表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/37

6.元英雄、家族になる

 俺は魔力を町全体に広げる。


「くっ……」


 あまりの反応の多さに一瞬立ち眩みがした。

 この規模で魔力を広げて、反応を探るには体力と精神共に負担が強い。

 それでもその中から小さな反応を探す。

 家にいる者はきっと違う。

 二人でいるのも違う。

 マオは一人でいるはずだからな。

 近いところから順番に探していくしかない。

 まずは近くを走っている子どもの元へ向かう。


「あの子か……いや、青だから違う」


 一瞬、マオかと思ったが髪色が青みがかっていた。

 身長もわずかに大きい。


「次は路地裏か」


 俺は路地裏に入っていく。

 あまり入りたくはないが、ここが一番一人でいる子どもが多いからな。


「お腹減ったよ……」

「我慢しろ!」


 聞こえてくるのは空腹に耐える子どもたちの声。

 どこにいてもこういう人たちがいるのは当たり前だ。

 俺はコソッと傷を治して、体を綺麗にする。


「わぁー、ポカポカする」

「何が起きたんだ……」

「兄ちゃん、お金が落ちてる!」


 そっと彼らの足元にお金を置いて立ち去る。

 お金を渡したからって解決するわけではない。

 偽善者と言われたら、そう思うだろう。

 今までの俺もそう思っていたからな。

 だが、マオと出会ってから、気のせいかもしれないが、何かがほんの少し変わった気がする。


「あいつどこに……」


 路地裏を探しても、マオの姿はなくどこにも見当たらない。

 一人でいる小さな反応は全て捜した。

 まさか一人で家か森に帰ったのだろうか。

 森の中には魔物がいなくても、町の周辺には魔物は存在する。

 それに魔物が近寄って……ない。

 さっきまで近づいていた魔物の反応はなくなっていた。


「ってことは泣いてないのか」


 胸の奥がそっとゆるむ。

 泣いてなければいい。きっと大丈夫だ。

 まぁ、町が無事だったのもあるしな。


 再び歩き出すと、何か人集りができているとところが目に入った。

 俺はゆっくりと姿を隠しながら近づいていく。


「お嬢ちゃん、よく食べるなー」

「おいし!」


 そこには肉串を両手に持って、頬張っているマオの姿があった。

 すでに食べたと思われる串が山積みになっており、無邪気に笑いながら次の串に手を伸ばしていた。

 ただ、売り物だとわかって食べているのだろうか。


「それでお嬢ちゃんはお金を持っているのか?」

「にゃい!」


 さっきまで笑っていた店主の笑顔が凍りつき、眉間にシワが寄った。

 どうやら俺の予想は当たっていたようだ。

 あいつは本当に手がかかる魔王だな。


「お前みたい子ども、この世には――」


 俺は店主が言い切る前に姿を現す。


「申し訳ありません。うちの子が勝手に食べていたようで……」

「おお、その子の父親か! ちゃんと面倒を見てもらわないと困るよ!」


 俺はすぐに間に入って、ペコペコと頭を下げる。

 元社畜の俺にとったら、部下のミスで取引先に謝りに行っていた日々に比べれば、マオの尻拭いなんて可愛いものだ。


「パパ、おじしゃんが――」

「さっきもたくさん食べたのに成長期でして、これで足りますか?」


 俺は金貨一枚をこっそりと手渡す。

 子どもに気前よく肉串を渡し、後から保護者を見つけて迷惑料も含めて金を巻き上げる。

 そんな手口は珍しくもない。

 もちろんあの店主の考えていることはわからないが、揉めごとを起こすのは得策ではないだろう。


「もしまた何かあったら、その時は助けてくれ」


 そう囁くように店主に伝えると、金貨を指先で受け取り、ニヤリと笑った。

 これでマオが何か問題行為をしたとしても、止めてくれるだろう。


「さぁ、帰るぞ」

「やっ! パパはマオをしゅてたんだ!」


 さっきまであんなに嬉しそうに肉串を頬張っていたのに、思い出したかのようにマオはそっぽ向いている。


「はぁー、俺はお前を元のところに返し――」

「やっ! マオはパパといりゅ! ずっといっちょがいいの!」


 必死に何度も訴えてくるマオに俺はハッとさせられる。

 マオと関わろうとしなかったのは俺の方だった。

 この世界のことは大好きだが、嫌なことは避けていた。

 魔王でなければよかったと思いたかったし、魔王だとしても面倒ごとには関わりたくなかった。

 もう面倒ごとはごめんだと、無意識に距離を置いていたのかもしれない。

 でも、俺の袖をギュッと掴んで、泣きそうな顔で訴えてくるこの子をどうしても突き放せそうにない。

 たとえ、魔王だとしても――。

 たとえ、この先に厄介な未来が待っていたとしても――。


「わかった。俺はずっとマオと一緒にいる」

「ほんちょ?」

「ああ、嘘じゃない」


 マオはしばらく俺をじっと見つめていたが、やがてふにゃっと笑った。


「じゃあ、マオはパパのこと、いーっぱいすき!」


 勢いよく抱きついてくる小さな体にふらつきながらも、俺は優しく抱きしめ返す。

 そのぬくもりは、若い頃に忘れた何かを思い出させた。


 マオが魔王なら俺が変えればいい。

 心優しく、人間と共存している魔王がいてもおかしくはない。

 そんなゲームも過去にはあったからな。

 面倒ごとだと思っていたはずなのに、今は少しだけ未来が楽しみになっている自分がいた。

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。

よろしくお願いします(*´꒳`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ