり、
喧騒から逃れた少女の、もっとも純粋な幸福でもあった。




