表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーフェミアは今日も眠い。  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/115

クラウスの間:プロフェッショナルの沈黙

 執事クラウスは、そこでようやく沈黙した。

 驚愕を露わにするでもなく、説教の言葉を選ぶでもない。

 ただ一度、まぶたをゆっくり閉じて開く。

 薄い瞬きは、感情の表明ではなく、状況を受け入れるための呼吸のようだった。


 それから、三拍の空白が落ちた。

 寝台の上で羽毛枕に沈む少女──いや、何もしないことに全身全霊をかける存在──を前に、

 クラウスはその沈黙を崩さない。

 怒鳴る必要も、説き伏せる必要もない。

 ただ、この家の執事として最適な処理を選択する。


「……では、学院側へ欠席の旨を。お体のご不調という形でよろしいかと」


 語尾は淡々と落ち、冷たいわけでも温かいわけでもない。

 診断ではなく、報告。

 拒絶ではなく、事務処理。


 ユーフェミアは枕に頰を押しつけたまま、唇だけをゆるく動かす。


「うん。寝る。今日は休む」


 幼児のような肯定。

 だがそれは、わがままとも怠慢とも違っていた。

 生存本能が指示する最低単位の言語。

 クラウスはそれを理解し、否定する権利を持たないと悟っている。


 執事の視線は揺れない。

 ただ、何も破壊せずに世界を困惑させる少女を目に映し、

 一礼して静かに扉を閉じた。


 ユーフェミアの呼吸だけが、寝室に残された朝の空気へゆっくりと沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ