余韻:静寂の支配
扉が閉じる音は、紙を一枚伏せるほどの微かな響きだった。
その瞬間から、寝室に満ちる空気はゆっくりと丸みを帯びていく。
余計な気配は去り、残ったのはベッドに横たわる少女と、彼女を包む静寂だけ。
ユーフェミアは、胸の奥に溜まっていた硬い息を吐き出す。
吐いた空白を埋めるように、呼吸は深くなる。
規則正しく、淡々と、まるで世界の鼓動と歩調を合わせるように。
枕は温かい。
羽毛布団は柔らかい。
彼女の身体は沈み、意識もまた、布団の深みに引き込まれる。
この場所では、何かを証明する必要も、勤めの理由を述べる必要もない。
天蓋の薄布越しに差し込む朝光が、静かに広がる。
先ほどまでは冷たい白だったそれが、今は新雪のような柔らかさを帯びていた。
まるで「行かない」という選択そのものを肯定するかのように。
祝福の光は、部屋の一角からもう一角へ、ゆっくりと浸透していく。
眠りはまだ来ない。
だが、それでいい。
ユーフェミアはまぶたを閉じ、深く沈む感覚をただ受け入れた。
静寂は支配者のように振る舞い、
今この瞬間だけは、彼女を唯一の領主として迎え入れていた。




