クラウスの間:プロフェッショナルの沈黙
執事クラウスは、そこでようやく沈黙した。
驚愕を露わにするでもなく、説教の言葉を選ぶでもない。
ただ一度、まぶたをゆっくり閉じて開く。
薄い瞬きは、感情の表明ではなく、状況を受け入れるための呼吸のようだった。
それから、三拍の空白が落ちた。
寝台の上で羽毛枕に沈む少女──いや、何もしないことに全身全霊をかける存在──を前に、
クラウスはその沈黙を崩さない。
怒鳴る必要も、説き伏せる必要もない。
ただ、この家の執事として最適な処理を選択する。
「……では、学院側へ欠席の旨を。お体のご不調という形でよろしいかと」
語尾は淡々と落ち、冷たいわけでも温かいわけでもない。
診断ではなく、報告。
拒絶ではなく、事務処理。
ユーフェミアは枕に頰を押しつけたまま、唇だけをゆるく動かす。
「うん。寝る。今日は休む」
幼児のような肯定。
だがそれは、わがままとも怠慢とも違っていた。
生存本能が指示する最低単位の言語。
クラウスはそれを理解し、否定する権利を持たないと悟っている。
執事の視線は揺れない。
ただ、何も破壊せずに世界を困惑させる少女を目に映し、
一礼して静かに扉を閉じた。
ユーフェミアの呼吸だけが、寝室に残された朝の空気へゆっくりと沈んでいった。




