イベントの終幕:空白の拍手
壇上の魔導字幕装置が、遅れて発火した焔のように青白く光を放った。
宙に浮かび上がった文字は、どれほど気合いを込めた職人が彫ったのだろうかと疑いたくなるほど古典的で、平凡だった。
――祝 入 学
その文字を合図に、会場のあちこちで拍手が散発した。
しかし、起点がない。
誰かが立ち上がり、喝采の波を作り出すべきだった。
英雄は壇上で悠然と片手を上げ、観客はそれに応じる――物語に刻まれた予定調和は、ただ一名の不在によって崩壊していた。
音はあるのに、呼応がない。
拍手は、池に落ちた小石が作る波紋にも似て薄く、かつての栄光を思い出すこともなく消えていく。
誰もが視線を周囲に巡らせ、誰かが盛り上げてくれるはずだ、と互いに期待する。
しかしその「誰か」は存在しなかった。
壇上の司会官は、困惑を巧妙に隠そうとしてうまく隠せていない。
次の台詞を読み上げる声は、準備された祝辞をこなすだけの乾いた自動機械のようだ。
英雄不在の英雄劇。
最初に回るべき歯車が、回らなかった。
ただそれだけで、後続の全工程は軋みを上げて崩れていく。
祝祭とは、熱狂の源泉がなければただの集合でしかない。
拍手は続かず、誰も笑わず、誰も歓声を上げなかった。
舞台の幕が下りる前に、すでに観客席の心は退場していた。
不自然な沈黙が空間に残り、天井の魔導照明は場違いに明るい。
その光は、始まるはずだった物語を嘲笑うかのように、無慈悲に一同を照らすのみだった。
そして、入学式は終わった。
何も始まらないまま。




