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File:07 ようこそネオトーキョーへ

 マイマイは操縦だけなら右手を添えているだけでいい。つまり、左手はフリーなわけである。


 装甲義体(ハードウェア)指鉄砲(フィンガン)を素早くスナップさせると、掌から空薬莢が排出されていく。


 古臭いと言われるかもしれないが、自動装填(オートマチック)は信用していない。必ず自分で薬室(チャンバー)へ込めることにこだわっている。


 鉄の左手が軽くなったのを確認すると、空薬莢がパラパラと地面を叩くのが耳に入った。


 ゴミを置いて行くのはマナー違反だが、どうせ後ろの荒くれ共も撒き散らしているのだ。数発くらい誤差だろう。


 そのまま手首で胸を下からポンと叩き上げると、谷間から弾薬が跳ね上がってきた。


 女は隠し持てる『秘密のポケット』が多くても、あまり見た目に違和感が無いので本当に助かっている。セクハラまがいの身体検査でも受けない限りは──であるが。


「リロード──セット」


 それらが漂っている内に、すかさず左手でキャッチしていく。手首と掌の間に開いた弾倉(シリンダー)へ滑らせたのだ。


 最後に手首を閉じてシャカシャカと振ると充填完了。指先一つ一つに弾が込められた。


「スコープ展開、狙いは──ヨシ!」


 続けて左手の親指が変形する。カパッと外れて真っ直ぐに伸びたその形は、まさに円筒状の望遠レンズ。


 ボクの義眼機能(アイ・インプラント)と同期させ、1秒ほどでチューニングを済ませた。


 丸い視界の先には、ゲートの上部からせり出ている自動迎撃システム(タレット)、その銃口。


1発(ワンショット)……それで終わらせます。 こちらはコーポと違って懐事情が寂しいものでしてね──」


 手は人差し指だけを伸ばした、まさに指鉄砲にして握りしめる。


 有言実行、この一本、この一発だけで、天井からぶら下がるあの強固な鉄の塊を機能停止に追い込むつもりだ。


【チェック:タレット】

 第一陣の職員をミンチにし終えて満足したのか、次の獲物を探している。

 接近すると、こちら気が付いて銃口を向けて来た。

 相手は人間とは違い、フェイントには引っ掛からない。間違いなくボクを狙い続けるだろう。


(それでいい──いえ、それがいいんです。 かえって好都合)


 機械は寸分の狂いもなく、真っ直ぐにボクを射線へ入れてくる。


 つまり、ボクから見ても絶対に射線が通っているわけだ。


「頭の良いキミに、一つ教えてあげましょう。 撃たれる前に撃つ……この街で生き残るための鉄則ですよ、ブリキの缶詰君」


 スコープ越しに、ライフルリングの奥で眠る弾薬がキラリと光るのを捉える。タレットが装填済みであることを確認。


 残念だが、その弾はもう日の目を見ることはない。ボクの放った弾丸が正面衝突するからだ。


『パンッ──ボォンッ!!!』


 向こうの方が一回り程、銃の口径が大きい。曲芸じみてはいるが不可能では無かった。機械の精確さが裏目に出た結果なのである。


 内部で暴発を起こしたタレットはすぐに火花を散らし始め、大きな炎を上げると黒煙に包まれてしまう。


「レッスン終了。 授業料として、この子は貰っていきますよ」


「綺麗! 光ってるニャ!」


 花火のように舞い散る火の粉。貴重な報酬を痛めないよう、鉄の左手を傘にして子供を守る。


 その熱いシャワーをくぐり抜けて、ボク達を乗せたマイマイが駆けていった。


「ニャ~! 楽しい! 次は、なんニャ?」


「子供にとっては良いアトラクションですか。 番犬をしていたとはいえ、肝が据わっていますね」


 ゲートを抜けると、新鮮ではあるが清潔ではない空気が肺へと飛び込んで来る。この臭い、外へ出れたという証拠だろう。


 黒煙が晴れると、見慣れた超高層ビル群の立ち並ぶネオトーキョーの街並みが出迎えた。


「わ、明るいニャ~! 綺麗!」


「ようこそ、外の世界──ネオトーキョーへ。 しかしこの腐った街を綺麗とは……随分おかしなことを言いますね。 初めて見たのですか?」


「うニャ!」


 猫耳の子は肯定するように鳴いた。首を縦に振りたかったようだが、生憎とシートベルトでガチガチに固めているから頭は動かせない状態である。


【チェック:ネオトーキョーの街並み】

 人類の生息域が一極化した結果産まれた、メガビルディングで形成されるコンクリートジャングル。

 没個性では速攻で埋もれるこの密集度では、必然的に個性と主張が優先される。

 その結果、どこもかしこもネオンが彩り、極彩色のごった煮となっていた。


「歩くだけで日焼けサロンにいるかと思うほどの街です。 あまり直視してはダメですよ」


「ぬぁ……チカチカ、ニャ……!!」


「ああもう、それみなさい……」


 子供の好奇心を甘く見ていたらしい。すぐに忠告したつもりだが、それでも既に遅かった。


 目が痛いのか、ぐしぐしと乱雑に目を擦っているのが視界の端に映る。


 ボクのような義眼はともかく、生身の眼には刺激が強すぎてサングラスが必須。


 ましてや、実験室はボクが入るまで消灯していたくらいだ。まだまだこの眩し過ぎる街に馴れるのは時間が掛かりそうである。


 子供の心配をしていると、背後から再び銃声が鳴り響く。


『パララララ──ッチ、パララララ──』


 何発か、マイマイの後部の『いいところ』に入った。直撃ではないが車体は大きく揺れる。


「テメ、コラ、オラァ!! 逃げてんじゃねぇぞ『玉無し』!! 弾まで無ぇのか!? ちっとは撃ち返してこいやボケ!!」


「久々のゲームだ、俺達を楽しませてくれってんだよぉ!! ウィィィィハァッ!!」


 タレットを破壊したことで発生した煙幕により、一時的にとはいえ目隠しにはなていた。


 しかし、向こうもすぐにゲートを突破し、ボクを見つけてしまったらしい。


 わざわざ拡声器を使ってまで煽って来るとは、よほど暇していたのだろう。


 あるいは、反撃させることで距離を縮めたいのかもしれない。もっとも、ボクの方は雑な挑発に乗る気なんてサラサラ無いのであるが。


「ニャ。 なにか、言ってる」


「あぁ、気にしなくていいです。 アイツ等が自由に無法を働けるのも敷地内だけ──だったら良かったのですが……超巨大企業(メガコーポ)の飼い犬ならいくらでも隠蔽できますからね。 無視が一番ですよ」


 被害が出たところで、訴えても報復が怖くて誰も異を唱えない。


 警察も企業達に支えられているせいでアテにならない。


 そうなると、メガコーポは本当に好き勝手に街中を暴れまわることが出来てしまう。


 それだけに恨みも多く買う。結果としてボクのような者が雇われて、ささやかな仕返しをお見舞いしてやるというわけだ。


「おい──あのクソチビ、路地裏に逃げ込むつもりだぞ! どうすんだ!?」


「うるせぇ! お前らは何のために俺のケツ追っかけてきたんだよ、アァン!? 『ヤク』の打ちすぎで脳がスポンジになってんのかっての!! いいから、三号車と四号車は裏へ周れ、アホんだら!!」


「命令すんじゃねぇよ、クソ! 挟み打ちだな、それくらい分かるわ、ドアホ! そっちも入り口塞いどけよ!」


 四車両とも全て、ぞろぞろとボクを追いかけてきたらしい。


 あれだけいれば一両くらいは施設の鎮圧に残ると思っていたのだが、どうにも妙だ。


 何か考えがあるのだろうか。


「まぁ、全部聞こえてるんですけどね。 全員アホなんじゃないですか……?」


「あほニャ」


 ボクを煽るために付けた拡声器で罵り合う武装警備隊(ガードマン)。あれだけピッタリと並んで叫べば、それはもう煩いことだろう。


 わざとなのかと疑いたくなるほど頭が悪い連中だ。


「おまけに連携はグダグダ、統率は取れていない。 『包囲網に穴がありますよ』と言っているようなものですね」


 というより、これも煽りと同じで誘っているのだろう。


 相手は仮にもメガコーポの私兵。馬鹿なフリして自分達の罠へ誘き出そうという魂胆に違いない。


 普通のソルジャー相手ならこれで騙せたのだろう。


 だが生憎と、ボクは疑い深いことが生業の探偵なのである。ここはあえて騙されたフリで、まんまと騙し返して一泡吹かせるとしよう。


「さて、チビはチビらしく……お言葉に甘えて狭い道へと逃げ込みますか」


 どうせ手の内は分かっている。


 こちらはスラム出身なのだ、ソルジャーくずれの考えそうなことはすぐに思い付ける。


 見え透いた罠くらい、堂々と突破してやれる自身があった。


 ボクはそのままバイクよりもさらに小さな車体を活かし、雑多に立ち並ぶビルの間隙へと飛び込んでいく。

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